日本人の死因ナンバーワンである“がん”。
早期発見・早期治療が生死の分かれ目ともいえるが、がん検診受診率は近年ずっと50%ほどで、女性に限ればさらに低い。加えてコロナ禍は検診控えもあり、より受診率がダウン。
早期発見できれば300万円抑えられる
「日本の医療保険制度は世界有数の充実度。しかし、それが逆効果となり、検診控えを引き起こしています」
そう話すのは、医学ジャーナリストの植田美津恵さん。
「欧米のがん検診受診率は約80%と高水準。それは治療費が高額のため、予防の意識が高いからです。逆に日本は自費負担が軽いため、その意識が低い。
また治療費は保険が利きますが、検診費用は保険適用外であることも、検診を後回しにしてしまう要因に」(植田さん、以下同)
その一方で「病院に検査に行きたくない人」から注目を集めているものがある。それはおうちで簡単にできる“自宅がん検査キット”だ。
「コロナ禍をきっかけに利用者が増えました。一般的ながんの検査は、検査にかかる拘束時間が長い、予約が取りにくいなど時間と手間がかかりがち。でもキットであればそれらの負担はありません。好きなときに検査ができ、数分で済むので非常に手軽」
加えて早期発見につながる点も、見逃せないメリット。
「簡単なので定期的に行うことで、いち早くがんリスクに気づくことができます。がん治療は早期であればスタンダードな治療法で済むことが多く、入院期間も短め。身体への負担も少ないです」
胃がんでは、進行がんで先進治療などを取り入れた場合に比べ、早期がんなら治療費を300万円以上も抑えられるというデータもある。
こんな人におすすめ!
□検査にかかる手間や時間を省きたい
□専業主婦や個人事業主など定期的な健康診断がない
□家族にがんの人がいる
□複数の部位のがんリスクを一度に調べたい
病院と自宅での検査精度の違いはある?
検査キットを使う上で気になるのが精度。病院での検査に比べてどうなのだろうか?
「第一段階の検査に関しては、どちらもあくまでもがんのリスクを調べるものであり、病院か自宅かで精度の差はありません。
例えば病院で血液検査をしても、わかるのはがんのリスク値。値が高ければ要精密検査となりMRIやCTなどの検査をし、最終的には細胞診をすることで“がん”と診断されます」
検査キットと病院の検査の使い分けは?
「特にがん家族歴があるなら、定期的な検査を行ったほうがいいので、自宅検査キットで年1回はチェックを行うと安心。そこで異常が見つかったら、病院で精密検査を。検査のハードルが低い自宅キットを活用してください」
信頼できる検査キットの選び方
自分で検査というと、ちょっと不安に感じてしまうが、どのような手順で行うのだろう?
「血液、唾液、便など、どれか一種の検体を検査するタイプが多いです。検査キットは誰でも簡単に採取できるように工夫されているので、初めて利用する人でも心配いりません」(植田さん、以下同)
採取するものはさまざまあるようだけど、一番精度が高いのはやはり血液?
「血液だから精度がいいということはありません」
血液は身体の情報を一番多く持っているので、がん検査によく使われる検体だが、他の検体もそれぞれに情報を持っている。
唾液ならがん細胞が増殖すると発生するポリアミンなどの成分を解析するのに有効。便は大腸に疾患があると大腸内で出血することがあるため、その血液が検出できる。
尿はがんの進行に役割を果たすマイクロRNAを調べる場合などに有効だ。痰をとって肺がんを検査するものや、膣内の細胞をとって子宮頸がんを検査するものなどもある。
「がんリスクの何を調べるかによって、検査に使う検体が違ってきます。それぞれの精度を単純比較することはできないし、特定のがんリスクがわかる検査と、複数のがんリスクがわかる検査で精度が違うということもありません」
病院での検査のほうがリスクが高い場合も
またがん検査キットの中には、乳がんリスクがわかるものもあるが、乳がんリスクはマンモグラフィーなどの画像診断でなくてもわかるのだろうか?
「画像診断でなくてもリスクは調べられます。それにマンモグラフィーは被ばく量が高いので、定期的に乳がん検査をするなら、検査キットのほうが身体への負担が少ないですね。
もちろん画像診断を一切しなくてよいということではないので、バランスよく取り入れて」
検査キットの選び方として植田さんが重視するのは「購入後のサポートがあるかどうか」。
「検査キットは自分で検体を採取するので、きちんととれないと正確な検査結果が得られません。そのため、使用方法などのサポートがしっかりあるものが好ましいです。
特に検査結果が“高リスク”と出た場合、アフターフォローがあるかどうかは重要。電話相談や病院の紹介、精密検査を促すなど、細かいケアをしてくれるもののほうが、より信頼がおけます」
病院であれ自宅キットであれ、見落としを完全に防ぐことはできない。だが一方で、がんは急になるものではない。だからこそ手軽な方法で検査を習慣化し、数値の変化をチェックして、早期発見につなげることが重要なのだ。
今回は血液、唾液、便、各タイプのキットを編集部が実際にトライ。使い方や気になる点を徹底解剖!
