おそろいの制服に身を包んだその可愛らしい容姿と、美しいボーイソプラノ。「天使の歌声」で多くの人々を魅了し続けるウィーン少年合唱団がコロナ禍を経て、4年ぶりに来日した。
今年でなんと創立525年(!)という世界一歴史のある少年合唱団であり、2017年にはオーストリアのユネスコ無形文化遺産にも登録された。
その成り立ちは? 最近は多様な人種の少年が見られるけれど、世界中から少年が集まってくるのはなぜ? 少女合唱団はないの? など、気になることがたくさん!
天使の羽のようなベールに包まれたウィーン少年合唱団の“実態”を、関係者に直撃した。
神聖ローマ帝国皇帝ゆかりの少年聖歌隊が始まり
ウィーン少年合唱団の始まりは、1498年の神聖ローマ帝国にさかのぼる。時の皇帝マクシミリアン1世がウィーンに創設した宮廷合唱団の少年聖歌隊だった。長らく栄華を誇った王朝・ハプスブルク家に代々愛されてきたが、第1次世界大戦を経て1918年にハプスブルク帝国は崩壊する。
それとともに、少年合唱団も事実上消滅した。その後政府も救済を試みたが、最後の宮廷楽長だったヨーゼフ・シュミット神父が私財を投じて少年聖歌隊を私立の「ウィーン少年合唱団」として蘇らせたのだという。
「現在は、少年合唱団員も学ぶ合唱団の小学校、中学校、高等学校があり、300人の少年少女が通っています。全員が声楽のレッスンを受け、年齢や性別に合わせていずれかの合唱団で歌っています。ですので『少女合唱団』もあります」(窓口のジャパン・アーツ広報宣伝部、以下同)
ちなみに少年合唱団の初来日は1955年。1959年の日本映画『いつか来た道』には来日した団員が総出演した経緯もあり、日本で大ブームを巻き起こした。
その後も彼らの魅力に引き込まれる人たちは絶えることはなく、1960年後半から1970年代にかけては、来日するたびに少女雑誌の表紙に登場したり特集が組まれていたもの。外国人アイドルの元祖ともいえるだろう。
「オーディション」で入団を決定する
少年合唱団に入団するには、オーディションを受けることが必要だ。少なくとも音楽の素養や、ドイツ語をはじめとした語学力などが必要であると思われるが、オーディションの内容に関しては公開されていない。
現在では世界中から入団希望者を募っており、2009年には初の日本人メンバーが入団したことも話題になった。今回来日するメンバーは顔とファーストネームのみが公開されており、なかでも日本人のメンバーは11歳から14歳までの3名。ただ、個人を深掘りしないのは、合唱団の方針でもあるという。あくまでも「合唱団のメンバー」として楽しんでほしいということだ。
「彼らは歌を通して世界中とつながる『音楽大使』のような使命を持っていると思います。世界各地をツアーで回っていますので、合唱団が歌う様子を見て憧れて応募をしてくるというケースも少なくないようです」
ちなみに少年合唱団は全寮制で、団員はウィーン北部のアウガルテン宮殿で卒業まで生活をするという。ある時に公開された1日のタイムスケジュールによると、朝起きて7時半から勉強を開始、11時には合唱の勉強、13時にお昼。午後は授業と歌の個人レッスン、宿題をやり、18時に夕食。21時には就寝という驚愕の規則正しさ! 入団してからも相当な努力・体力が必要であることは間違いない。
有名音楽家の名を冠した組分け
ウィーン少年合唱団のメンバーは約100人で、1クラス25人の4つの組分けがされている。今回来日する「ハイドン組」のほか「モーツァルト組」「シューベルト組」「ブルックナー組」の4つだ。どれもオーストリアの音楽の巨匠の名前だが、実際に合唱団とゆかりがあるのだろうか?
「ハイドンはウィーン少年合唱団とゆかりのあるシュテファン大聖堂の少年合唱団の団員でした。ウィーン少年合唱団の助っ人を務めたこともあるようです。モーツァルトは宮廷作曲家として合唱団のために作曲をしています。
シューベルトは実際に団員として参加しており、ブルックナーは礼拝堂のオルガニストで少年たちに合唱指導をしていました」
さすが、音楽の都! また、4つの組に分かれているのは、その活動が多岐にわたることに理由がある。
「彼らは毎日曜日の礼拝堂のミサで歌い、また国歌を合唱する行事への参加や、外国へツアーに行きます。お休みをとったり、お勉強をしたりを考えると、複数のクラスがあることが必要なのだと思います」
声変わりしたら?出身者のその後は?
ウィーン少年合唱団は、ソプラノとアルトの2パートのみ。そのコーラスは、20世紀最大の指揮者のひとりとも称される巨匠アルトゥーロ・トスカニーニをして「天使の歌声」と言わしめたという。
また、昔からまことしやかに「声変わりをした少年は即退団させられてしまう」というウワサを聞いてきたが、その真相は?
「そういったことはありません。現在、学校は高校まであるので、合唱団を卒業するという形で、そのまま学校に通うなど、次のステップに進むようです」
なお、合唱団の団員だった生徒たちの卒業後の進路は、3分の1は音楽家になるというが、外交官や医師、弁護士などさまざまな職につくという。
「毎日たくさんの努力をして世界中を回るなど、非常に有意義な経験をしているお子さんたちなので、その経験を社会に還元するように活躍をしていると思います」
コロナ以降4年ぶり来日、見どころや意気込みは?
2019年以来、4年ぶりの来日となるウィーン少年合唱団。今回の聴きどころはどこ?
「前述のとおり今年でウィーン少年合唱団は525周年を迎えるのですが、今回モーツァルトの『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』を芸術監督のヴィルト氏によるアレンジで歌います。モーツァルトの曲にはケッヘル番号という番号がついているのですが、この曲は525番ということで遊び心のある選曲になっています」
聖歌やクラシックだけではなく、世界各国の楽曲を公演をしながら覚え、それを他国でも披露するのが彼ら“音楽大使”の務め。今回もプログラムには日本はもちろんインドなどの唱歌や映画音楽まで多岐にわたるラインナップだ。
また、変わり種ではTikTokなどのSNSで話題になったネイサン・エヴァンズの『ウェラーマン(船守の労働歌)』も歌われるという。その音楽性の幅広さは、今年もたくさんの人を魅了すること間違いなし。
「合唱団のみんなは、日本に来ることを本当に楽しみにしていて、いろんなところへ行ってみたいと話しています。一生懸命準備していい演奏会を届けたいというのが彼らの思いです」
数名の日本人メンバーを含む、来日中のウィーン少年合唱団「ハイドン組」。天から降ってくるかのような澄んだ歌声を堪能できる久々の機会。ぜひコンサートに足を運んでみては?
東京公演:〜6月18日(全国公演日程は随時、特設サイトにて発表)https://www.japanarts.co.jp/special/wsk/
(取材・文/美女川満子)