映画『シン・仮面ライダー』の公式HPより

 現在、全国で公開中の庵野秀明監督映画『シン・仮面ライダー』。その制作現場に密着したドキュメンタリー『ドキュメント「シン・仮面ライダー」 ~ヒーローアクション挑戦の舞台裏~』が、3月31日にNHK BSプレミアムで放送された。同番組では、庵野氏がスタッフに対して厳しいダメ出しを連発する姿が随所にみられるのだが、一部視聴者の間で「パワハラではないか」と物議を醸しているようだ。

※本記事は、『ドキュメント「シン・仮面ライダー」 ~ヒーローアクション挑戦の舞台裏~』のネタバレを含みます。

「制作現場に大いなる葛藤と波乱」との紹介文

 『シン・仮面ライダー』は、1971年放送開始の特撮テレビドラマ『仮面ライダー』(テレビ朝日系)のリブート作品であり、『シン・ゴジラ』『シン・エヴァンゲリオン劇場版』『シン・ウルトラマン』に続く、『シン』シリーズの最新作に位置付けられる。

 監督・脚本の庵野氏が、2021年4月の製作発表時に寄せた≪50年前にテレビ番組から受けた多大な恩恵を、50年後に映画作品という形で少しでも恩返しをしたいという思いから本企画を始めました≫というコメントからは、「同作への並々ならぬ熱意を感じた」(芸能記者)という。

「これまでの『シン』シリーズ作品は、いずれも興行的に大成功を収めたとあって、『シン・仮面ライダー』は公開前から大きな話題を呼んでいました。主人公の本郷猛(仮面ライダー)役に池松壮亮、ヒロイン・緑川ルリ子役に浜辺美波、一文字隼人(仮面ライダー第2号)役に柄本佑と、実力派俳優が起用されているのも、観客の期待値をさらに上げたと思います。公開日は3月18日ですが、前日の午後6時から“全国最速公開”(一部劇場を除く)が行われ、多くの特撮ファンが劇場に足を運びました」(前・同)

 そんな中、公開から約2週間後にあたる同31日、NHK BSプレミアムが、同作の制作現場に2年間密着したドキュメンタリー『ドキュメント「シン・仮面ライダー」 ~ヒーローアクション挑戦の舞台裏~』をオンエア。

 「NHKオンデマンド」の番組紹介ページでは、≪「ノスタルジーと新しさを融合したアクション映画」を目指すが、この相反するテーマは、制作現場に大いなる葛藤と波乱を呼ぶことになる≫と紹介されているが、このドキュメンタリーを見た一部視聴者の間で、庵野氏のスタッフに対する言動に、批判の声が上がっているという。

「段取りなんていらない」

「庵野氏いわく≪仮面ライダーの基本はアクション≫。アクション監督を務めるキャリア20年の田渕景也氏は、庵野氏が理想とするアクションシーンを作るために、さまざまなプランを提案していくのですが、なかなか『OK』が出ない状況が続きました。

≪圧倒的に創意工夫が足りない≫
≪足りないのは意外性、今のところ一切ない≫
≪頭の中が殺陣でいっぱいになってる≫
≪やっぱり組み手は組み手にしか見えない≫

 など、庵野氏の強烈なダメ出しからは、段取りを徹底的に排除したいという思いが伝わってくるものの、段取りなくしてはアクションシーンが撮れないのでは……という疑問がわいてきます」(エンタメ誌記者)

 加えて庵野氏は、ダメ出しを連発する一方、明確な指示を出さないため、田渕氏をはじめ現場のスタッフは大混乱に。主演の池松は、≪誰も答えが見えてない状況で新しいことをやろうとしている≫と困惑しており、「あるアクションシーンで、庵野氏から『OK』が出たにもかかわらず、≪どうせやり直しでしょ?≫とやけくそ気味につぶやく彼の姿は、多くの視聴者に衝撃を与えたのでは」(同・前)という。

