'56年の放送開始以来、お茶の間を楽しませてきたTBS日曜夜9時の『日曜劇場』。当初は単発ドラマ枠だったが'93年4月より連続ドラマ枠となり今年で30年。特に'00年代以降はフジテレビの月9とともに高視聴率枠としてドラマ界を牽引してきた。とはいえ、長い歴史の中では怪作、珍作もある。全国20代~60代女性1000人のアンケートで'00年以降の日曜劇場を振り返る。がっかり&よかった作品ははたして……?
日曜劇場 がっかりドラマランキング
ランキングを見れば一目瞭然だが、がっかりのトップ5に入ったのはすべて'20年代の作品。記憶に新しいということもあるのだろうが、ここ数年の『日曜劇場』の迷走ぶりを示す結果になったともいえる。
そんななか1位に選ばれてしまったのは、妻夫木聡&藤原竜也が闇医者チームのバディに扮した異色の医療ドラマ『Get Ready!』('23年1月)。妻夫木が近未来の医療技術を駆使するブラックジャックばりの天才外科医を演じたが、
「キャストはいいのに設定がとっぴすぎて、話が入ってこなかった。普通の医療モノでよかったのに……」(北海道・46歳)などリアリティーのなさに失望した視聴者が多かったよう。
ドラマウォッチャーで漫画家のカトリーヌあやこさんも「妻夫木さんと藤原さんで『日曜劇場』をやるなら、王道の池井戸(潤)モノでよかったんですよ。舞台で鍛えた藤原さんの香川照之さんばりの悪役なんて絶対面白いのに。題材が『日曜劇場』という枠にまったく合ってなかったんですよね」とがっかり1位も致し方ないと評する。
一方、これぞ日曜劇場といったスケール感たっぷりの『日本沈没―希望のひと―』('21年10月)が2位にランクイン。何度も映像化された小松左京原作の名作パニック小説のドラマ版だが、「昭和の映画版の印象が強いがまるでそれを超えてこなかった」(神奈川県・46歳)など原作や映画と比較して、物足りなかったとの声が多かった。
「映画だと結構すぐ日本が沈みはじめるのにドラマはなかなか沈まなくて“照之香川の沈まない話”みたいな(笑)。『シン・ゴジラ』の影響なのかやたら会議シーンが多くて、全然ディザスター(災害)モノを見ている気がしなかった。巨大地震って今の日本にはすごく身近なテーマなのに、サバイバル感もためになるノウハウも描かれなかったのは残念でした」(カトリーヌさん)
配役にも厳しい目
3位の『アトムの童』('22年10月)は山崎賢人主演のゲーム業界を題材にしたオリジナルストーリー。
敵役だった香川照之が直前に降板し、オダギリジョーに代わるというハプニングがあったが、「悪役が食傷ぎみだった香川さんより、新進気鋭のIT企業社長役はオダジョーのほうがぴったりだったのでケガの功名でした」とカトリーヌさん。
では、何が駄目だったのかというと、「せっかくゲームという目新しい題材だったのに、手あかのついたような物語だった」(京都府・39歳)から。
「若い主人公で新しい『日曜劇場』が見られるのかもという期待があったのに、内容的には町工場をいじめる大企業みたいないつもの感じになっちゃった。そのがっかり感はありました。あと、登場したゲームがあまり面白そうじゃなかった。ドラマでそれを求めるのは酷なのかもしれませんが、もう少しリアリティーも欲しかったです」(カトリーヌさん)
新機軸を打ち出したいが、新しくしすぎると視聴者層とのギャップが生じる。そのジレンマがあるのかもしれない。
4位の『テセウスの船』('20年1月)はタイムスリップした主人公(竹内涼真)が大量殺人犯として服役中の父の無実を晴らすべく奮闘するサスペンス。人気漫画が原作だがドラマでは犯人を変えている。
「真犯人の動機が納得いかなかった」(鹿児島県・47歳)、「途中までは面白かったのに最後の犯人の演技が……」(東京都・52歳)など改変部分への不満がほとんどだった。
「いわゆる考察モノで内容的にはとてもよくできていたと思います。がっかりの理由は“真犯人”に尽きます。原作を知っていても謎解きを楽しめるように変えたのだと思いますが、緻密に作られたミステリーの犯人を安易に変えるのは一番やっちゃいけないこと。しかも真犯人役の霜降り明星・せいやさんの演技が、さらにがっかり感が増すことに(笑)」(カトリーヌさん)
