《こんな危ない祭りなら、やめたほうがいいんじゃないか》
《人が死に続けているのに、なぜやるの? 単なる不良の大人のおもちゃじゃないか》
ネット上で1本の動画が拡散され、物議を醸している。それは日本一激しい、男気あふれる祭りとして知られる関西の“だんじり”祭りで起きた事故の様子だった。
4月16日、大阪府堺市南区で修理を終えただんじり(山車、神輿)のお披露目の最中に事故は発生した。
「昨年10月の秋祭りから約半年、修理に数千万円もかけてようやく完成した檜尾地区のだんじりだった」(地元紙社会部記者)
120人ほどが曳き、だんじりの屋根や側面にも人が乗っている人が20人ほどいた。美多彌神社を出発して100メートルほどの交差点で、
「右に曲がる際、だんじりの後部を大きく振り回すように曲がる“やり回し”が見せ場だったんやけど、いつもより曳く人が2倍もいたからスピードが出過ぎていた」(現場の目撃者)
だんじりは左側に大きく傾き、歩道の標識にぶつかった。
重軽傷者11人の大事故に
「体勢を立て直そうと、右に引っ張ったら余計にバランスを崩してそのまま転倒。右側面に乗っていた30代、40代の男性6人がだんじりに押しつぶされて右足骨折や脊髄損傷などの重症、屋根の上にいた10代、20代の男性5人が軽傷を負った」(前出・社会部記者)
この日は快晴で、地域の観客も多く、現場で事故を目撃した女性が、
「だんじりが倒れて、けが人が出ている」
と119番通報。救急車や地元の大阪府警南堺署のパトカーが出動することになったわけだ。
今回は命が失われるほどの事故ではなかったが、関西各地のだんじり祭りでは過去10年で合計10人弱の死亡者が出ている。そのため、SNS上では事故動画に対して、冒頭のような厳しい声が上がっているのだ。では、地元の住民たちはどう思っているのか。
過去に祭りに参加していた70代男性は、
「やっているときは面白かったんやけど、いまは時代が違うさかいなぁ。伝統か、命か、難しいわ……」
“現役”でだんじりを引く40代男性は、
「ほかの地域の人に、とやかく言われたくない。僕らの地域のもんやさかいね。昔からやってきとるし、昔ながらの伝統がどんどん少なくなっていくなかで、自分としては受け継いで、後世に残していきたい」
起きるときには起きるもん
祭りには事故はつきものとも。
「われわれだって、好きで事故ってるわけではないっすよ。事故らないように、練習はしとるけど、これだけ荒っぽいと、起きるときには起きるもん。そのときの覚悟は、あらかじめしていますからね」(同・40代男性)
事故当日、お披露目の交通整理役として参加していた60代男性も、
「朝6時30分ごろ、だんじりを格納庫から出して、出発の神社へ曳いていくとき、沿道にはすでに結構な観客がきていました。みんな“(だんじりが)新しくなった”と期待感でいっぱいだった。かつてこの地域には7つのだんじりがあったけど、いまでは4つ。地元の繋がりがどんどん希薄になってやり手が少ないから、みな周辺へ応援をお願いして続けている状態ですから」
有名な岸和田だんじり祭りでも参加者は年々減っているという。檜尾地区の祭りも60年前に一度なくなり、30年ほど前に住民で一致団結して、再開したという歴史があるようだ。
だんじり擁護派の70代男性は、
「地域に根ざしてやっているんですよ。だから、やるもやらないも、地域に決定権があると思う。今回のも動画を見た“外野”が勝手にものを言ってるだけ。そんなのでひるんでやめたら、祭りなんてやれなくなってしまう」
しかし、地元の住民でも若い世代からは真逆の意見も。
本場・岸和田の影響で過激になっていった
「祭りそのものに興味がないので、やめてほしい。秋祭りは交通規制が行われるから車を運転しているとウザい。祭り2か月前から始まる練習期間は音がうるさいし。あっ、こんなこと、やってる側には言えないですけど(笑)」(30代男性)
地元の住民でも意見が分かれているようだが……。
「祭りとは“地域の安寧と発展”“五穀豊穣”などを祈るためのもの。“にぎわい”はあくまで副次的なものなので、時代ととともに移り変わってもいいと思います」
そう話すのは、とある神社関係者だ。そもそも、檜尾地区のだんじりは昔は穏やかで、ゆっくり曳くものだったとも。
「本場・岸和田の影響で、どんどん過激になっていったという話もあります。この事故を機会に一度、やる側(自治会)と地元の住民たちとで話し合うべきでしょう」
取り返しのつかない大事故が起きて、後の祭りにならないためにもーー。