 現場の混乱を尻目に、アクション部や役者部に対し、

映画『シン・仮面ライダー』で監督を務める庵野秀明

≪殺陣ではなくて殺し合いを演じてもらえれば≫
≪「技を決めよう」という意識ではなく「相手を殺そう」という意識≫

 といった指示を繰り返す庵野氏。同作のクライマックスである、仮面ライダー1号、2号と森山未來演じる仮面ライダー第0号・チョウオーグの闘いの撮影現場では、ついに田渕氏をはじめとするスタッフ陣に声を荒げ、激怒したのだった。

「アクションシーンの流れを確認した庵野氏は、

≪もう全部アドリブでやってほしいくらい≫
≪段取りなんていらないですよ≫
≪(ライダーたちに)一生懸命さが全然見えない≫
≪ただの段取りです≫

 とイライラをあらわにしてその場を後にし、現場の空気は最悪に。その後、このシーンのアクションは俳優3人が考えることになり、これでは田渕氏の面目が丸潰れなのでは……とハラハラしてしまいました。

 実際、田渕氏も≪もう俺は何もしないぞと思って、僕らの仲間も台本捨てて帰ろうって≫というところまで追いつめられていたそうですが、結局、庵野氏が、直立不動で涙ぐみながら謝罪。シーン中盤まではきっちり殺陣を作ろうと言い出し、田渕氏はそれを受け入れたんです」(同・前)

配給元は“出血大サービス”

 こうした制作の舞台裏を知った視聴者の中には、庵野氏を横暴と感じた人も少なくなかった様子。SNSでは、

≪庵野さん普通にパワハラ野郎でしかないと思うのだけど≫
≪一般視聴者がこれを垣間見て『庵野節』と誉め続けるのは無理がある≫
≪自分にプランは無く、スタッフに出させるだけ出させて否定ってさ…パワハラだよ≫

 といった批判の声が多数見受けられる。一方で、こうした声に対し、

≪庵野さんがパワハラしてるって話で独り歩きしちゃってるけど、本当は監督の拘りと現場の葛藤のせめぎ合いなんですよね≫
≪あれをパワハラって言うのはどうかと思うよ。それは映画製作っていうか創作活動全体を舐めてる気がする≫
≪庵野監督のあれは納得できないものは作れないって姿勢だと思うんだけどなあ≫

 と反論する人も続出しており、SNSでは「庵野氏の言動はパワハラか否か」論争が勃発している状況だ。

映画『シン・仮面ライダー』で主演を務める池松壮亮とヒロインを演じる浜辺美波

 そんな『シン・仮面ライダー』だが、興行的には苦戦中。3月20日発表の映画ランキング(全国週末興行成績、興行通信社調べ)では、同17日に公開されたSnow Man・目黒蓮主演『わたしの幸せな結婚』に破れ、初登場2位。公開第3週では、5位まで順位を落としている。これまでの『シン』シリーズはすべて初登場1位を獲得していたことを考えると、やはり『シン・仮面ライダー』は勢いに欠けると言わざるを得ない。

「配給元の東映はこうした状況に焦りを感じているのか、公開前には最小限の情報しか出していなかったにもかかわらず、3月28日、映画冒頭で描かれる仮面ライダーとSHOCKER上級構成員・クモオーグの闘いを、毎日放送でオンエアするという出血大サービスを行いました。それでも『シン』シリーズの他作品に並ぶような興行的成功は難しそうです」(ウェブメディア編集者)

 庵野氏に振り回されたスタッフ陣、俳優陣が報われるためにも、ここから客足が伸びることを祈りたいが……。

 

 

浜辺美波、2015年5月のファースト写真集発売イベントにて
浜辺美波、2015年5月のファースト写真集発売イベントにて

 

マスクをつけて慣れた手つきで食材を買っていた浜辺美波('20年1月)

 

'19年、ひとりで映画『蜂蜜と遠雷』を鑑賞する池松壮亮