そして、綾野剛がスポーツマネージメント会社に転職した元サッカー選手を演じた『オールドルーキー』('22年6月)が5位にランクイン。
「スポーツに詳しくないのであまり楽しめなかった」(愛知県・55歳)と題材が視聴者を選んでしまった感がある。
「サッカーワールドカップとWBCを終えた今ならもっと話題になったはず。放送時期が悪かったですね。あと、スポーツマネージメントの裏側を描くことに徹すればよかったのに、途中から社内のごたごたがメインになってしまったのも減点理由かな」(カトリーヌさん)
7月には池井戸モノ主役たちがそろい踏み
一方、面白かった日曜劇場作品へと目を転じると、やはりドラマ史を飾る名作が名を連ねた。1位は当然のように『半沢直樹』('13年7月、'20年7月)だ。「人間同士の生々しいバトルが見ごたえたっぷりで、クセの強い演技にもハマった」(宮城県・54歳)と絶賛の声が多数。
「視聴率的にも日曜劇場の最高記録ですし、文句なしです。この作品が偉大なのは、ドラマ黄金期以降女性がメインだった『日曜劇場』におじさんたちを呼び戻したこと。明日は会社だという憂鬱な気分を吹き飛ばすカタルシスがありました。
ここから生み出されたフォーマット、悪役の大げさな芝居と顔芸、虐げられる町工場に暗躍する大企業、そして最後に倍返し……みたいなものはその後の『日曜劇場』にも脈々と受け継がれます」(カトリーヌさん、以下同)
2位の『JIN―仁―』('09年10月、'11年4月)は現代の医師が江戸時代にタイムスリップするという漫画原作らしい設定を見事にドラマ化した。
「名作です。歴史改変モノであり、良質な医療モノであり、切ない恋愛ドラマでもあった。盛りだくさんの要素を本当にうまくまとめていました。役者さんも素晴らしく、花魁役の中谷美紀さんやお母さん役の麻生祐未さんなど脇を固めた女優陣は特によかったです」
3位の『ビューティフルライフ』('00年1月)は木村拓哉主演、北川悦吏子脚本というど真ん中の恋愛ドラマ。一見、『日曜劇場』っぽくはないが……。
「それまで年齢層が高かった『日曜劇場』の視聴者層を若者へと引き下げたのがこの作品。バリアフリーという言葉はこのドラマで普及したと言われるくらい車椅子のヒロイン・常盤貴子さんは印象的でした。ラスト、ヒロインの死に化粧を施す木村さんの演技には号泣必至です」
こうして'00年以降を振り返ると、大型企画からトンデモ設定まで幅広いジャンルを網羅しているのがわかる。
「猟奇殺人鬼とヒロインの人格が入れ替わる『天国と地獄~サイコな2人~』('21年1月)とか意外に攻めた企画も多いですよね。
海外ドラマっぽい今クールの『ラストマン―全盲の捜査官―』での福山雅治さんと大泉洋さんのバディっぷりも楽しみですし、7月クールには堺雅人さん、阿部寛さん、役所広司さんという池井戸モノの主役3人がそろい踏みする超大型企画『VIVANT』も控えている。
時流に沿ったモノもやりつつ、壮大なスケールのドラマをやれる民放唯一の枠として、今後も期待しています」
『日曜劇場 がっかりドラマTOP10』
1位 『Get Ready!』 93票
'23年1月 出演/妻夫木聡
2位 『日本沈没-希望のひと-』 66票
'21年10月 出演/小栗旬
3位 『アトムの童』 62票
'22年10月 出演/山崎賢人
4位 『テセウスの船』 54票
'20年1月 出演/竹内涼真
5位 『オールドルーキー』 47票
'22年6月 出演/綾野剛
●6~10位のランキング●6位『ドラゴン桜』(41票'21年4月 出演/阿部寛)、7位『グランメゾン東京』(38票'19年10月 出演/木村拓哉)、8位『安堂ロイド〜A.I. knows LOVE?〜』(36票'13年10月 出演/木村拓哉)、9位『半沢直樹』(32票'13年7月、'20年7月 出演/堺雅人)、10位『マイファミリー』(30票'22年4月 出演/二宮和也)
『日曜劇場 よかったドラマTOP3』
1位 『半沢直樹』 138票
'13年7月、'20年7月 出演/堺雅人
2位 『JIN-仁-』 130票
'09年10月、'11年4月 出演/大沢たかお
3位 『ビューティフルライフ』 86票
'00年1月 出演/木村拓哉
(取材・文/蒔田陽平)