4月に始まった新番組「DayDay.」(画像:番組公式サイトより)

 今年の春のテレビ番組は改編が多かった。中でも注目したのが、日本テレビで月金ベルトで午前8時から放送していた「スッキリ」が終了したことだ。それに代わり「DayDay.」という番組が始まり、NHKの武田真一アナウンサーがスカウトされたと話題になった。

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 どんな番組になるのか気になって、4月3日8時に日テレを見たら、「ZIP」を放送していて当惑した。よく調べずに見た私がうかつだったのだが、「ZIP」はそれまで8時までだったのが9時までに延長され、「DayDay.」は9時スタートの番組だったのだ。

イメージとずいぶん違った

 9時を待って「DayDay.」を見た私は「あれ?」とまた戸惑った。イメージしていたものと番組がずいぶん違う。武田真一アナはNHK時代とは打って変わったカジュアルなキャラクターで、コンビの山里亮太に合わせて楽しそうな雰囲気を作ろうとしている。スタジオの出演者も明るく紹介して本題に入ると、取り上げたのは「いらないもので高額ゲット・リユース店5時間待ちも」という、生活情報だった。

 私が勝手に思い込んでいたのだが、「DayDay.」は「スッキリ」に代わるワイドショーではなく、明るく軽い生活情報番組だったのだ。てっきり加藤浩次氏に代わって武田真一アナが世の中の問題に切り込んでいくと思っていたが、全然違った。

 でもひょっとしてこの日は「リユース」だったが、別の日には「スッキリ」のように社会問題を取り上げるのかなと追っていったが、変わることはなかった。

4月3日の週の「DayDay.」が取り上げた番組前半のメインの話題を並べてみた(エム・データ調べ)。

3日(月)「いらないもので高額ゲット・春のリユース店5時間待ちも」
4日(火)「新生活で心配…ご近所トラブル・引っ越し前の”隣人調査”とは」
5日(水)「4月の食品値上げ・5100品目超・「○○なし」が人気」
6日(木)「食費や光熱費…打撃の春・いまできる”節約術”」
7日(金)「増えるマッチングアプリ婚・決め手は?実際に夫婦&親のホンネ」

 番組を見た時点でわかっていたことだが、これではっきりした。

朝のワイドショーをやめてしまった

「DayDay.」は「スッキリ」に代わるワイドショー番組ではなく、その後ろの10時からの番組だった「バゲット」に代わる生活情報番組で、日本テレビは朝のワイドショーをやめてしまったのだ。

 またこの週、気になって8時台の各番組をザッピングして回ると、妙にどれも明るくなったように感じた。もちろんNHK「あさイチ」は元々生活情報番組だし、TBS「ラヴィット!」はその前のワイドショー「グッとラック!」とは打って変わって朝から芸人たちがひしめき合うバラエティー番組になっていた。だがテレビ朝日「モーニングショー」、フジテレビ「めざまし8」はワイドショーのはずだ。ところが特に硬派だった「モーニングショー」では連日のように大谷翔平はじめメジャーリーグを取り上げている。WBC期間中からやっていたとはいえ、4月に入ってもまだ引っ張るとは。テレビ局はワイドショーをやめてしまったのか?

 そこで今度は2022年と2023年の4月第1週の朝の番組の内容を出し(エム・データ調べ)、8時台の内容を私なりに整理してみた。日テレ・テレ朝・フジテレビに絞り、ワイドショーがある程度の時間取り上げた話題を分類して書き出したのだ。まずは2022年の結果を見てもらおう。

●2022年4月第1週(月~金)の放送内容

・日テレ「スッキリ」
ウクライナ 8本、事件事故 2本、生活情報 8本、明るい話題(MLB含む) 1本

・テレ朝「モーニングショー」
ウクライナ 13本、事件事故 1本、生活情報 5本、明るい話題(MLB含む) 1本

・フジテレビ「めざまし8」
ウクライナ 8本、事件事故 5本、生活情報 6本、明るい話題(MLB含む) 0本

 ほとんどがウクライナの話題だったことがわかる。

 昨年の春はすべてのメディアがウクライナ一色に染まり、暗く重たいムードが立ち込めたので当たり前かもしれない。

 次に、今年2023年朝の第1週の3局の放送内容を書き出してみた。

●2023年4月第1週(月~金)の放送内容
・日テレ「ZIP」
ウクライナ 0本、事件事故 3本、生活情報 16本、明るい話題(MLB含む) 0本

・テレ朝「モーニングショー」
ウクライナ 0本、事件事故 7本、生活情報 7本、明るい話題(MLB含む) 6本

・フジテレビ「めざまし8」
ウクライナ 0本、事件事故 11本、生活情報 6本、明るい話題(MLB含む) 1本

 ウクライナの話題がたまたまこの週は出てこなかったというのはある。また「ZIP」は朝のニュースと情報番組で細かな話題が次々に出てくるので、この分類が合わないのは否めない。そうしたことを差っ引いても、全体に軽くなったことが感じられた。特にやはり「モーニングショー」がMLBを多く取り上げたのが目立つ。「めざまし8」が重い話題が多く、かえってワイドショーらしいようにも思える。

