BLドラマが花盛り。今年の1月期には3本、4月期には4本も放送されている。ドラマに精通するライターの田幸和歌子さんはこう語る。
「かつては実験的で冒険的なドラマを作るのはテレビ東京というイメージでした。その中でBLなら『きのう何食べた?』('19年)、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(通称チェリまほ・'20年)などのヒット作を生み出し、もはやチャレンジャーではなく挑まれる側になったことで、抱えるプレッシャーや難しさも出てきている。
そんな中で、特にMBS(毎日放送)が攻めていますね。いちばん、やりたいことをやっている感じがします。1年限定でBL専門の『ドラマシャワー』枠(木曜25時29分~59分)を昨年4月に創設したことも驚きましたが、これが好評で今年の4月以降も継続されることになりました」
朝ドラや戦隊ものに続く若手俳優の登竜門に
BLドラマは、漫画を原作したものが多い。
「世の中の流れとして今、配信漫画がすごく読まれています。見てみると、女性向けの恋愛ものと謡いつつも純愛ではなくちょっとエロのあるものだったり。もちろんBLもずっと需要がある。多分、就寝前や、子どもが眠った後のひとりの落ち着ける時間にそういった少し刺激の強い漫画をスマホで読んでいた感覚で、BLドラマを見る流れはあるんだろうなと思います」(田幸さん、以下同)
BLの裾野を拡大した作品といえば、やはり『おっさんずラブ』('16年)。
「制作側はBLという言葉を一切使わず、普遍的な人間愛を笑いを交えつつ見せたことで、ハードルをぐっと下げた。BLを特別なものではなくした功績は大きいです。そして『きのう何食べた?』では西島秀俊さん&内野聖陽さんという人気のトップ俳優が出演したことで、BLドラマへの出演がひとつのステータスに。
芸能事務所も“キャリアアップのために挑戦させる”というスタンスになりました。今や朝ドラや戦隊もの同様に、若手俳優の登竜門のようになっていると感じます」
具体的には『チェリまほ』の赤楚衛二、『美しい彼』('21年)の萩原利久などが思い当たる。
「さらに『チェリまほ』では心の声を描くという手法が採られました。スマホの普及によって“すれ違いがなくなった”と言われていた中で、心の声を視聴者に聞かせることでもどかしさやすれ違い、伝わりそうで伝わらない思いを描いた。『チェリまほ』以降のBLドラマは多くがそのスタイルを踏襲しています」
最近のBLドラマぶっ飛んだ設定が多い理由
そんなふうに市民権を得ていったBLドラマだが、最近の作品は設定に“やりすぎ感”や“なんだこれ感”が……。今期でいうなら、
「『私と夫と夫の彼氏』(テレビ東京)はセックスレスの夫婦に夫の彼氏が絡むBLドラマ。設定半分でも成り立ちそうです(笑)。『全ラ飯』(カンテレ)は“裸で食事をする”という癖がバレたことで展開するBLもの。なんというか、よくわかりません(笑)」
1月期でいうなら『僕らのミクロな終末』(ABC)は10日後に地球が滅亡するという中、“楽に死ねる薬”の代わりに死体の処理の手伝うことで心と身体の距離を縮めて……というBL。
「設定としては“ごった煮”感がありますね。原作漫画にはコミカル要素もあるんですが、ドラマはもっとシリアスに描きながら性描写もしっかり。SF+BLといった感じです。同じく1月期の『ジャックフロスト』(MBS)は記憶喪失+BLですが、泣ける。また昨年放送された『永遠の昨日』(MBS)はゾンビ+BLですが名作で、完全版が4月から放送されているほどです」
田幸さんは、確かにぶっ飛んだ設定が多いと語る。
「質がすごく高い作品もあれば、単純に役者さんのお顔を楽しむだけのものも。近年、多くの人が動画配信を楽しむようになり、長いコンテンツとしっかり向き合えない傾向が。実際、BLではないドラマでも30分や40分の枠が増えています。
飽きやすい人にも見続けてもらうために、要素を盛る傾向はBLに限らず、ドラマ全般にあるように思います。また、これだけBLドラマが量産されているので、あれもこれも乗っけることで差別化を図っている部分もあるでしょうね」
また制作サイドから見てみると“BLなら企画が通る”という傾向も。
「BLだったら放送後の配信でもある程度見てもらえることを説得材料に、やってみたいことにチャレンジしているんだと思います」
実際、BLドラマには映像がすごくきれいなものが多いという。
「例えば『永遠の昨日』、そして『ジャックフロスト』も当てはまりますね。クリエイターたちもBLを笠にして攻めた映像を作れているんだと感じます」
BLは飯テロに次ぐ熱いジャンル
今後もBLドラマは作り続けられ、その味つけも濃くなる一方?
「そうだと思います。原作となりえる漫画もどんどん描かれていますし。何より、もはやBLドラマは“キワモノ”ではまったくないんですよね。その昔、井沢満さんの脚本で山口達也さんが出演した『同窓会』('93年)はBLドラマのハシリで、女子たちは“キャーキャー”言いながら、そんなふうに見ていたと思います。でも今は、例えば『みなと商事コインランドリー』('22年)は今夏に続編の放送が発表されましたが、ハードルは同性愛であることではなく、年齢差や立場の違いなんですよね」
BLドラマというジャンルが成熟してきたことで、
「描かれる心模様がより繊細で、共感や涙や気づきを与えてくれる作品も生まれてもくるでしょう。もちろん、玉石混交ですから、“なんだこれ?”という作品も(笑)。いまやBLは“飯テロ”に次ぐドラマの熱いジャンルになっているので、このブームはあと数年は続くような気がします」
田幸和歌子(たこう・わかこ)さん○週刊誌や月刊誌、Webメディアなどで俳優や脚本家のインタビュー、ドラマに関する記事を執筆。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など