応答くん(ライソン)

 宅配便、フードデリバリーは便利な反面、対面による不安やトラブルを“男性の声”が応答してトラブル回避。

応答くん(ライソン)

 昨今相次いで起きている広域連続強盗殺人事件や特殊詐欺事件。暗いニュースを聞くたびに不安な気持ちになる高齢者や1人暮らしの女性も多いだろう。

 家庭での防犯グッズ需要が高まるなか、とあるアイデア商品が爆発的にヒットしている。インターホンや玄関先で、来訪者への受け答えを男性の声で代わりにしてくれる『応答くん』だ。

本体のサイズは幅60×厚さ25×高さ100mm、重さは電池を含み70gとコンパクト。電池式。価格は2200円(税込み)

「昨年の11月1日に発売を開始したところ、当初の見込みを大幅に上回る反響がありました。初回生産分の5000台がわずか1週間で在庫切れになるほどで、慌てて増産をかけて、2月末の時点で1万台を販売しています」

 そう教えてくれたのは、『応答くん』を販売しているライソン株式会社広報部の三上紅美子さん。開発のきっかけとなったのは、同社の女性社員たちの声だった。

「コロナ禍でネットショッピングや宅配サービスを使う機会が増えていたなか、インターホンで対応する際に“女性の1人暮らしだとバレてしまうのは、防犯上の不安もあるよね”という話が出てきて、その意見に共感する女性社員がすごく多かったんです。そこで、男性の声で受け答えができる機械があったらいいよねという流れになり、2021年に企画・開発が始まりました」(三上さん、以下同)

『応答くん』には16個のボタンがついており、『何の用ですか?』『ありがとうございます』『帰ってください』など、16種類の音声パターンがそれぞれに対応している。

『応答くん』をインターホンや電話口にかざして、伝えたい内容の音声のボタンを押すと、男性の声が本体スピーカーから流れ、代わりに受け答えしてくれるという仕組みだ。

「開発を担当した女性社員が、どのようなセリフが入っていると便利かを社内でヒアリングし、搭載する音声の内容を決めていきました。

 出前や宅配便に対応する際によく使う『宅配BOXに入れといてください』『玄関の前に置いといてください』といったものから、勧誘・営業・不審者などを想定した『いらないです』『今、忙しいんで』『これ以上来たら警察呼びますよ』といったものまで、汎用性の高いセリフを選んでいます」

1人暮らしの女性のほか、高齢者のみの世帯、子どものお留守番でも需要が見込まれる

気になる音声の主は?

 置き配指定をお願いできる音声まで入っているのは、現代ならでは。もちろん、開発の段階で採用に至らなかったセリフもあったという。

「開発時は在宅勤務が普及しはじめていたので『今、リモート会議中なんで』という案もありましたが、最終的にはボツになりましたね(笑)」

 音声の吹き込みを行ったのは、同社の男性社員だ。

「当初はプロの声優さんにお願いする案もありましたが、まずは低コストで発売ができるよう、社内の男性にお願いすることになりました。試作機の段階では、東大阪の本社にいる若手男性社員の声で吹き込んでもらいましたが、愛嬌があるいい声ではあるものの、少し優しすぎるかもしれないという話に。

 そこで、迷惑な訪問を断るときに、いちばん説得力があるのは誰の声だろうという観点で、“あの人しかいないよね!”と大抜擢されたのが、現在の『応答くん』の声の主なんです」

 こうして選ばれた一般男性の“リアルな声”を搭載した『応答くん』。その音声は、たしかに人間味があふれている。

「声自体には迫力があるのですが、荷物を運んでくれる配達員さんなどには高圧的で失礼にならないよう、丁寧に聞こえるように試行錯誤しながら録音してもらいました。搭載された音声のなかには、ちょっと噛みそうになっているものも(笑)。でも、それもまた“リアルさがあっていい”とご好評いただいていますね」

 16種類の音声パターンのなかには、ひとつだけ『ピーンポーン』という電子音を盛り込んだ。これは迷惑電話への対応を想定している。

「強引な勧誘の電話や切りたいけど切るきっかけがない電話の応対中などに『ピーンポーン』のボタンを押すことで、“あ、来客なので電話を切りますね”という流れに持っていくことができて、意外と便利なんですよね」

セールスの電話がかかってきたけど切りたい……そんなときも『応答くん』が活躍

万人受けは狙わず一点突破を貫く

 SNSやメディアでも話題となり、同社には別バージョン開発の要望も届いている。

「関西弁や東北弁などの方言バージョンが欲しいという声はかなり多いですね。あとは、好きな声優さんの声で発売してほしいといったご要望もたくさん届いています。いただいたご意見を生かしながら、新作や関連商品などをちょうど開発しているところなので、ぜひご期待ください」

 防犯や迷惑電話の撃退のためのグッズではあるものの、実際に使うとどこか楽しい雰囲気になるのも、ライソン社の商品の魅力かもしれない。同社は『応答くん』のほかにも、ユニークなアイデア家電やアウトドアグッズを企画・販売している。

『ペヤングやきそば』(まるか食品)を焼くためだけに最適化されたホットプレート『焼きペヤングメーカー』や、わずか58秒でトーストを1枚だけ焼ける『秒速トースター』など、どれもが“謎の個性”を放つ。

「製品を開発するうえで、他社さんにはなかなかまねができない『一点突破』という理念を大切にしています。弊社は工場を持っていないファブレス企業で、社員の平均年齢は33歳くらい。大阪発の小さな会社ではありますが、そのぶん風通しもよく、遊び心のある発明家たちが集まったユニークな会社ですね」

 近年のヒット商品は、コロナ禍での宅飲み需要を反映した『せんべろメーカー』。おでん鍋、焼き鳥網、炙り網、熱燗鍋、とっくり、おちょこがセットになった、まさに“ひとり居酒屋調理家電”だ。

おでん鍋、焼き鳥網などがセットになった『せんべろメーカー』。5980円(税込み)。

「電熱ヒーターで火を使わずに、お酒を温めたり食品を炙ったりでき、手軽に居酒屋メニューが楽しめます。大きめサイズの『にせんべろメーカー』も発売しており、それぞれ販売数3万台を超える大ヒット商品となりました」

 広報の三上さんが「ライソンらしさが詰まった製品」だと紹介してくれたのが『7DAYSサンドメーカー』。

 7種類のプレートを付け替えることで、ホットサンド(2種)、ワッフル、パンケーキ、ドーナツ、ベビーカステラ、焼きおにぎりがこの1台で簡単に作れるという。

ホットサンド、焼きおにぎりなど7種の料理が1台で作れる『7DAYSサンドメーカー』。7000円(税込み)

「1週間、毎日違う朝食メニューになるように、7種類のプレートを付属したというのも遊び心が詰まってるなと思います。個人的には、焼きおにぎりのプレートがツボなのですが……。

 普通サイズのおにぎり2つの型ではプレートの端が空いてしまうので“せっかくだから、空きスペースにちっちゃい焼きおにぎり型もつけちゃおう”となり、ひと口サイズのミニ焼きおにぎりもできるようになりました。これが小さいお子さんなどには好評みたいですね」

 万人受けの家電とは真逆の発想で開発される「一点突破」のライソン製品。『応答くん』も暗い世の中を明るくしてくれる一縷の光……かも?

(取材・文/吉信 武)