白百合女子大学に入学した小倉優子(左)と2005年に廃止となった恵泉女学園短期大学出身の生稲晃子(右)

 3月、恵泉女学園大学および大学院は閉校に向けて、2024年度から学生募集を停止すると発表した。理由は18歳人口の減少などにより入学者の定員割れが続いたことだという。しかし、定員割れしている大学は他にもあるが、閉校とはなっておらず、2000年以降に閉校した私立大学は16校にとどまる。一体どういうことなのか? 私立大学が置かれている状況とともに、今後、消える大学、生き残る大学の特徴を探る。

「恵泉女学園大学が閉校に至った理由として考えられるのは、『都市型の立地による他大学との競合』、『看板学部を活かせなかったこと』、『系列校スルー現象』。この3点です」

 と話すのは大学ジャーナリストの石渡嶺司さん。

「同大学は東京都の町田駅から40分圏内。利便性が高く学生を集めやすい立地でした。しかし、それは裏を返せば他大学などの競合相手も多いということにほかなりません」(石渡さん、以下同)

少子化は閉校の本質的な原因ではない

 それでも教育内容に特長があれば学生は集まったはず。

同大学には、長らく研究を続けてきた園芸学と平和学という2大看板がありました。しかし、その2つをひとまとめにして『人間社会学部』としたため、何が学べるのかイメージしづらくなってしまった。園芸学を農学部としたほうが、まだ学生が集まったかもしれません」

 3点目の系列校スルー現象とは?

「私立大学を運営しているのは学校法人で、ほとんどの場合、小中高校など他の教育機関も運営しています。ですから本来なら系列校からの内部進学が期待できるはず。ところが、高校は高校で進学実績を上げなければ生徒が集まりませんから、生徒が難関大学を目指し、系列の大学には進まなくなるのが『系列校スルー現象』。同大学でもこの現象が強く出ました

 大学側は「18歳人口の減少」を閉校理由の1つとして挙げているが……。

「少子化が始まったのは1990年代。しかし大学数は増加の一途をたどり、1990年には372校だった大学が2022年には620校と1・6倍になっています。それでも2000年以降で募集停止となった私立大学はわずか16校。もし18歳人口の減少が原因なら、もっと多くの大学が閉校になっているはずです

 少子化は閉校の本質的な原因ではない、ということ。それでも閉校理由に挙がるのは?

「堅調な大学が多数ある中で閉校に至るのは、経営などに何らかの問題点があるから。しかしそれを認めれば、学校法人幹部の責任問題に発展します。その点、少子化を理由とすれば、『仕方なかった』ということで穏便に済ますことができるでしょう」

 では、ズバリ16校が閉校に至った理由は?

「主な理由としては『小規模校である』、『立地がよくない』、『入学定員の充足率が低い』。この3点が考えられます」

 小規模校とは学部数が少ない大学のこと。

閉校した16校すべてが1~2学部でした。選べる履修科目が少ない上に、学生数が少ないからサークルの種類も少なめ、と勉強面・学生生活ともに選択肢に限りが出てきます。美術系や栄養学系など専門性の高い学部ならそれでも人気がありますが、他大学でも学べる分野の場合、学生はより多くの選択肢がある大規模校を選びます

赤字でも廃校にする必要がないケース

 2点目が恵泉女学園大学でも理由として挙がった立地。

「立地は都市型と地方型に分類されます。都市型は他大学や専門学校との競合で負けるパターン。一方、地方型はそもそも大学の需要が少ないために、学生が集まりにくい」

恵泉女学園大学のホームページ

 その結果、生じるのが定員割れ。学生数÷定員数で割り出される充足率で見ていこう。

「入学定員の充足率は入学辞退者が出れば、100%を下回ることは往々にしてあります。ですから定員割れだけで閉校の危険性の有無は判断できません。ただし、学生数の減少が授業料収入の減少に直結するのも事実。私は入学定員充足率60%未満が、経営が危うくなる危険ラインと考えています。実際、16校のうち8校が60%未満でした」

