松本人志、59歳。太田光、57歳。毒舌に定評のあるふたりだが、最近、レギュラー番組を卒業したり、バッシングされたりしている。
そんななか、やはり毒舌に定評のあるマツコ・デラックスがCMの発表会でこんなことを口にした。
「50代になると、30代とはワケが違くなってくる。ぬるくなったわ。目の前に来るやつをぶった斬って生きていたのに。なんでこんなに丸くなったの、私」
50代は“舌の曲がり角”
マツコは現在50歳。相変わらずの売れっ子ぶりだが、毒舌芸に衰えを感じているのだろうか。
そういえば、島田紳助氏が引退したのは55歳のときだった。この手の人たちにとって、50代は転機、お肌の曲がり角ならぬ、舌の曲がり角なのかもしれない。ただし、マツコの場合は状況が少し異なる。ほかの毒舌タレントが漫才で世に出て、司会などに転じていったのに対し、こちらはまず毒舌家の“オネエ”というスタンスで注目され、コラムニストとして売れてからテレビに進出した。
マツコのような人たちは男性性と女性性とを併せ持つとされ、ジェンダー的にも自由に見えることから、ある意味、無敵だったりする。美輪明宏やおすぎとピーコのように、年齢などに関係なく、持ち味を発揮できるのだ。
実際、前出のCM発表会では、WBC日本代表の佐々木朗希投手に言及。ホテルで偶然遭遇したそうで「かわいかった~」としながらも、
「下ネタとかも言わなかった。下ネタを我慢できる自分がいるんだなって学んだ」
と、いつものマツコワールドを繰り広げた。
そういう意味で、年齢的な衰えは特に感じさせないのだが─。だとしたら、別のことに変化を感じているのかもしれない。実は昨年、マツコは『週刊文春』でこんな発言をしていた。
《いまのテレビはいろんなものが削がれて、平坦で中庸な人しか出られなくなっている。そんな中で、本来テレビに出るべき人って、アタシがその代表格だけど、バケモノであるべきだと思っているから。(略)だって、隣にいる人と大差ない人を、わざわざテレビで見たくないじゃない》
「バケモノ感」の取り扱い方
たしかに、最近のテレビを取り巻く状況は何かと窮屈だ。
例えば、おととし『マツコの知らない世界』(TBS系)で沖縄の特大サイズのパンが紹介された際、マツコはそれを、
「生まれたての子猫ぐらいの重さ」
だと形容した。これを筆者がテレビ誌サイトの面白ネタを拾う企画で「この人なら子猫ぐらい食べられそう」と書いたところ、編集部から表現を少し弱めてほしいという要請が入ったのである。
マツコ本人はこういう「バケモノ」感を弱められたいとは思ってない気もするが、どうなのだろう。
ただ、本人の思惑以外のところでも問題は起こる。佐々木投手をめぐる自虐ネタも、もしかしたら「男性を好きな男性」というマイノリティーの尊厳を損なうなどとして批判されかねないのだ。
「50歳」になって「丸くなった」と苦笑するマツコは、こうしたテレビ、ひいては世の中の曲がり角に合わせて変わっていくことをよしとせず、恐れているのかもしれない。
ちなみに、マツコは木村拓哉と同じ高校の出身で、同学年。クラスは別で、木村は途中で転校したが、共通の友人がいて「自転車置き場で」「ちょろっと話した」こともあったという。
50歳を過ぎてもカッコよさにこだわるキムタクのように、自らの信じる「らしさ」を貫いてほしいものである。
ほうせん・かおる アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。著書に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)。