難易度1 サリバチェッカー【唾液】
痛みもなく時間も最短、6種類のがんリスクが少量の唾液でわかる。
「早期のうちにがんを発見してほしい」との願いから、膵臓がんの治療に携わってきた消化器外科医が慶應義塾大学先端生命科学研究所の研究成果をもとに開発。
少量の唾液を採取するだけでがん組織の中から特異的に濃度が上がる複数の物質をAIで解析し、口腔がん、肺がん、乳がん、胃がん、膵がん、大腸がん、それぞれのリスクを0~1.00の数値で評価。
郵送または医療機関を通して約1か月後に書面で結果が届く
サリバテック https://salivatech.co.jp/
お試しリポート
酸っぱいものを思い浮かべて唾液を出すだけで超手軽!
(1)検体を送る用の箱には採取の際の注意書きが写真付きで載っていてわかりやすい!保冷剤付き。
(2)フタをあけると、採取容器が差し込めるスタンドに。梅干しなど酸っぱいものを想像すると、唾液は意外と簡単に出てきて採取完了。
(3)検体を保冷剤入りの箱に入れ、返送用の外箱で送るだけ。外箱も返送用伝票もセットに含まれるので、面倒くさがりの私でもラクチン♪
難易度2 大腸がん腫瘍マーカー検査キット【便】
やり方は健康診断と同じ!5分で結果がわかる低価格もうれしい。
女性のがん死亡原因1位である大腸がんに特化。便に、キット内のスティックをさして採取し、液体容器に入れて混ぜるだけ。それをテストカードに垂らせば、5分ほどで結果が出て非常にスピーディーだ。
便中のヒトヘモグロビンとトランスフェリンを測定し、がんリスクをチェックする。大腸がんは早期発見なら5年生存率は94%以上というデータもあるため、こまめに行いたい人にうってつけ。
ICheck https://icheck.jp/forwomen/
お試しリポート
知りたいときにその場で判定が出るのが魅力
(1)採便シートを敷く。便秘ぎみなので会社の検便はストレスだったけど、自宅キットなら自分のタイミングでできて助かる!
(2)スティックに大便を付着させて容器で攪拌し、検体をテストカセットに垂らしたら5分で判定。その場で結果が出るのでドキドキ。
(3)Cのみにラインが現れ結果は陰性。でもよく見ると、検査の指標のひとつであるトランスフェリンにうっすら線が。
難易度3 デメカル がんリスクチェッカー 女性向け【血液】
その場で分離させる注目の特許技術。
採血したらその場で血液成分を分離させる特許取得を採用した検査キット。この技術で成分を安定した状態で郵送することができる。
食道、大腸、乳がんなどの早期がん発見につながるp53抗体や、乳がんリスクがわかるCA15-3を検査。
約3日で結果速報がスマートフォンへ、約10日でコメント付き検査結果が郵送される。採血に失敗したら無料でキットを再送。
ウィズネット https://demecal.com/
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器具や手順は多めだけど説明動画を見れば問題なし
(1)ランセット(針)は、カチッと押しつけて針を刺すので失敗なし。血液をスポイトで吸う。
(2)キットの箱のフタを裏返すと容器のスタンドに。倒れないよう工夫され採取しやすい。
(3)シリンダーを挿したりとやや複雑だけど、説明動画があるので失敗なく終了。
難易度3 ketsuken 女性向けがん検査【血液】
ごく少量の血液で高精度の検査。
採取する血液は、目薬1滴程度。ごく少量だが、血液検査機関が独自に開発した最新技術で、医療機関での血液検査と同程度の高精度を実現。
がん細胞やがん細胞に反応した細胞によって作られるCEAやCA19-9などの腫瘍マーカーを検査し、乳がん、卵巣がん、子宮がんなどのリスクがチェックできる。
検査結果はアプリで届くから、過去のデータも蓄積され、推移を確認できるのも便利。採血に失敗したら初回に限り無料でキットを再送。
ketsuken https://ketsuken.com
お試しリポート
針が見えない作りなので自分で刺す怖さも軽減。
(1)返送用伝票や保冷剤、血が垂れるのを防ぐパッチなどもついているので安心。採取容器を組み立て式のスタンドにセットして準備完了。
(2)針が見えない状態で刺せるようになっているので、注射が苦手でもひるむことなくブスリ!
(3)3日でスマホに結果が到着。今のところ正常値でホッ。
おうちで検査したあとのアフターフォローが重要
「異常値」や「陽性」が出た場合、アフターフォローの存在は重要だ。
「サリバチェッカー」は自宅に取り寄せできるものの、基本的には医療機関を通して検査する方法を推奨。高リスクだった場合、すぐに医師に相談できるよう配慮しているためだ。
個人でキットを取り寄せた場合でも、全国にある提携医療機関で相談を受け付けてくれる。
「ketsuken」はビデオ通話を使って、医師にオンラインで保険診療を受けることが可能。生活習慣についてアドバイスが受けられるほか、必要であれば大病院を受診する際に必要な紹介状も作成してくれる。
紹介状なしで受診すると、通常7000円以上の特別料金がかかるので、その分お得といえる。
また自分で血液を採取するのは慣れない人も多いが、「デメカル」、「ketsuken」には使い方の電話サポートがあるので安心。各社HPでサポートの有無を確認して。
(取材・文/樫野早苗)