広末涼子(42)

 4月3日から放送を開始したNHKの朝ドラ『らんまん』。高知県出身の植物学者・牧野富太郎をモデルにして、幕末から昭和にかけての激動の時代を美しい草花とともに生きた青年・槙野万太郎の人生を描く。

意外にも朝ドラは初出演の広末涼子

 今作で主人公の母親・ヒサ役を務めるのは、意外にも朝ドラは初出演という広末涼子だ。第一週、物語の舞台は、広末自身の地元でもある高知県。しかしなんと、7日放送の第5話でヒサは早くも病死してしまう。

 放送開始直後から、ヒサの「私も、あの子(息子)のこの先を見守りとうございました」という、まるで命が長くないかのようなセリフがあり、SNS上では「ああ、やっぱりヒサさんの命は長くないのね……」「お母ちゃん心配」といった声があったので、早い他界を予想していた人も多いだろう。

 ただ、朝ドラで主人公の母親が第一週に亡くなるのはとても珍しい。朝ドラにおける母親は、非常に重要な役だからだ。主人公は、子ども時代とそれ以降で世代によって演じる俳優が変わることが多い。今作でも、本役の神木隆之介は初回にちらりと出ただけで、第一週の主人公役は、子役である森優理斗(もり・ゆりと)がつとめている。

 一方、母親役は、役の若いころも老いてからも、基本的にひとりの女優が務めあげるもの。前作『舞いあがれ!』では永作博美が、前々作『ちむどんどん』では仲間由紀恵が、物語全編に渡ってヒロインを見守る母親役を演じ切った。母親は、ある意味、視聴者にとっては主役以上に共感や感情移入できるキャラクター。夢に向かって邁進する主人公を見守り、支える母の目線は、視聴者のそれと重なるからかもしれない。朝ドラにとって母親はとても重要なのだ。

2016年放送の朝ドラ『べっぴんさん』も母親が早逝

 ここ10年で調べてみると、実母が放送開始時にすでに亡くなっている作品があった。2020年放送の『おちょやん』と19年放送の『なつぞら』だ。ただ、それらの作品は、のちに母的な存在として主人公の成長を見守る女性が登場する。『おちょやん』は継母の宮澤エマ、『なつぞら』は戦災孤児を引き取った家の母親、松嶋菜々子である。今回のような早期の母親退場とは少し違う。

 放送開始時は生きていたのに第一週で亡くなる例は、直近の10年では2016年放送の『べっぴんさん』の1作のみ。『べっぴんさん』で、戦後の焼け跡の中で子ども服作りに邁進するヒロイン・坂東すみれ(芳根京子)の母親役を務めたのは菅野美穂だ。彼女も、朝ドラで初の母親役だった。また、亡くなったのも広末涼子演じるヒサと同じ放送5日目で、主人公を演じる俳優はまだ子役。メインの俳優が登場する前での退場となった。

 大切な母親役を第一週で亡くならせるのは、ドラマとしてはリスクがあるが、『べっぴんさん』はどう乗り越えたのか。

『べっぴんさん』での亡き母は、刺繍を通してヒロインの子ども服作りという人生に大きな影響を及ぼし、また、母親役としての退場後は、「語り」(ナレーター)として、作中を通して重要な役回りを担った。

 さらにドラマ終盤では、成長した娘の夢の中に登場。ヒロイン・すみれを演じた芳根京子と菅野が念願の“初共演”を果たしたシーンは、ドラマのひとつの山場にもなっていた。つまり、母の死はその後のドラマの盛り上がりの伏線にもなっていたのだ。

実際の母親はコレラで亡くなった

 ちなみに、広末演じるヒサには、モデルとなった女性がいる。牧野富太郎の母、久壽(くす)だ。彼女もやはり牧野富太郎が5歳のとき、流行病のコレラで亡くなってしまう。

 牧野富太郎は、著書『牧野富太郎自叙伝』の中で、「私はまだ余り幼かったので父の顔も、母の顔も記憶にない」と書いている。現実の富太郎は、もちろん、幼少期に亡くした母親と再会することは叶うべくもない。が、そこは朝ドラ。近年の朝ドラでよくある、死んだ人が幽霊になって出てくる“幽霊展開”の可能性もあるのではと期待がふくらむ。

 広末涼子は現在42歳、長男は来年、成人を迎えるという3人の母親でありながら、出演直後からSNSでは「かわいい」、「変わらない」などの声。果たして広末は、成長を遂げた息子役の神木隆之介と共演することはできるのか。そしてそれは幽霊なのか、夢の中か…。

 物語は来週からいよいよ舞台を明治時代に移す。今後の展開が楽しみだ。

8月上旬、帽子を目深にかぶり、商店街で次男と買い物を楽しんでいた広末

 

広末涼子とキャンドル・ジュン氏

 

役員用のゼッケンをつけて子どもの文化祭に参加した広末('18年10月)

 

男性スタッフと笑顔でハグを交わす広末涼子