※画像はイメージです

「自分で画像を見ただけで、進行がんであることがわかりました……」

 そうふり返るのは、元看護師で、現在は臨床研究コーディネーターをしながら、療養中も使える美容健康製品の製造販売を手がけるブロガー・金魚さん。

 看護師として働いていた2014年にステージIIIbの大腸がんと診断された。

きっかけは職場で受けた大腸がん検診

 始まりは、職場で受けた便潜血検査で、「要精査」の通知を受け取ったことだった。

「症状はまったくありませんでした。私はがん専門看護師を目指して研修を受けた経験があったので、自覚症状がないからといって楽観視できないことは理解していました」(金魚さん、以下同)

 早速、大腸内視鏡診断の症例数が多い消化器内科クリニックを調べ、10日後に受診。

「女性に多いのですが、便潜血検査で陽性だったのに、大腸内視鏡検査を受けるのが面倒だとか怖いとか恥ずかしいと、年単位で放置してしまう人も。その結果、手遅れになり、後悔している方を見てきたので、一刻も早く検査を受けなければと。偽陽性の原因になることが多い痔もなかったため、いやな予感が頭をよぎりました」

 結果、その予感は的中した。

「私の腸の病変は、キノコ状のポリープではなく、陥凹型といって悪性度が高く、リンパ節転移なども起こしやすいタイプのものと判明。翌週の病理診断結果で、S状結腸がんと告げられました」

 国立がん研究センターによると、大腸がんの罹患率は50歳代から年齢が上がるにつれ高くなり、特に女性は毎年増加傾向にある。

 金魚さんは念入りにクリニックの下調べをした。

「大腸がんは、早期なら手術すればたいてい治るんです。でも私の場合、早期ではなかったので、クリニック選びは慎重になりました」

術中に発覚したダブルキャンサーの衝撃

 調べつくした結果、昔一緒に働いていたドクターの紹介で、小さいが症例は十分な県外の病院で手術を受けた金魚さん。この選択が、のちに非常に重要だったことを知る。

「術後病理診断の結果はステージIIIbでした。5年生存率は56%。術後に生存率を10%程度、上乗せできる抗がん剤治療をしたほうがいいと言われましたが、後遺症のこともあり、抗がん剤治療には内心少し抵抗がありました」

 そんな中、手術後に担当医から、「虫垂もとっておいたから」と言われ詳細を確認すると、虫垂腫瘍が疑われたため切除したとのこと。

「そちらの診断結果は、“虫垂粘液がん”。私は、2か所同時にがんが発生している“ダブルキャンサー”だったんです。しかも、虫垂がんの中でも悪性度の高いがんでした。大腸がんがあったおかげで偶然見つけてもらい、本当にラッキーでした。そのまま閉腹していたら、死んでいたと思います。これはしっかり治療せねばと、抗がん剤治療にも踏ん切りがつきました」

感電したような手足の強いしびれ

 抗がん剤は2週に1回48時間かけて点滴で投与した。

「私は髪がけっこう抜けて、ウィッグを使用しました。吐き気やめまいもありましたが、吐き気止めの治療が充実していたおかげで、こちらは乗り越えられました」

 しかし、いちばん悩まされた副作用は手足のしびれ。

「ビリッと感電したような、強いしびれが起きる急性の神経障害がありました。冷たいものも飲めないし、歩くことすらつらかった」

 抗がん剤治療は、副作用で吐いたり痩せたりして継続が難しくなり、途中でやめてしまう人が多いが、金魚さんは半年間、全12クールを完遂。

「続けられたのは、とにかく食べることを意識したからかもしれません。治療中は、普通に食べていてもどんどん体重が減っていくため、通常の1.5割増しぐらいのカロリーをとるようにしていました」

食事はとにかく栄養のバランスに気をつけ、タンパク質も意識した

 とはいえ味覚障害もあったため、食べられるメニューは限られていた。

「冷蔵庫にいつも入れていたのは麺類。中でも長崎の友達が送ってくれた冷凍のちゃんぽんは、野菜たっぷりでおだしも美味しく食べられて重宝しました。他には、酢を入れたり、喉ごしのいいものが食べやすかったです」

