丸山桂里奈

 2月に第1子の女児を出産したばかりの、元サッカー女子日本代表・丸山桂里奈(40)。日々、子育てに奮闘する様子をツイッターで発信するなか、4月5日に、

《お母さんと育児で喧嘩。やたら昔育てたからで自信持ってこられてこっちが話したことを聞かないで大丈夫大丈夫とか言われると腹が立つ》とツイート。約4万件の「いいね」を集めた。

令和の新米ママとおばあちゃん世代の軋轢

「すごくわかります!」

「私も母からダメ出しばかりで、育児ノイローゼになりそう」

「子育て事情は今と昔で違うのに……」と、同世代のママたちから共感のリプライが相次ぐ一方、

「娘から、黙ってて!と、すごい剣幕で言われて以来、発言をやめました」とおばあちゃんサイドからの意見も。

 最新の育児情報が知りたい新米ママと、古い知識で助言してくるおばあちゃんとのいさかいは昔からあることだが、令和のいま、その実態は? 全国のママ世代600人にアンケートを実施したところ出るわ出るわ、おばあちゃん世代への不満の数々。40年の保育士経験を持ち、『日本子育てアドバイザー協会』認定の子育てアドバイザー、榎本可世子さんとともに、アンケート結果を検証してみた。

育児を巡って母親と喧嘩したことを報告した丸山桂里奈(本人のツイッターより)https://twitter.com/marukarichan11/status/1643511239715487746

 アンケートで特に多かったのが、離乳食にまつわる意見の相違。

「離乳食は早く始めたほうがいいと親に言われたが、最近では食物アレルギーを考慮し、あまり急がないほうがいいと育児書には書いてあった。育児書どおりにすると、親が不機嫌に」(兵庫県 40歳)

「赤ちゃんに果汁を飲ませるよう、親からしきりに言われた。飲ませなくてもよいと保健所から言われたのに、親に説明してもわかってもらえなかった」(大阪府 40歳)

 昭和の時代は生後2か月ごろから果汁を飲ませ、4か月ごろから離乳食を始めることが当たり前だった。しかし現在、厚生労働省の『授乳・離乳支援ガイド』では、離乳食の開始は「5、6か月ごろが適当」としている。さらに離乳開始前の果汁摂取については、逆に母乳の摂取量減少を招いて低栄養となる可能性があり「栄養学的な意義は認められていない」とのこと。

「子どもの発達において医学的な研究が進み、昔の子育ての常識がいまでは非常識とみなされる部分も多くあります」と、榎本さん。

 一般的に広く知られつつあるのは“口移し”で食事を与えることによる弊害。親から子に虫歯菌がうつる危険性があり、最近ではコップやはしなど食器の共有もNGとされている。しかしいまだに、

「義母が自分の使ったはしで子どもに食事を与える。虫歯菌がうつると言っても“乳歯は生え替わるから大丈夫”と、聞いてくれない」(新潟県 39歳)

味つけが濃いものはなめてから子どもに与えるよう母から言われた。虫歯菌の話をしてもわかってくれない」(埼玉県 40歳)

「3歳までは甘い物を控えさせたかったのに、勝手に食べさせていたりして。親世代は、虫歯に対する考えが甘いなと思いました」(佐賀県 37歳)

 など、虫歯に対する意識の低いおばあちゃん世代は多い。

 母乳育児について、おばあちゃん世代で意見が割れているのも興味深い。

「仕事があるうえにあまり母乳も出なかったので粉ミルクを使っていたが、母乳のほうがいいと母に決めつけられた」(滋賀県 39歳)

「WHO(世界保健機関)では2歳以上まで母乳育児を推奨しているのに、母は粉ミルクのほうが栄養豊富だと言う」(大阪府 38歳)

 戦後、粉ミルクが重宝された時期は確かにあった。食糧難による栄養不足で、十分な母乳育児が難しかった時代だ。いまでは赤ちゃんの免疫機能の発達や、母子のスキンシップの観点からも、世界中で母乳育児が推奨されている。もちろん、さまざまな事情で母乳を与えられないケースもあるが、罪悪感を抱く必要はなく、状況次第で粉ミルクを上手に活用すべきだ。

対立が起こる原因は?

