森保一監督と栗山英樹監督

 2023年のプロ野球レギュラーシーズンが、3月30日に開幕。サッカーキリンチャレンジカップ2023は惜しくも白星獲得はおあずけとなるも、今後が期待される結果に。日本中が沸き立つ野球&サッカー、選手はもちろんのこと世間の注目を集めるのはその監督もだろう。

 そう、侍ジャパンWBC優勝の栗山英樹監督、第2次政権がスタートしたばかりのサッカー森保一監督。両者に共通する、とにかく“優しくて気のいいオジサン感”に、選手のみならず日本中がメロメロになっているのだ

若者に嫌われない、令和のリーダーシップ論

 森保監督が2010年からヘッドコーチを務めたJリーグのクラブチーム・アルビレックス新潟で、2008年当時19歳で入団しプレーしていた鈴木大輔選手(元・サッカー日本代表/現ジェフユナイテッド市原・千葉キャプテン)は、当時の森保ヘッドコーチの印象をこう述べる。

“とにかく選手をよく見てくれている”人だなと。選手の技術・能力というより、選手の“姿勢”を見てくれて、そこをいつも評価してくれていました。試合や練習中ではなく、ちょっとしたミーティングの後とかにフッと近寄ってきてくれて、いいタイミングで自分がそのときにいちばん欲しかった言葉をかけてくれるんですよ」(鈴木選手、以下同)

「とにかく熱くて優しい、みんなから好かれていて、人格者」だというのは、記憶にまだ新しいカタールW杯で見せたパブリックイメージと相違ない。

選手みんなから“ぽいちさん”って呼ばれていた。当時は僕が20歳そこそこで、森保監督は42歳。まとってる優しさが、とにかく話しやすいんですよね。軽くイジってもOK、みたいな雰囲気があるというか。森保監督、めちゃくちゃ褒めてくれるんですよね。それも、すごい大きな声で褒めてくれる。その褒め方を選手たちで真似したりしてました(笑)

 今や鈴木選手自身も33歳で、所属するクラブではキャプテンを務めるベテランに。チームをまとめる上で思うことは、

10代や20代前半の選手は、チーム環境に対して“能力主義の競争”より“集団としての価値”を求めているケースが多い。だから、人と人との繋がりとか、自分自身がチームでどんな立ち位置にいるかにすごく敏感

 だと言う。

森保監督は、ひとりひとりの選手が“自分のために”ではなく“誰かのために”、チームに必要な自分の特性を出す、ということを選手に意識させているように感じます。なので、そんなリーダーシップが今の若い世代にフィットするんでしょうね

 では、ズバリ令和に必要な、上司・指導者の姿勢とは。

カリスマ性はもう古い? 大切なのは“信じる覚悟”か

 金メダリストを育成したメンタルコーチングで、経営者や管理職を対象にリーダーシップ教育を実施している飯山晄朗氏(人財教育家・メンタルコーチ)は、まずは若者を取り巻く環境から挙げた。

ここまでIT技術が進歩した昨今、Z世代は“正しい情報”にすぐにアクセスできるから、もしネットやSNSで知り得た“正解”と、指導者や上司が言う内容に齟齬があれば、本当にそれで合ってる? と疑ってしまう。

 だからコミュニケーションの基本的な姿勢として、こうしなさいと行動を指示するのではなく、相手が納得するように目的をまず伝えることが先。そして、フィードバックよりも“フィードフォワード”を重視することが大切です」(飯山氏、以下同)

 フィードフォワードとは、過去や成功事例にとらわれるのではなく、将来・未来を見据えて何ができるのかを追求する考え方である。

上司が、部下の好きなYouTuberよりカリスマ性で勝つことはほぼ不可能。まずは自分と部下は、もう真逆なんだ、まったく違うんだということを知ることから始めましょう。日に日にAI技術も進化する毎日で、頭のOSがWindows7みたいな人も中にはいるじゃないですか(笑)

 じゃ、もうそんなおじさん・おばさんは、サポート終了?

自身の成功体験に基づいて自分から話しかけにいくようなことはしてはダメ。相談されて初めて答えてあげるくらいのどっしり感で、まずは自由にやりたいことをやらせてあげて、可能性を信じてあげてみてください。令和の上司に必要なのは、そんな“懐の深さ”と“信じる覚悟”です

 飯山氏は、

WBC準決勝のメキシコ戦、栗山監督は最後、村上宗隆選手でいくと、信じましたよね。バントや代打の選択だってあったシーンで、監督は村上をただ信じた。もしあそこで打てずに負けていたら、非難の対象は監督に集まったでしょう。そこには、これでダメなら自分が全責任を負うという、監督しての覚悟があった

 と述べる。栗山監督と森保監督に共通するのは「高い傾聴力」と「チームビルディングのうまさ」だと続ける。

「選手たちの話をよく聞いているというのは周知の通り。チームビルディングとしての肝は、“チームの核になる人”をちゃんと設定でき、そこを伸ばしていけるか。さらに“そことは対極にいる人”にいかに目をかけてあげられるか。両極端を伸ばすことが、チーム全体としての底上げにつながるからです」

 そして、

スポーツでのチーム作りと、会社での組織作りに大きな違いはない

 と飯山氏。どっしりと若者の言葉に耳を傾け、相手を信じて、責任は負う。大丈夫! 大谷翔平がいる!