'73年に誕生し今年50周年となる『森永ラムネ』。昔は子どものおやつとして定番だったが、いまでは大人たちもこぞって買う人気商品に進化し、昨年は約34億粒も売り上げている。そんな愛されロングセラー商品の誕生から知られざる裏話まで大解剖!
SNSの投稿がきっかけで“大人のお菓子”として注目を集める
“ラムネのお菓子”と聞いたとき、どんなお菓子を想像するだろう。おそらく、多くの人がラムネ瓶を模したボトルに入った、森永製菓のラムネを想像するのでは? 『森永ラムネ』が発売されたのは、さかのぼること1973年。今年は、誕生50周年で、“超”がつくほどのロングセラー商品だ。
これを記念して、同社では「森永ラムネ50周年新キャラ選挙」を開催中。『すみっコぐらし』の原案を手がけた、よこみぞゆりさんがデザインした2匹のかわいい新キャラクター「しゅうチュー」と「ラムねこ」、どちらがメインキャラクターに選ばれるかをユーザー投票で行うなど、節目の年を盛大に祝っている。
それにしても、『森永ラムネ』はどのようにして誕生したのか? 森永製菓マーケティング本部・中原仁さんが説明する。
「1973年当時は、砂糖をメインの原料とした硬めの錠菓が一般的でした。森永製菓では、飲料のラムネの味わいを再現すべく、ぶどう糖をメインの原料にし、程よい硬さなのに口どけのよい品質にすることで差別化を図りました。そうして発売されたのが、今に続く『森永ラムネ』です」
同社のラムネといえば、「ぶどう糖90%配合(含水結晶ぶどう糖として)」が特長で、開発当初から原材料は変わらないという。飲料のラムネのような爽快な口どけ感に加え、ボトルに入った斬新なデザインが受け、『森永ラムネ』は発売当初から人気に火が付く。派生商品としてラムネのガムや、梅味・コーラ味のラムネも登場したそうだ。
中原さんによれば、「『森永ラムネ』は優等生のような商品」だと言う。昔も今も、子どもの定番お菓子として人気があるため売り上げが安定している。
その一方で、「お子さまが成長すると、『森永ラムネ』を卒業してしまうという課題も抱えていた」と続ける。定番だからこそ新規顧客の獲得が難しく、定期的に新しいフレーバーのラムネを登場させるなど試行錯誤が続いていた。
「スーパーなどでお子さま向けコーナーに置かれている商品だったので、大人の方の目に留まりづらい商品でもありました」(中原さん、以下同)
そんな中、突如、風向きが変わる。'14年ごろから、「ぶどう糖」がSNSやメディアで取り上げられるようになったのだ。きっかけは、「お酒を飲んだ後に森永ラムネを食べるとスッキリする」という内容がインターネットを中心に拡散。
ぶどう糖が多分に含まれる『森永ラムネ』は、メディアを通してぶどう糖に期待されるさまざまな効果が知られるようになり、“大人のお菓子”として注目を集めるようになった。
「お客さま発信で広まったことだったので、われわれも想定外の形で大人の方に訴求できるように。50年前に開発を担当した諸先輩が意図していたかどうかはわかりませんが、その先見の明に脱帽です」
期せずしてビッグウエーブに乗った『森永ラムネ』だが、こんな失敗も。
「大人の方に向けてパウチ形態の『ラムネのチカラ』という商品を発売しました。ウコンエキスとビタミンB1を配合し、飲んだ後に食べるラムネとして売り出したのですが、思った以上に売れませんでした(苦笑)。
パッケージに機能的なことを並べてもお客さまには伝わりづらかった。もっとあの森永ラムネの商品なんだと伝わるような提案をしなければいけないと学びになりました」
この失敗を生かして誕生したのが、'18年発売された一粒が1.5倍サイズの『大粒ラムネ』だ。同商品は、発売1か月足らずで年間販売計画数量を完売してしまうほどの反響を呼ぶ。
パッケージには、「ぶどう糖90%配合」「集中したい時に!」の大きな文字が並び、『森永ラムネ』のイラストも描かれている。どこからどう見ても『森永ラムネ』の派生商品だとわかる。
コロナ禍でキャンディ市場が停滞も
輪をかけて、東大生協駒場購買部で、『森永ラムネ』が他のお菓子に比べ2倍のスペースで販売されていることが報道されると、いよいよぶどう糖の効果に熱視線が注がれるようになる。『森永ラムネ』は、“子どもに愛されるお菓子”から、“子どもから大人まで愛されるお菓子”という不動のポジションを確立した。
「東京大学の生協さんのほうで、『森永ラムネ』が売れているといった情報を耳にして、東大新聞さんとタイアップが実現しました。'14年のときもそうですが、われわれから発信したわけではありません。本当に愛されている商品なのだと痛感しています」
ぶどう糖菓子の第一人者である『森永ラムネ』は、某ハンバーガーチェーンのシェイクや、コンビニチェーンのフラッペとコラボをするまでに。また、『inゼリー エネルギーブドウ糖』や『森永 マッスルフィットプロテイン 森永ラムネ味』など派生商品も数多く展開。もはや、お菓子業界にとどまる器ではないのかもしれない。
「『森永ラムネ』は汎用性が高く、いろいろな商品と相性がいいという点も大きな武器です。また、お客さまの中でイメージが定着している商品ですので、コラボ商品も安心して手に取っていただけることも、選ばれる大きな理由だと思っています」
50年という長い年月の中で、常に第一線クラスで親しまれ、売れ続けているお菓子はそうないだろう。そう中原さんに水を向けると、「実はコロナ禍においては、『森永ラムネ』を含むキャンディ市場が停滞した」と明かす。
「ビスケットなど家の中で食べられるお菓子は、巣ごもり需要もあって好調だったのですが、キャンディをはじめとした移動中に食べられるお菓子は需要が下がってしまいました。また、人と会う機会が激減したことで、口の中をリフレッシュするようなタブレット系お菓子も売り上げが下がりました。
ただ、『森永ラムネ』はテレワークのお供に─ではないですが、在宅中での仕事や勉強で集中したいときに手に取っていただける商品として需要が根強くありました」
世の中のムードと商品が連動していることを示すと同時に、ロングラン商品だからこそ、新しい提案をすることの大切さを教える好例だろう。
「現在、キャンディ市場は食感が求められているところもあります。現在発売中の『バリボリラムネ〈グレープ味〉』と『パリほろラムネ〈レモン味〉』は、『森永ラムネ』とは異なる食感を楽しめるので、そういった面を含めてお客さまに楽しんでいただけるようにご提案していきたい」
アフターコロナになりつつある現在は、キャンディ市場が盛り返している状況だという。目指すは、55周年、60周年だ。
「最終的な目標としては、あらゆるシーンでお客さまが集中したいときに選ばれるアイテムにしたいという思いがあります。例えば、受験シーズンであれば、受験生の皆さんに訴求し、受験生の皆さんが『森永ラムネ』を選んでくれたらうれしいです。
他社でも“集中”を訴求している商品が登場していますが、森永製菓は50年間お客さまに愛され続けてきたという自負もあります。ブランドとしての価値を高めながら、さらなる拡大を目指していきたいです」
昨年度は約34億粒を売り上げたという『森永ラムネ』。勉強に仕事のお供にこれからも長く愛され続けることだろう。