真空ジェシカ
            

 かもめんたる・岩崎う大が、近々きっと話題になりそうだと思うお笑い芸人を予想する連載企画。今回の芸人は真空ジェシカ。

大学お笑いサークルの学生たちからも憧れの存在

 真空ジェシカはここ2年連続でM―1グランプリの決勝にも進出した人力舎のお笑いコンビで、学生芸人として活動中に人力舎からスカウトされたという特殊な経歴の持ち主です。

 ボケの川北くん、ツッコミのガクくん、それぞれが通っていた大学のお笑いサークルで活躍していました。

 人力舎といえば、ネタが強い芸人が集まるイメージがあって、大学生でお笑いをやっている期間中に、そこからスカウトされるというのはいわゆるエリートコースであり、当時からセンスが光っていたことがわかります

 僕が最初に彼らのネタを見たのは、6、7年ほど前だったと思うのですが、その時はボケの川北くんの思想が強そうな雰囲気とネタ全体に漂うブラックな風味が印象的なコンビでした。

 当時の印象で言うと、ツッコミのガクくんの印象があんまりなくて、2人とも線の細いコンビで、数いる芸人の中から頭ひとつ抜きんでるためにはこれからどういう成長をするのかと非常に興味を持ちました。

 これは、学生芸人出身にありがちな弱点だと思うのですが、頭で想像してる面白さを100で表現できる身体が備わっていないというか、そんな印象でした。

 ところが、数年後見た彼らは見事な変身を遂げていたのです。ボケの川北くんの発するボケは、自分の面白さをしっかりと表現しながら、観客の想像を超えていて、以前の彼のボケがモノクロな味わいのものだとしたら、カラフルな色を放つような次元まで突き抜けていました。

 そして、ツッコミのガクくんは、くぐもった低い声の魅力を最大限に活かした発声と落ち着いたおかしみのあるテンポでツッコむスタイルを確立していたのです。

 彼らのネタを一度見てもらえたら、僕が言わんとしていることはわかってもらえると思います。

 線の細かった若者2人は、両方の個性と、それが掛け合わさった瞬間の化学反応のすべてで笑いを起こせる芸人に化けていました。

 大学お笑いサークル出身の彼らですが、今ひそかに熱い盛り上がりを見せている現役の大学お笑い芸人の中には、彼らのスタイルに憧れる芸人が多く見受けられます。たくさんのフォロワーを生むというのはそれだけ魅力的で強固なスタイルを彼らが確立した証拠でしょう。

 ネタ以外のいわゆる平場では、まさに彼らのオリジナリティーが爆発しています。彼らの振る舞いが平場でもこれからどんどん進化していくはずです。

 僕は芸人やアーティストには、初めは誰かのコピーから入る者と初めから自分のオリジナリティーを出す者の2種類いると思っています。

 誰かのコピーから入る者は、売れるためにいずれ自分のオリジナリティーを出す方向に向かい、後者は後者で自分たちに足りない要素を既存のものから拝借したりしていきます。

 真空ジェシカは僕の見解では後者のタイプだと思うのですが、今はいったん自分たちの面白さが最大限に伝わるネタのスタイルを発見したように見えます。ネタに関してはある意味安息の地を見つけたともいえるでしょう。

 そして最初からオリジナリティーのあった彼らは、これからまた自由にネタの翼を広げていくはずです。

 同時に彼らの平場での振る舞いも、いずれ多くのフォロワーを生む境地にたどりつく様もこれから見られると思うと楽しみでしかたがありません。

岩崎う大 1978年東京都生まれ。早稲田大学卒。かもめんたるとして槙尾ユウスケとコンビを結成。キングオブコント2013年優勝。お笑い芸人だけでなく、脚本家、放送作家、漫画家として多彩に活躍中