ジャン=オノレ・フラゴナール《かんぬき》1777-1778年頃。パリ、ルーヴル美術館Photo (C)RMN-GrandPalais(museeduLouvre)/MichelUrtado/distributedbyAMF-DNPartcom

 誰もがいつかは訪れてみたいと憧れるルーヴル美術館。その珠玉のコレクションより“愛”をテーマに73作品を集めた『ルーヴル美術館展 愛を描く』が国立新美術館で始まった。

“曖昧さ”を味わう

 中でも18世紀フランス絵画の至宝とされるフラゴナールの『かんぬき』は26年ぶりの来日。

 舞台は寝室。女性を抱き寄せた男性が、ドアに“かんぬき”をかけようとしている。女性は恍惚感に浸って男性に身を委ねているようにも、身をそらして抵抗しているようにも見える。国立新美術館の主任研究員・宮島綾子さんはこう解説する。

「一義的には解釈できないような曖昧さをぜひ味わっていただきたいと思います。また前回の来日時は“リベルティナージュ”という当時の社会的背景についての研究が進んでいませんでした。上流階級の知的エリートの間で流行した、自由奔放な性的快楽の追求を肯定する動きです。その裏には人々のモラルを支配してきたキリスト教の権威への反発や批判精神があったと言われています。この絵が描かれた約10年後のフランス革命によって、人々の道徳観は劇的に変化し、このようなエロティックな場面を描かれることは非難されるようになっていきます」

愛は普遍的なテーマ

 さらには、フランス新古典主義の傑作と言われるジェラールの『アモルとプシュケ』も。ルーヴル美術館学芸員のソフィー・キャロンさんはこう解説。

「人間であるプシュケに、神であるアモル(=キューピッド)が恋をする神話をもとに描かれています。いくつかの悲劇を乗り越え、ふたりは結婚。幸福な結末を迎えるという意味で、神話の中でも珍しい話です。この作品の滑らかな肌の表現やプシュケがまとう薄衣の表現は、すばらしい技術です。ジェラールの才能が大いに発揮されています」

フランソワ・ジェラール《アモルとプシュケ》、または《アモルの最初のキスを受けるプシュケ》1798年。パリ、ルーヴル美術館Photo(C)RMN-aGrandPalais(museeduLouvre)/TonyQuerrec/distributedbyAMF-DNPartcom

 そんな魅惑の愛の作品の数々について、ルーヴル美術館総裁・館長のローランス・デ・カールさんはこう語る。

「愛というのはやはり普遍的なテーマですし、“愛とは何か?”という問いには多くの答えがあると思います。また愛において、情熱的でドラマチックなのは始まりと終わりで、中間にはあまり激しい動きがないのもひとつの姿かと思います。今回のコレクションをご堪能いただきながら、それぞれ“この作品にはどんな愛の物語があるのか?”と思いをめぐらせていただけましたら幸いです」

『ルーブル美術館展 愛を描く」
国立新美術館(企画展示室1E)にて。6月12日(月)まで。火曜休館。一般2100円など。※混雑緩和のため、事前予約制(日時指定券)https://www.nact.jp/exhibition_special/2023/love_louvre/