 中には、充足率70%を超えていても閉校した大学も。

そもそも学校法人は、大学が10億円の赤字でも、系列の小中高が20億円の黒字であれば、法人全体では10億円の黒字になります。この場合、大学が定員割れしていても、廃校にする必要はありません。それを考えると充足率70%超で学生募集を停止した大学は、法人自体の財政状況が悪かったか、将来を見越して早めに損切りしたのでしょう」

 3月に文部科学省は私立大学に対する審査基準の一部を改正。2025年度以降は大学や学部を新設する際、「地域のニーズや18歳人口の推計値」、「近隣の競合校の定員充足率」など客観的なデータで学生確保の見通しを示すことを大学に義務づけた。これには定員割れする大学が増えたため、新設を抑制する狙いがあると考えられている。

「要はマーケティングリサーチを大学に義務づけたのです。とはいえ、民間企業なら事前に需要がどれくらいあるか調査するのは当たり前。これまで明文化されていなかったのが不思議ともいえますね」

 新設抑制策はこれだけではない。

文科省は、定員50%未満の学部がある大学は学部新設を認めない、という方針も打ち出しました。これらの施策により閉校せざるをえなくなる大学が今後、出ると考えられます。特に2022年に入学充足率60%未満だった30校の大学は、相当な経営努力をしないと厳しいのでは」

 では、大学の数は今後、減るのだろうか?

「そうとも言い切れません。看護・医療系やIT系などニーズが高い分野では今後も新設が続くことが見込まれます。また職場で即戦力となりうる人材育成を目指す専門職大学というカテゴリーも2019年4月に誕生。今後、専門職大学に転換する専門学校が増えるでしょう。これらも含めると、大学数が1000校を超える可能性も十分にあります」

“大学進学率”は上昇中

 少子化が進む状況で、大学数が増えれば、生き残りはさらに厳しくなるのでは?

「これも単純にそうなるとは言い切れません。例えば現在の日本社会ではさまざまな場面で、パソコンやタブレットなど情報機器が使用されています。こうした高度化・情報化に対応できる人材を生み出すには、大学進学が必須。高収入を得るために大学進学を選択する学生はますます増えていくと考えられます」

 実際、大学進学率は飛躍的に伸びている。

文部科学省の『学校基本調査』によると、1991年の大学進学率は25・5%。それが2022年には56・6%と約30年で倍増しました。この増加に大きく関わっているのが、女子の大学進学率の上昇。1991年の女子の大学進学率はわずか16・1%でしたが、2022年には53・4%と約3倍に跳ね上がっています」

今年、小倉優子が入学した白百合女子大学。石渡さんは「2022年の定員充足率は76.6%と危険水域ではないものの、今後も現状維持するのは難しいのでは」と話す(画像は公式サイトより)

 ただし、地方部に関しては女子の進学率はいまだに低い。

「東京では女子の大学進学率は75・8%。一方、全国最低の秋田では37・4%とほぼ2倍の差があります。しかし、社会の高度化・情報化は全国どこも同じですから、今後は地方在住の女子の進学率も上昇すると考えられます」

 その結果、大学進学率が上がれば、私立大が生き残る可能性はより高まる。

「ただし女子大に関しては、女子高生の共学志向の高まりなどで苦境に立たされる大学が出ることが予想されます。小規模校で充足率も低めの恵泉女学園と似た状況にある岐阜女子、名古屋柳城女子、大阪女学院、神戸海星女子学院、松山東雲女子の5校は危険水域にあるといっていいでしょう」

 ちなみに小倉優子が進学した白百合女子大学は?

「データを見ると、安全とも危険ともいえない中間層に属しています。ただし、現状維持で生き残れるかというと、可能性は低め。キャリア志向に対応できる学部の新設や共学化など、何らかの改革を行う必要性があると思います」

 大学選びはつい偏差値に目が行きがちだが、立地、充足率、学部数を参考に将来性に注視する必要がありそうだ。

【追記】 4月17日、神戸海星女子学院大学は2024年度以降の学生募集停止を発表した(2023年4月19日10時40分修正)。

教えてくれたのは……

石渡嶺司さん●大学ジャーナリスト。専門は大学を含む教育、就職、キャリアなど。就活、高校生の進路をテーマにした講演も行う。著書は『改訂版 大学の学科図鑑』(ソフトバンククリエイティブ)、『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年度版』(講談社)など多数。

(取材・文/中西美紀)