大ヒット商品になっている『モチモチの木』Tシャツ

《モチモチの木Tシャツめっちゃクールじゃん。モードストリート感ある》

『モチモチの木』の絵がプリントされたTシャツがツイッターでトレンド入りし、話題となっている。

『モチモチの木』とは作・斎藤隆介、絵・滝平二郎の1971年に制作された絵本。幼い豆太とやさしい祖父の心温まる物語で、小学校教科書にも採用されているため記憶に残っている人も多いだろう。

 そんな『モチモチの木』Tシャツが最初に発売されたのは2019年。以来、再販が繰り返される大ヒットとなっている。今年3月13日には5次受注の予約を開始した。発売元のバンダイの担当者も「ここまで売れるとは予想していなかった」と驚くほどだ。

 なぜ、Tシャツのデザインに『モチモチの木』を選んだのか?

「より多くの人が知っているのはどんな作品なのか、という考えを突き詰めました。結果、多くの人が共通して読んだことのある作品は義務教育の中で触れてきたもの、という結論に行きついたんです」(バンダイ担当者、以下同)

 しかし、教科書に掲載されている多くの作品のうちで、なぜ『モチモチの木』だったのだろう。

『スイミー』『スーホの白い馬』Tシャツも

「まず、自分自身の中で強く印象に残っている作品をピックアップしました。『モチモチの木』以外にも、『スイミー』や『スーホの白い馬』も採用しています。どれも人気ですが、『モチモチの木』の反響は特に大きかったです。この作品の絵がもっとも“Tシャツ映え”したのかもしれません」

 ブームとなった経緯を聞くと、バンダイから発信したというよりも、SNSユーザーが情報を拾い、それが広がったという。

「過去の担当アイテムで言うと、Tシャツではありませんが、『HUNTER×HUNTER』の『HG ゴン』や、『ドラゴンボールZ』の『HG ヤムチャ』などのフィギュアシリーズが同じような売れ方をしました」

 今後も話題にしてもらえるようなユニークなアイテムの企画をしていきたいと意欲的だ。

黒のボディに箔プリが施されていて華やかな1枚。切り絵の風合いが活かされているデザイン

『モチモチの木』のTシャツがなぜここまでの人気になったのか。ファッションコーディネーターの中村康介さんは分析する。

「ヒットしている要因は3つ考えられます。まず、ひとつには『モチモチの木』が中高年世代の“原風景”だということです。子どもたちに認知されているだけでなく、中高年層にも知られていることはヒットした大きな要因でしょう」(中村さん、以下同)

 SNSでも「懐かしい」と感じた中高年が反応しているように見受けられる。

レトロブームで若者に受け入れられた

「今また“ガチャガチャ”も流行しています。しかも、そのカプセルトイには『ジャポニカ学習帳』が小さいアクリルマスコットになっていたり、懐かしい文具が採用されています」

 1980年代に“キン消し”で人気となった“ガチャガチャ”も中高年世代の原風景。懐かしいと感じ、大人たちが購入している。ただ、それは中高年だけでなく、若い世代にも支持されている、と中村さんは見解を示す。

「昨今、若者の間ではレトロアイテムがブームです。例えばY2Kファッションもそうですね。今から約20年前の2000年ごろに流行したファッションで、“Year 2000”の略です(Kは1000を指す)。ミニスカートやルーズソックス、お腹を出すクロップ丈のトップスなど、アラフォー世代が若いころ実際にやっていた明朗快活なスタイルなども、今のZ世代の間で流行しています」

 そんな若者のレトロブームが『モチモチの木』がヒットした2つ目の理由だと言う。

「ファッションや音楽もそうですが、イラストにしてもZ世代では昔のテイストが注目されています。YouTubeチャンネルのアニメコント『マリマリマリー』や、高橋留美子さんの『らんま1/2』、『ミスタードーナツ』の原田治さんのグッズなど、大人から見ればどこか懐かしいものが人気を博している。『モチモチの木』もその流れで若者から受け入れられていることは考えられます」

『モチモチの木』のストーリーを再現すべく、暗闇で木に明かりが灯っているように蓄光素材が

 ‘80〜'90年代のアニメやイラストがブーム。ただ、『モチモチの木』はそれらのポップで鮮やかな絵柄とは違うようだが……。

切り絵の素朴さが“逆に新しい”

「絵の雰囲気は少し怖さがありますよね。ただ、若者の間では“リアリティの回帰”という現象も起こっています。SNSで投稿される絵や写真の加工が行き過ぎている部分があり、無加工のものや、生々しい方がいいという声も出てきています。『モチモチの木』は滝平二郎氏の切り絵作品で、太い輪郭線など切り絵ならではの素朴さを感じさせる。そこが生々しいと映り、評価されたのではないでしょうか」

 この絵のテイストこそが『モチモチの木』Tシャツがヒットした3つ目の要因だと中村さんは分析する。

「このTシャツに真っ先に飛びついたのは懐かしいと感じた中高年層だと考えられます。ですが、大きなヒットとなったのはレトロブームで“エモい”と感じたZ世代にも刺さったことが要因でしょう」

 では、実際に着るとしたら、中村さんならどう着こなす?

「セットアップのジャケパンを着て、そのインナーに『モチモチの木』のTシャツでしょうか。ギャップがあっていいと思いますよ」

 インパクトのあるTシャツだが、中高年でもお洒落に着こなせるはず!