《松本市の人間が、犯人にそんな情報を教えて、盗ませたんじゃないか》
とある事件がきっかけでSNS上ではこんな声が上がっていた。
長野県警長野中央署と県警本部捜査支援分析課、および機動捜査隊は5日の午前11時4分、職業不詳の森本晋太郎容疑者(34)を窃盗の疑いで逮捕した。森本容疑者が盗んだのは、長野市の善光寺にある『びんずる尊者像』という約83センチの木像。なでた部分の病気やけがが治ると、300年以上前から参拝客に親しまれてきた。
同寺の参道にある出店の店主によると、
「善光寺には仁王像、回廊もあるけど、間違いなく“びんずるさん”が一番の売りだね。1月上旬には『びんずる廻し』という像をかついで堂内を歩き回る行事があるし、夏には『びんずる祭り』も。受験シーズンには頭をなでて合格を祈願する受験生でいっぱいになる」
多くの人から愛されていたびんずるさんが消えた経緯を全国紙社会部記者が説明する。
「木像がないことに僧侶が気づき、寺職員が110番通報。木像は5日の午前8時から8時35分の間に盗まれたようだ」
防犯カメラの映像から、容疑者は作業着姿で木像を毛布でくるんで、同寺の西側の駐車場に停めておいた車まで運び込んで逃走した。
「おそらく高速道路を走って、およそ60キロメートル離れた長野県松本市で降り、同市内にあるイオンタウンで逮捕された」(同・前)
捜査開始から2時間20分あまりの異例のスピード逮捕となった。
「森本容疑者は車でわざわざ熊本から来たこと、作業着、毛布などを準備していたので、明らかに計画的な犯行」(捜査関係者)
「松本市の人間が盗ませた」という噂も
犯行の不可解さと併せて、びんずるさんが長野市から松本市に初めて持ち出されたことからSNS上では、冒頭にある陰謀論まで飛び出したのだ。長野市民の女性によると、
「私もネットで見ました。確かに、長野市と松本市は昔から仲が悪くて、“長野松本戦争”って言われるほど。しかも、善光寺のことをよく知らない人間に、びんずるさんを盗むのは難しいし、容疑者が松本市内で逮捕されたと条件が重なって、そんな噂が出回ったんでしょうね」
そもそも、なぜ長野市と松本市はいがみ合うようになったのか。
「江戸時代は別々の藩だし、廃藩置県後も別々の県で、それぞれ長野市と松本市に県庁があった。その後、合併の話が出てきたころに、松本の県庁が放火で焼失したため、長野に県庁をおくことが決まったとか。その恨みがいまだにくすぶっているみたいよ」(長野市の80代男性)
いがみ合う長野と松本
さらには、
「ライバル意識が強くて、あらゆることで争っているイメージがあります。例えば、県内トップクラスの長野高校と松本深志高校ではどっちが偏差値が高いとか、観光施設の善光寺と松本城ならどっちが人気あるのかとか……。あと県内にプロサッカーチームがなぜか『AC長野パルセイロ』と『松本山雅FC』の2つあって、やはり競い合っていますね(笑)」(50代女性)
70代の男性は、正直にこう答えた。
「松本出身の人が県知事になると、いい気持ちがしないね。かつての田中康夫知事のときもそうだった」
では、松本市民はどう思っているのか聞いてみた。
「ボクは長野市民が嫌い。現状では県を分けることはできないでしょうが、いつか“県を2つに分ける”と公約を掲げる知事候補が出てきたら、絶対に投票する。まあ、それは松本出身の人でしょうけど。長野のほうはそんなこと気にしてないでしょうね」(50代男性)
そんな中、この陰謀論に終止符を打つ情報が……。捜査関係者によると、容疑者は仏像を盗んだ理由についてこう供述しているという。
「びんずるに恨みがあって、どこかに埋めてやろうと思った」「びんずるがいると、地震や事件が起こる」
そもそも、森本容疑者は熊本県上益城郡御船町に住む。熊本県民が起こした単なる逆恨みの事件で露呈した長野・松本市民の“仲悪すぎ”問題。一番迷惑をかけられた“びんずるさん”は10日、再び善光寺の本堂で一般公開が始まった。