「PARCO劇場に初めて行ったのは10代半ば。森山未來くんの舞台だったと思います。近年では『ゲルニカ』('20 年)などでも立たせてもらっていますが、ここで座長をやらせていただけること。そして“いつかやってみたい”と思っていた(演出の)森新太郎さんとご一緒できることが、いちばんうれしいです」
と、勝地涼。主演舞台『夜叉ヶ池』の幕が5月2日より上がる。本作は、幻想文学で知られる泉鏡花による戯曲だ。
「台本は現代の日本語ではなく、文語調。最初は“難しい”という感じだったんですが、読むほどに美しい。泉鏡花のセリフはすごくイメージが湧くというか、想像をかき立てられます」
主人公の気持ちは「理解できる」
勝地が演じるのは、萩原晃という学者。各地に伝わる不思議な物語の収集のために立ち寄った村で、美しい娘・百合と夫婦に。日に3度、鐘をつくことで“夜叉ヶ池”の竜神から村を守っている。
「誰も信じていない伝説を、ある老人から引き継いだ男です。村の誰かがやるだろうと思いきや、あざ笑うだけ。そんな中で“じゃあ自分が”という正義感だったり、百合さんと出会って“この人の力になりたい、守りたい”という気持ちは理解できます。誰かのそばにいたいと思うきっかけが、こういう形から始まることはあるだろうなと思います」
晃と百合、そして夜叉ヶ池の竜神の姫と彼方の竜神。ふたつの恋物語の展開とともに描かれるのは、人間の業欲。とある理由により、晃が鐘をつかなかった夜、悲劇が村を襲う……。
「最初に読んだときは、村人を代表とする人間の汚い部分や人が集まったときの怖さがこの作品の中にはあると思いました。ポスターやチラシを見て“難解そうだな”と思われるかもしれませんが、描いているのはシンプルに人です。美しい日本語でつづられる物語は、まるで(登場人物と)同じ谷にいるような感覚になれるファンタジー。ぜひ、足を運んでいただけたら」
本作は、“PARCO劇場開場50周年記念シリーズ”と銘打たれている。現在36歳の勝地が50歳になったとき、どんな自分になっていたい?
「20代はがむしゃらで。そこから学んだうえで30代はいろんなことに挑戦している最中で。そんなふうに過ごしながら40代で自分の立ち位置を確立して、50代や60代では自分の好きなことをやっていたいかな」
まだまだ“勝地涼”を知ってもらう段階
具体例として、尊敬する古田新太や堤真一の名を挙げた。
「おふたりは、ご自身が本当にやりたい作品をやっていらっしゃると感じます。そのうえでオファーされ続けている。僕はまだまだ、世の中の人に“勝地涼”を知ってもらわないといけない段階だと思っていて。夢を叶(かな)えていくために、待っているだけじゃなく、“この演出家と一緒にやりたい”と言えるような仲間をもっとつくっていきたいです」
今でも、十二分に知名度があると思うが、
「見たことはあっても、わからない方は多いと思います。今は情報が早い時代なので、少しの間出ないだけで“過去の人”になってしまう。だから記憶に残る作品や役を作っていきたいです」
子役時代の『さとうきび畑の唄』('03年)、20代では『あまちゃん』('13年)での“前髪クネ男”、近年であれば『志村けんとドリフの大爆笑物語』('21年)の加藤茶役……。強烈な印象を残した役はいくつもある。
「毎年じゃなくていい。自分にとっての代表作といえる作品に出会えれば、新たな作品への声がかかって新たな挑戦ができる。そうやって自分を更新しながら、届いていなかった方にどんどん知ってもらえるようにならないとダメだなと思っています。好きなことに情熱を注げて、そのうえで求められ続ける。考え続けているのは、そんな俳優像です」
いつか息子が舞台を見に来るかもしれない
すでに稽古に入り、ハードな日々。頑張る原動力になっているものは?
「息子です。いつか息子が舞台を見に来るかもしれない。この先、どんなふうになるかはわかりませんが、ずっとカッコいい父親でいたい。そのために頑張っています。日々の癒し? それも息子です」
と、とても穏やかな笑みを浮かべたーー。
●好きな文豪は?
本作は泉鏡花の戯曲だが、好きな文豪はいる?
「読書家ではないのですが、夏目漱石や太宰治、芥川龍之介は読んでいます。友人に“谷崎潤一郎、面白いよ。『卍』とか読んだことある?”と聞かれたことがあって。近くにいる友人に、そう言われたことが驚きというか、置いていかれたような気持ちにもなり“じゃあ読んでみるか”と。谷崎文学は何冊か読みましたが、面白いなと思います」
PARCO劇場開場50周年記念シリーズ
舞台『夜叉ヶ池』
5月2日(火)~23日(火)、PARCO劇場にて。全席指定1万1000円ほか。
https://stage.parco.jp/program/yashagaike/
撮影/矢島泰輔 スタイリング/上井大輔(demdem inc.) 衣装協力/White Mountaineering、New Balance