抗がん剤治療中の食事でお気に入りだったのが冷凍のちゃんぽん

医師に後遺症の不安を伝えなかったことを後悔

 告知も治療中も、常に冷静だった金魚さんだが、唯一悩んだのが、母親に病気を打ち明けることだった。

「当時、母は腰の手術をして介護を受けながらひとり暮らしをしていて、週に1、2回は私も実家に行って料理の作り置きなどをしていました。私は一人っ子で、誰かに母の世話を任せることができません。そんな中、自分の大腸がんを母にどう伝えるか、悩みました」

 心配をかけたくない気持ちと、これからの治療に向けた準備で頭は混乱した。

「当然あれこれ聞いてくるだろうと。こっちは治療に向けてやることが山ほどあるのに説明するのが面倒で(笑)。結局、病名だけ伝え、進行具合など細かいことは話さずに、なんとか乗り切りました。現在もつきっきりの介護は難しいため、ヘルパーさんなどの手を借りながら自分の治療、仕事、介護をやりくりしています」

 かくして手術から抗がん剤治療と、がんの治療はスムーズに進んだように思えたが、その後、長年続くしびれ(慢性の神経障害)と戦うことに。

「痛くて歩けない、物が持てない。知覚もないので字も書けない。とにかく痛みを抑えないと、仕事はもちろん、日常生活も送れない状態でした。実は治療中も、しびれがあまりにひどく、このまま続けても大丈夫なのかと、主治医には訴えていたんです」

 しかし、投与中止基準である白血球の減少が見られなかったため、主治医の判断で治療は続行。その際、治療方針や、後遺症の可能性を説明してくれることはなかった。

「当時は、抗がん剤治療をやり遂げれば、がん再発の可能性が低くなる……と必死でした。でも、治療を続けることによって考えられる後遺症について十分ディスカッションをしてくれなかったのは、今でも納得できない思いがあります」

 こうした場合、主治医の指示は絶対だと思ってしまうが、不安なことは積極的に伝えるべきだと言う。

「もし主治医に直接話しづらい場合は、看護師や薬剤師など他のスタッフを通じてでも、言いたいことは伝えたほうがいいと思います。ただ、最近は血中のDNAのかけらなどで再発率がわかるようになってきたので、今後は、本当に再発のリスクの高い人だけが抗がん剤治療を受けることになると思います」

 その後、しびれの治療として処方された薬は、吐き気やめまいなどの副作用で継続できず。調べつくし最終的に行き着いたのが漢方薬だった。

しびれと痛みの軽減のため、現在も服用している漢方薬、牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)。冬の間はブシ未を追加するなどの調整も

「エビデンスはないですが、私には合っていたようです」

 そして、再発に備えた定期検診は昨年で終了。大腸がんを無事乗り越えた。

「助かるために抗がん剤治療を続けましたが、後遺症のしびれのために看護師という天職を失いました。でも、生活費を稼ぐため、新しい生きがいを見つけるために、今は病気療養中の方も使える美容製品を販売。さまざまな機関と提携し、研究しているウラには自分の壮絶ながん体験も生かされています」

女性が注意すべきがんというと、乳がんや子宮がんを思い浮かべる人が多い。しかし、人口動態調査によれば、2020年の女性のがん死亡原因の1位は大腸がん。男女合わせても近年日本人に急増しているがんのひとつ(出典:国立がん研究センターがん対策情報センター)
お話を伺ったのは……金魚さん●大学病院に勤務していた元・看護師。2014年に罹患した大腸がんの治療の経過や副作用対策などをつづったブログが話題。現在は臨床研究コーディネーターをしながら、療養中も健やかでいられる美容製品の製造販売を行っている。ブログはこちら→https://ameblo.jp/lieber11/

(取材・文/當間優子)