 おばあちゃん世代の常識が、令和では非常識となった例はほかにもある。ベビーパウダーもそのひとつ。昔はおふろあがりの赤ちゃんが真っ白になるほどパウダーをまぶしていたものだが、いまでは過度な使用は汗腺をふさぎ、湿疹やかぶれの原因になるといわれている。

 また、赤ちゃんの積極的な日光浴も推奨されていたが、現在は紫外線を過度に浴びる危険性を考慮し「直射日光を避けた外気浴」が一般的だ。

※写真はイメージです

 時代の流れとともに育児の常識が変化するのは当然のことだが、そもそもなぜ、子育てをめぐる母娘の対立が起こってしまうのか。

「おばあちゃん世代は自分の子どもたちを立派に育ててきた自負があり、よかれと思いその知識を伝えてくれています。一方でこの情報過多の時代、若いママさんたちはスマホなどで常に最新の情報をアップデートしています。その内容にズレがあることで、意見の食い違いが起きてしまうのでしょう」(榎本さん)

 ママ世代にもっとも不評なのは、おばあちゃん世代からのアドバイスが怒りをもって行われるときだ。

「ワセリンによる赤ちゃんの肌の保湿が、アトピー性皮膚炎の発症予防になるのに、母から“何を塗っているの!”と怒りぎみに言われた」(広島県 37歳)

夫の祖母が、自分がしてきた子育て法がすべて正しいと思っている。私のやること何もかもを、すべて否定してくる」(京都府 28歳)

 おばあちゃんの助言も、最新の育児情報も、どちらも“参考程度”にしておくのがベストだと榎本さんは続ける。

「子どもはひとりひとり、みんな違います。大切なのは、その育児方法が自分の子どもに合っているかどうかを見極め、模索していくことです

 例えばおばあちゃん世代では、卒乳も、離乳食も、トイレトレーニングも、すべて“早め早め”を良しと考える人が多い。

保育園では、子どもひとりひとりの成長に合わせ、適切な時期を見極めることを大切にしています。トイレトレーニングでも、トイレに行くのを嫌がる子どものおむつを無理に外したりはしません。興味を持ち始めたときが、その子にとって最適なトイレトレーニングの時期。早ければいいわけではないのです」

 もっとも、おばあちゃん世代ばかりを責めることはできない。核家族化が進み、共働き世帯が増えるなか、子育てにおいて祖父母の協力は不可欠。「孫育て」という言葉も一般的となったいま、体力を振り絞って育児に協力している祖父母は少なくない。ママ世代も、当時はその方法が常識だったことを理解し、育児の手助けに感謝するなど双方の歩み寄りが必要だ。

「といっても、この歩み寄りがなかなか難しいんですけどね(笑)。私も娘がいますが、孫の育児については、ずいぶんケンカをしました」

「ママの愛とおばあちゃんの愛は違う」

 40年の保育士経験を持ち、子育ての専門家である榎本さんですら、孫育てをするなかで葛藤があったという。

食事のマナーやあいさつなど、日常生活で身につけるべき教えを私は大切にしていましたが、娘は自由を重んじる気持ちが強く、何度も衝突しました。でもある日孫から、何げない会話の中で“ママの愛とおばあちゃんの愛は違う”と言われたことがありました。そこで祖父母は自分の価値観を押しつけるのではなく、親の子育てを応援してあげることが大切だと気づきました。一日中子どもと向き合う母親は、並外れた精神力が必要です。だからこそ祖父母は一歩引いて、親の支援に回ってほしい。と言いつつ、私も上手にできませんでしたけどね(笑)」

お互いの“知恵”を出し合ってこそ、子どもにとってもいい子育てになるに違いない ※写真はイメージです

 遠慮がないからこそ母娘はぶつかるが、子どもや孫がかわいいのはみんな同じ。榎本さんは、自身と同じ“おばあちゃん世代”の読者に向け、ふたつのアドバイスをくれた。

まずは、ママさんを信じてあげること。そして、口は控えめにして(笑)、手を貸してあげることです。2世代が協力し合いながら、それぞれの子どもの個性に合った育児を模索していきましょう」

 最後に、印象に残ったアンケート回答を紹介したい。

「子どもが小さいうちは、母から何かいろいろ言われましたが、聞き流していたのであまり覚えてません(笑)」(熊本県 36歳)

 時にはこれくらいおおらかなほうが、お互いうまくいくのかも!?


取材・文/植木淳子