新学期シーズンが到来。学生時代を振り返ると、この季節には「どの先生が担任になるんだろう」とワクワクした気持ちになった人も少なくないだろう。
では、現代を生きる若者たちはどのような「理想の先生像」を描いているのか。週刊女性では10〜20代を対象に「先生になってほしい有名人」と題してアンケートを実施。教育現場の今を知る大学ジャーナリスト・石渡嶺司氏に意見を伺った。
先生になってほしい有名人ランキングTOP10
総評として「昭和ないし平成では親世代の触れてきたサブカルチャーや、テレビの影響が大きかった。でも、令和はテレビに加えてYouTubeの影響が拡大した印象を受ける」と石渡氏は解説する。
ランキングで見事1位を獲得したのは、日本テレビのニュース番組『news zero』で長年キャスターを務める櫻井翔(41)。「歴史や政治など詳しく解説してくれるのでわかりやすい」(大阪府・21歳女性)、「ドラマ『先に生まれただけの僕』での校長役のイメージがあるから」(群馬県・20歳女性)の声があり、テレビでの活躍や印象が結果に影響を与えた。ニュース情報番組などで「解説がわかりやすい」(神奈川県・23歳男性)とする声が寄せられた5位のジャーナリスト・池上彰(72)も同様だ。
テレビ露出も多いが、YouTubeでの活動も支持されているのは3位のカズレーザー(38)と10位の中田敦彦(40)だ。カズレーザーは「世間の常識的なことに流されず自分の意見をしっかりと伝えてくれる」(千葉県・18歳男性)とコメント力を評価する声もあり、中田は教養系YouTubeチャンネルの解説が「聞き取りやすく飽きさせない感じ」(東京都・22歳男性)と評価を得た。
ジャニーズタレントのSnow Man・阿部亮平(29)も同様の理由で8位にランクイン。上智大学出身で気象予報士の資格を持ち、クイズ番組でも活躍する姿が支持されただけではなく、「ジャニーズのYouTubeチャンネルなどでの教え方が上手」(千葉県・19歳女性)との意見もあった。
一方、日本を代表する人気YouTuberも相次いでランクイン。先駆者とされる4位のHIKAKIN(33)には「YouTuberになりたい人向けの授業を楽しくやってくれそうだから」(千葉県・20歳女性)と期待する声が寄せられ、7位の5人組YouTuber・コムドットには「生徒と同じ目線で話してくれそう」(大分県・23歳女性)と評価する声も。実験系動画も人気の高い9位のはじめしゃちょー(30)は「理科の先生だったら授業が楽しくなる」(静岡県・24歳女性)との声も多かった。
スポーツ界では、アンケート実施時に野球の国際大会『WBC』の最中だったこともあり、2位には大谷翔平(28)がランクイン。「運動部のトレーニング方法を教えてくれそう」(兵庫県・24歳男性)、「野球の楽しさを教えてほしい」(山梨県・18歳女性)の声があった。6位を獲得したイチローは、引退後に高校球児の指導などに注力しており「人生のためになるような言葉をかけてくれそう」(愛知県・25歳女性)と支持する声も上がった。
この結果に石渡氏は、「アンケート実施がWBC後であれば、優勝に導いた栗山英樹監督も上位にランクインしたはず。日本ハムを率いた時代に大谷を育成、当初不振だった村上宗隆を信じて起用し続けるなど、日本人の心をつかんだ手腕が評価されたのではないか」と推察する。
令和の教育現場に潜む問題点とは?
今をときめく面々が名を連ねたランキングだが、昭和、平成、令和の「理想の先生像」に違いはあるのか。
「昭和から平成中期にかけては、情熱的に接してくれるかが評価されていた印象です。例えば、過去の調査では、金八先生でおなじみの武田鉄矢さん、松岡修造さんやプロ野球監督時代の故・星野仙一さんらがランクインしていました。
ただ、平成後期から現在にかけては熱血指導だけではなく『論理的』であるかどうかも求められるようになった。今回の結果で、イチローさんが上位に入ったのはその理由が考えられます。
また、ネットやSNSなどの普及により、日本人全体の趣味嗜好が細分化しているのも現代の特徴といえます。HIKAKINさんならば『YouTubeを』、阿部さんならば『勉強を』と、子どもたちに限らず、個々の興味に沿ったものを教えてほしいと願う人たちが増加傾向にあると考えられます」
では、保護者側はどんな有名人に先生になってほしいのか。2021年3月に日本生活協同組合連合会が発表した「子どもの担任になってほしいと思う芸能人」では、1位に天海祐希、2位に櫻井、3位に武田鉄矢がランクイン。
「指導者として“しっかりした教養があるか”も現代ではより重視されています。そういう点では、今回のアンケートを保護者側で取った場合、池上さんのランクアップ、林修さんのトップ10入りもあるのでは」(石渡氏)
時代ごとに変化してきた理想の先生だが、実際の現場では教員不足が年々と深刻化。文部科学省によると2022年の公立小学校教員採用試験の倍率が2・5倍と過去最低を記録した。
今、教育現場に潜む問題とは何か。文部科学省が推進する教員発の魅力発信プロジェクト「#教師のバトン」の応援団も務める石渡氏は「給与の安さ」を指摘する。
「公立学校での教員の給与は『教員給与特措法』で定められています。しかし、残業代は月額給与の4%を『教職調整額』として支給するのみで、換算するとほぼ月8時間分程度ですずめの涙。
SNSで発信された『#教師のバトン』の投稿では『時給100円あるかないかの残業代』と嘆く声もあり、教員の不満が噴出し炎上しました。
授業準備や部活動、就業時間外にも保護者から電話やLINEでの問い合わせが相次ぐなど、民間企業であれば『ブラック企業』と揶揄されそうな環境も放置されているのが現状です。
大学の教育学部出身者を歓迎する民間企業も多く、教員志望者低下による現場の疲弊は今後も加速すると思います」
シンプルに「仕事に見合った給与を出すのが改善策」と石渡氏。小学校では英語やプログラミングが必修化され、ネットリテラシー教育の必要性も叫ばれるなど、本来の業務においても教員の負担は増えつつある。
学校で働く教員も人間であり、彼らにも生活がある。「児童や生徒に寄り添う」という本分に余裕を持って臨める日は来るのか。よくも悪くも「聖域」としての役割を求められる教育現場での「働き方改革」が急務だ。
全国の10~20代1000人に聞いた『先生になってほしい有名人ランキング』
1位 櫻井翔 78票
2位 大谷翔平 52票
3位 カズレーザー 48票
4位 HIKAKIN 44票
5位 池上彰 42票
6位 イチロー 37票
7位 コムドット 34票
8位 阿部亮平 32票
9位 はじめしゃちょー 30票
10位 中田敦彦 26票
(取材・文/カネコシュウヘイ)