「2人の子を育てるごく普通のワーママだった私が、SNSに料理動画の投稿を始めたのは2021年12月。趣味の料理を活かして、仕事と子育てで忙しいママの役に立てれば、と思ったのがきっかけでした」と話すのは、爆速レシピクリエイターのおよねさん。
手間を省いて美味しいレシピが評判のレシピクリエイター
手間を極力省いているのに、ちゃんとおいしいそのレシピは評判を呼び、インスタグラムとTikTokを合わせた総フォロワー数は今や28万人を超えた。そもそも料理を始めたのはいつ?
「小学生のころです。私の両親は共働きでしたから、放課後を祖母の家で過ごすことがよくありました。その祖母が大の料理好きで、唐揚げのあんかけやチキンソテーなどさまざまな料理を教えてくれたんです」(およねさん、以下同)
祖母が教えてくれたのは、「爆速レシピ」とは異なるオーソドックスな調理法。
「私にとって料理は丁寧に時間をかけて作るものでした。でも、子ども2人の母となってからは、とにかく忙しくて、料理にゆっくり時間などかけていられない状態に。余裕がなくて料理が好きかどうかわからなくなり、仕事もうまくいかず、人生すべてにおいて迷走している感覚になっていました」
子育てと仕事の両立で悩むワーママは多いが、およねさんもそのひとりだった。
「出産前、仕事はやりたいように、時間を気にせずに働いていました。だけど育児休暇から復帰した後は、夕方までの限られた時間内に成果を出さなければならなくなり、気持ちばかり焦ってストレスがたまるように。そこで転職を決意したのですが、育児と両立できる点を重視して選んだため、今度はやりがいが感じられず、結局その会社も4年ほどで退職しました」
これが2021年の夏の話。同年の秋、およねさんの夫も人生の転機を迎えた。
夫婦で職を失いどん底に
「夫が体調を崩して、退職することになりました。それまでバリバリ仕事をしてきたのに、いきなりキャリアを断たねばならなくなったことが本人もショックだったらしく、メンタルの波も大きくなって。そんな夫を見守りつつ同じ屋根の下で過ごすことに、しんどさを感じたことも正直ありました」
夫婦で職を失って、どん底の状況。周りに相談することもできなかった。
「何を話しても心配させてしまうと思い、自分の親にも状況は伝えられませんでした。親友も子どもを育てながら起業していて、周囲は自立している人ばかりで。そんなキラキラしている友人に現状を話すこともできず、誰にも会わずに過ごすようになりました。孤独感もあったし、周りと比べて卑屈な気持ちになりそうな自分自身も嫌でしたね」
しかし、結果的にこのつらい状況が飛躍のきっかけに。
「夫と2人で毎日散歩したりしながら、いろいろ話をしました。その中で、私たち2人とも『成果がすべて』『母親とはこうあるべき』といった周囲の価値観に縛られて生きてきたことに気がついたんです。そこで、これからは自分が好きなこと、楽しいと思うことをやっていこうと夫婦で決意しました」
そのとき、およねさんの頭に浮かんだのが料理だった。
「私と同じく、時間がないなか、お腹をすかせた家族に少しでも早くおいしい料理を出したいというママはたくさんいるはず。そういった人に向けたレシピ動画を発信しようと思い立ちました」
およねさんはアカウントを開設。夫は再就職が決まり、そこから着々と準備を進めた。
「動画編集の経験はなかったため、独学で習得。慣れないうちは動画を作成するだけで2日はかかっていましたが、好きなことだから苦にはなりませんでした」
トリッキーな時短テクを発明
最初にバズったのは、お弁当のレシピ。
「スープジャーに朝、卵を割り入れると、ランチタイムには温泉卵になります。この簡単で画期的な作り方と、BGMに設定した曲と動画のマッチングがウケたのか、再生数がどんどん伸びていきました」
以降、動画作成では曲選びを重視。
「最初のころは、ひとつのレシピに対して、100曲くらいの音楽を聴き、うまくハマるものを厳選していました。曲が決まらなければ、投稿はしませんでした」
同時に、下ごしらえや洗い物など料理につきものの面倒な作業をいかに省略するかにも力を注いだ。
「その結果、大バズリしたのがシューマイ。ボウルで肉ダネをこねたり皮に包んだりと、シューマイは手間がかかるメニューの代表格。その面倒な工程を省く方法をとことん考え抜きました」
スーパーで買ったひき肉はトレーをバット代わりに肉ダネを作り、それをフライパンに移すという作り方にたどり着く。
「肉ダネの上から皮でおおって加熱して、その後にキッチンばさみでカットすれば、おなじみのシューマイになります。爆速で完成しますが、わが家の子どもたちはこれが大好き。作ると大喜びします」
目から鱗の時短ワザがつまったレシピは注目を集めるようになり、フォロワー数はうなぎ上りに。
「最初はTikTokのほうが人気で、アカウント開設1か月で、フォロワー数が1万人を超えました。インスタグラムが注目され始めたのは2022年3月ごろ。ビビンバと肉巻きおにぎりのレシピ動画がバズり、フォロワーさんが一気に増えたんです」
どちらも調理器具をあまり使わないのが特徴だ。
「ビビンバは通常なら、肉は炒める、野菜はゆでる、という感じで別々に作業します。しかし、私のレシピではフライパンひとつですべての工程を行うため、洗い物が少なくてすむのが利点。このレシピ動画は900万回再生されました」
さらに、肉巻きおにぎりのレシピ動画は2500万回再生と大バズリ。
「通常の作り方ではご飯を握ってから肉を巻くのですが、私はラップの上に肉を並べ、その上にご飯をのせて、ラップごと丸める海苔巻き方式のレシピを考案しました。キッチンも手も汚さず作れて、トリッキーな点がウケたのではないかと思います」
他にも、捨ててしまうブロッコリーの軸を活用したザーサイ風の副菜など、節約と時短を兼ね備えたレシピも好評だ。
それにしても、なぜここまでバズったのか。
「明確にはわかりません。ただ私にとって、バズるのは好きなものを継続した先にもたらされるボーナスみたいなもの。やはり楽しみながら続けるのが一番ではないでしょうか」
動画投稿の励みになるのは、フォロワーからのコメントだという。
《パワフルママが作る家族へのラヴあふれるごはん♪》《笑えておいしくて、家族みんなで楽しめるレシピ!》
およねさんが家族のために楽しんで発信していることはしっかり伝わっているようだ。
<取材・文/中西美紀>