春ドラマには斬新な刑事・警察作品が2つある。フジテレビ系『風間公親-教場0-』(月曜午後9時)とTBS系日曜劇場『ラストマン-全盲の捜査官-』(日曜午後9時)である。
主演の木村拓哉(50)と福山雅治(54)の存在ばかりが話題になりがちだが、この2作品は日本の刑事・警察作品が変わるかどうかという重い意味も持つ。
日本の警察ドラマの改革になるか
まず『-教場0-』は連ドラでは近年、皆無に等しかった正統派ミステリー。正統派ミステリーとは、一言で言うと、作品に登場する刑事らと視聴者が一緒に推理できる作品だ。
原作小説を書いている長岡弘樹氏はミステリー界で当代屈指の実力者であり、その作品がほぼ忠実に映像化されている。ミステリードラマの本場・イギリスの作品と見比べて遜色がない。
第1話の“タクシー車内での殺し”と“密造銃による殺人”、第2話の“いじめが原因の殺人”も原作の通り。書評家たちから絶賛された作品だ。そもそも長岡氏は『週刊文春ミステリーベスト10』で第1位、「このミステリーがすごい!」で第2位になっている人なのである。
CS放送のミステリードラマ専門チャンネル『AXNミステリー』などを観ている人はすんなりと『-教場0-』の世界に入れたのではないか。もっとも、地上波での刑事・警察作品には正統派ミステリー作品がほとんどなかったことから、違和感をおぼえた人も少なくないかも知れない。
日本の刑事・警察作品は人間ドラマが主流だ。たとえば『科捜研の女』(テレビ朝日系、シーズン22が2022年12月に終了)は科捜研と刑事たちの活躍を中心に構成している。
『科捜研の女』の場合、放送開始から25分以内に浮上した有力犯人候補はほぼ例外なくシロ。意外な人物が想像も付かない手口で殺人を犯す。それが面白いと言う人も多いだろうが、観る側に真犯人が分かるはずがなく、ミステリーとは呼べない。
人間ドラマ型の刑事・警察作品は年齢の高い層には人気であるものの、40代までの視聴者には敬遠されることがデータではっきりしている。かつての勧善懲悪型の時代劇のようにパターン化されているからだろう。
昨年10月18日に放送された『科捜研の女』の初回2時間スペシャルもそう。個人6.6%、世帯11.9%だったものの、T層(13~19歳の個人視聴率)は1.7%にとどまった(ビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同)。全体的な視聴傾向も同じだ。
人間ドラマ型の刑事・警察作品から若い視聴者が離れてしまったので、『警視庁・捜査一課長』(テレビ朝日系、2022年6月終了)など幕を閉じた連ドラもある。現在は若い視聴者も観る新しい刑事・警察作品を各局が模索中だ。
その結果、3月まで放送されていた『警視庁アウトサイダー』(テレビ朝日系)のような作品も生まれた。俳優として国際的に評価の高い西島秀俊(52)にチンピラ刑事を演じさせたのだから、冒険だった。
『-教場0-』の視聴率推移から見る若年層の好み
『-教場0-』も新しい刑事・警察ドラマにしようとしているのが分かる。刑事指導官・風間公親(木村)と瓜原潤史(赤楚衛二・29)ら新米刑事との人間ドラマに徹することも可能だったはずだが、そうしなかった。
その結果、若い視聴者は観てくれているのか。第2話までの視聴率を見てみたい。
第1話(4月10日放送)
個人 7.2%
世帯 12.1%
T層 4.2%
第2話(同17日放送)
個人 6.6%
世帯 10.7%
T層 4.1%
T層が高い上、第2話でほとんど落ちていない。これだけ10代に観られている刑事・警察作品は現時点では存在しない。10代は義理人情の人間ドラマを好まぬ一方でミステリーは歓迎するようだ。
ちなみに月9の前作『女神[テミス]の教室~リーガル青春白書~』(フジテレビ系)の3月6日放送は個人3.7%、世帯6.0%、T層1.0%。若い出演陣が多かったにも関わらず、10代の支持が薄かった。『-教場0-』はT層が4倍になった。
第1話で被害者のホストクラブ経営者・芦沢健太郎(久保田悠来)がデパート販売員で犯人・日中弓(内田理央)の名前をタクシーの走行ルートに残した。犯人の名前を死の直前に残すのはイギリス作品によくある手法である。
第2話では子どもがいじめられて不登校になった溶接工・佐柄美幸(宮澤エマ)が担任教諭・諸田伸枝(山田キヌヲ)を撲殺した。校庭のブロンズ像の一部を切り離して凶器に使い、後から溶接して元に戻した。
どのエピソードも視聴者側に推理の材料やヒントが過不足なく提供された。ミステリーの鉄則が守られていた。
ちなみに『-教場0-』は倒叙ミステリーに属する。物語の序盤で犯人と犯行手口が視聴者に明かされるスタイルだ。過去の代表作は『刑事コロンボ』(1968年)とフジ『古畑任三郎』(1994年)である。構成が難しいから作品数は少ないが、名作が目立つ。
福山の『ラストマン』はハマり役?
一方、『ラストマン-全盲の捜査官-』も新しい刑事・警察作品。主演の福山が、全盲のFBI(米国連邦捜査局)特別捜査官・皆実広見役で、警察庁の護道心太朗役の大泉洋(50)の力を借り、事件を解決するからだ。こちらはアメリカ型である。
アメリカの刑事・警察作品において、「共生」は大きなテーマ。障がい者と健常者がイコールパートナーになり、お互いの能力や個性を生かし、事件を解決する。
アメリカの場合、人気小説『リンカーン・ライムシリーズ』を原作とするドラマ、映画が大ヒットした。主人公の元ニューヨーク市警の天才科学捜査官は捜査中の事故で四肢マヒとなったが、現役捜査官と協力し合い、難事件を次々と解決する。
また、聴覚障がい者の女性捜査官がFBIの捜査チームの中で活躍するドラマ『F.B.EYE!!相棒犬リーと女性捜査官スーの感動!事件簿』も大ヒットした。こちらは実話に基づく物語だつた。
福山は同じ日曜劇場の『集団左遷!!』(TBS系・2019年)では等身大の銀行マンを演じた。今度はどんな難事件でも解決するスーパー捜査官に扮する。フジテレビ系『ガリレオ』(2007年)の湯川学教授もそうだったが、福山には普通の人よりスーパーマンが似合うから、ハマるのではないか。
誤解されている向きもあるが、何でも出来る俳優のほうが偉いわけではない。故・高倉健さん(享年83)や故・渥美清さん(享年68)は役の幅の狭い人だったが、誰もが認める名優だった。あるベテラン俳優は「1つのキャラクターで長くやれる人こそ凄い」と言った。
さまざまな役を演じられる俳優は劇団出身者が多い。少人数で次々と公演するので、いろいろな役をこなさなくてはならないからだ。堺雅人(49)らである。
今回は福山がどんなスーパーマンぶりを見せるのか。