3月31日に最後の放送を終え、17年の歴史に幕を下ろした『スッキリ』(日本テレビ系)。だが、その終わり方はスッキリとはいかなかった。
「3月24日の放送で栃木県にある『那須どうぶつ王国』から生中継するコーナーがあり、オードリーの春日俊彰さんが出演しました。そこでMCの加藤浩次さんからの、“足元に気をつけろよ”“池に落ちるなよ”などの煽るような振りを受けて、春日さんがペンギンのいる池にわざと落ちました。
その結果、ペンギンたちが驚き騒ぐ映像が流れ、視聴者からクレームが殺到。那須どうぶつ王国が日本テレビに抗議すると、『スッキリ』もホームページに謝罪文を掲載し、27日の放送では加藤さんが経緯を説明したうえで“春日くんに対して、僕が振りという形で追い込んでしまった”と謝罪しました」(スポーツ紙記者)
炎上の原因は「危険への不安」
振りに応えて、池に落ちるというお笑いの“教科書”どおりではあったが、ここまで騒ぎになった理由について、メディア研究家の衣輪晋一さんはこう指摘する。
「今回のケースでは、視聴者にペンギンがかわいそうだと感じさせたことが炎上した一番の要因だと思います。よくある演出や流れだとしても、見ている側が、出演者の行為で周りに迷惑がかかる、危険だと不安に思ってしまうと、不快に感じてしまいます。
ただ、煽った加藤さんも、『めちゃイケ』時代は“暴れん坊”キャラでしたし、そこが持ち味でもあります。また、水があったら落ちるというのが、芸人の本能でもあると思います。そういった意味では、今回の事態は予見できることなので、スタッフも止めるべきでした」
“お決まり”の笑いではあるが、SNSでは《時代錯誤》と指摘する声も上がっている。とりわけ、テレビ離れが進むZ世代は時代遅れと感じているようだ。
「後輩芸人をいじるとんねるずの石橋貴明さんの笑いをパワハラだと捉える人たちがいるのはたしかです。以前は、ハラスメントという言葉が広くは使われていなかったですが、言葉が一般的に広まったことで、“これはハラスメントだからダメ”という感覚をZ世代はより敏感に感じ取ってしまいます」(衣輪さん、以下同)
一方で、こうした笑いが廃れたわけではないという。
「すべての人が時代遅れだと感じるわけではなく、“押すな”と言って水に落とすという流れはYouTubeなどでZ世代の人たちもやっています。伝統芸能のような形で受け継がれてはいますが、ペンギンの池に落ちた時のように、危険だと思わせると、不快だと感じると同時に、Z世代からすれば、古い笑いだとも思われてしまいます」
若者の目に映る“過激な演出”
加藤も出演していた『めちゃイケ』をはじめ、往年の人気バラエティー番組では、ペンギンのいる池に落ちるどころではない、過激な演出が当たり前だった。
そのような番組はZ世代の目にはどう映るのか。若者文化に精通している芝浦工業大学の原田曜平教授はこう説明する。
「昔のバラエティー番組について話すと、学生は本当にびっくりします。出演者が喫煙しながら収録をしていたとか、激しい暴力シーン、『電波少年』で松村邦洋さんが本当に拉致されたり、追いかけまわされたり。今回のような動物のいる池に落とすのも昔は当然のように行われていました。そういった過激なバラエティー番組は今の若者にはショックが大きく、引くほど驚いてしまいます」
“ドン引き”する若者ではあるが、過激なものを見なくなったわけではないようだ。
「YouTubeやTikTokでは過激な映像が多くあります。“パワハラエンタメ”という、上司が部下に対して激しく詰める動画が、TikTokでは人気コンテンツになっています。また、さらに過激なものでは、ホームレスの女性に嫌がらせをする動画もバズった後、炎上していました」(原田教授、以下同)
テレビはダメだが、ネットでは大丈夫。その違いはどこにあるのか。
「今の若い世代は、テレビが品行方正になってしまった時代を生きているので、テレビにはコンプライアンスに従ったものを求めます。ただ、過激なものを見たいという欲求は変わらない。それを規制の少ないネットメディアに求めています。先ほどのパワハラエンタメもテレビでやったら炎上しますが、YouTubeやTikTokなら受け入れられる。昔のバラエティー番組についても、内容もそうですが、“こんな過激なものをテレビでやっていた”という事実に驚いているようです」
過激な笑いは“オワコン”ではない。だが、テレビがその役割を担う時代はすでに終わったのかもしれない。
衣輪晋一 メディア研究家。雑誌『TVガイド』やニュースサイト『ORICON NEWS』など多くのメディアで執筆するほか、制作会社でのドラマ企画アドバイザーなど幅広く活動中
原田曜平 マーケティングアナリスト。芝浦工業大学教授。信州大学特任教授、玉川大学非常勤講師。BSテレビ東京番組審議会委員。『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)など著書多数