 2022年の重苦しい印象が、2023年は一気に明るくなった。

 ただこの翌週は北朝鮮のミサイルに対するJアラートについて論じるなど、「モーニングショー」の硬派な色が出てきたので、1週目だけを比べても断言はできない。ただ「スッキリ」がなくなったことで、8時台のテレビの空気が大きく変わったことは言えると思う。

過剰に追いかけ回すのがワイドショーだった

 そもそもワイドショーは、テレビの野次馬的な側面をもっとも象徴するカテゴリーだった。「マスゴミ」の言葉が使われるとき、それはワイドショーをイメージしていることが多いのではないか。その時々の好奇心を満たすべく特定の事件や人物にカメラを向けて、過剰に追いかけ回すのがワイドショーだったように思う。

 試しにまたこの10年間の4月第1週に最も時間をかけた話題を調べた(エム・データ「朝のニュースランキング」による)。ただし、朝の放送開始から午前10時までの集計なので、ワイドショーの前のニュース情報番組の話題も入っている。だがワイドショーは特定の話題に多くの時間を費やすので、ワイドショーが伝えた話題と捉えていいと思う。

2014年4月7日週:STAP細胞論文不正疑惑
2015年4月6日週:天皇皇后両陛下・パラオ公式訪問
2016年4月4日週:桃田賢斗&田児賢一・違法カジノで賭博
2017年4月3日週:北朝鮮・弾道ミサイル発射
2018年4月2日週:ビートたけし独立&オフィス北野内紛騒動
2019年4月1日週:新元号「令和」に決定
2020年4月6日週:コロナ感染拡大・国内では初の緊急事態宣言
2021年4月5日週:コロナ感染再拡大・まん延防止措置適用
2022年4月4日週:ロシア軍・ウクライナ複数都市で残虐行為か
2023年4月3日週:エンゼルス・大谷翔平・投打で活躍

「STAP細胞は、あります」の会見を何度も見たのも懐かしいが、北朝鮮の脅威をこぞって伝えた頃は金正恩の顔を連日ワイドショーで見た気がする。

 これは4月のデータだが、この10年ワイドショーはモリカケサクラなど政治問題を追うかと思えば、タレントたちの不倫問題を次から次に追いかけ、カルロス・ゴーン氏が逮捕されると連日その行状を晒し、週刊文春が何かを暴けばそのスキャンダルを後追いしてきた。悪くいうと叩く題材が見つかると一斉にそこにカメラとマイクを向けて追いかけ回した。同じ話題を連日取り上げ、細かな新情報を粗探ししては紹介していた印象がある。

ギスギスした空気が朝のテレビから消えた

 そういう過熱取材がすっかりなくなったわけではないが、今年4月第1週の変化は、ひょっとしたらテレビの大きなパラダイムシフトの一つではないだろうか。WBCはもう終わったのに、そしてメジャーリーグのデビューは少し前なのに大谷翔平の活躍がテレビの話題を埋め尽くしているのは、もはや叩く相手を探して回るギスギスした空気が朝の時間のテレビから消えつつある、その象徴ではないか。

 元々のワイドショーは芸能情報が中心で、追いかけ回す相手は離婚や不倫をしたタレントたちだった。それがいつの間にか報道的な方向にどんどん傾き、報道番組なのか情報番組なのかわからなくなっていった。ちなみに多くの局は、報道局と情報局は別の組織で、ワイドショーは後者が制作してきた。内部ではどこかに中途半端さが漂っていたように感じる。

 今週になると岸田首相への爆弾襲撃事件を集中的に扱っており、ひょっとしたら元のムードに戻る可能性はある。だが私はもうワイドショーという概念はいらないのだと思う。「モーニングショー」も「めざまし8」も、まったく新しいカテゴリーで捉えるべきときではないか。テレビがワイドショーに象徴されるメディアから脱皮し、本当の意味で人々のためになる存在に進化することを願っている。


境 治(さかい おさむ)Osamu Sakai
メディアコンサルタント
1962年福岡市生まれ。東京大学文学部卒。I&S、フリーランス、ロボット、ビデオプロモーションなどを経て、2013年から再びフリーランス。エム・データ顧問研究員。有料マガジン「MediaBorder」発行人。著書に『拡張するテレビ』(宣伝会議)、『爆発的ヒットは“想い”から生まれる』(大和書房)など。Twitter:@sakaiosamu