《当館ダイバーも無事避難することができました》
5月5日午後2時42分頃、石川県能登地方で最大震度6強の地震が発生。そんな誰もが不安の中、石川県七尾市にある『のとじま臨海公園水族館(のとじま水族館)』に訪れていた来館者がダイバーを救った。
水族館来館者がスマホ見せダイバーを救う
冒頭のツイートは5月6日、『のとじま臨海公園水族館(のとじま水族館)』の公式ツイッターにて、投稿された一部。21.9万いいねと4.6万リツイートの反響を呼んだツイートの全文がこうだ。
《昨日の地震発生の際、当館ダイバーが『のと海遊回廊』で潜水掃除を行っていましたが、すぐにお客様がガラス越しにスマホの緊急地震速報の画面を見せてくれたとのことでした。そのおかげで、当館ダイバーも無事避難することができました。ダイバーはこのとっさの行動にとても感謝していました》
大型連休中で多くの観光客が石川県を訪れている中、北陸新幹線などの交通機関の乱れで、大勢に影響を及ぼした地震。そんな中、のとじま水族館で心あたたまる出来事があった。
実際に水槽に潜っていたダイバーの日比野さんにお話を伺ってみると……。
──来館者からスマホを見せられたとき、どう思ったか?
「最初は、このところ小さな地震が多かったので、またかな?と思っただけでした。でも、同じお客様がもう一度画面を見せてきて、それでこの場所に大きな地震がくる、と分かりました。周りのお客様の様子を水槽ごしに見たら、皆さん水槽を見ずに逃げようとしてる感じだったので、すぐにアクリルから離れました」
──そもそも水槽の中では地震を感じることはあるのか?水槽の中にいたときに大きな地震があったら?
「今回は揺れは全然感じませんでしたが、大きな地震が起きるとアクリルパネルが割れたり、岩に似せた擬岩や照明などがぶつかる危険もあります。それですぐにスタッフから水槽から出るようにという指示がありました」
──スマホ画面を見せてくれた来館者には会えたのか?
「水槽の中からお礼のジェスチャーはしたのですが、直接はお礼を伝えることはできませんでした。
水槽から上がってから、着替えもしないまま、すぐにスタッフとしてお客様の誘導をしながら、駐車場に向かいました。スマホを見せてくださったお客様にお礼を伝えたいと思いましたが、大勢の避難されたお客様がいて、混乱の中、見つけることができませんでした」
──公式ツイッターの投稿に、たくさんの反響があったが?
「何がバズるのかわかりませんね……(笑)。このところいいニュースがあまりないですが、こんなあたたかいお話が伝えられたのでよかったと思いました。
お客様自身も不安の中、スマホを見せて自分を助けてくれたお客様には直接お礼を言えませんでしたが、感謝していることを伝えられたら……」
心温まるツイートに反響続々
この来館者のとっさの行為には、SNSでも多くの賛辞が見られた。
《あぁ、読んでると涙が……。私もそんなとっさに動ける人でありたい。水族館のスタッフさんが優しくて気が利いてご立派な所だからお客様も同じ方が集まるんでしょうね》
《話で聞くと「私だってそうする」って考えそうになるけど、実際なかなかできない事だよね……。
急に起きた状況で数秒の間に「この人は気づいてない。危ない!見せなくては!」って気づけるその機転の良さ。この話を心にとどめて、少しでも自分の糧にしたいと感じました》
《来館者さんの行動が素晴らしいのはもちろんだけど、それをお知らせしてくれたダイバーさんと、のとじま水族館さんも素晴らしい。知ってると知らないは雲泥の差。
こういう咄嗟の行動取れるように常に意識していたい。自分の身を守ることが最優先なのは変わらないけど、少しでも広い視野は持っていたい》
今回の地震で、のとじま水族館に大きな被害は見られず、現在は通常の営業に戻っている。
能登周辺に生息している生き物や魚を中心に展示しており、特に、イルカやジンベエザメが人気ののとじま水族館。5年前にリニューアルした『のと海遊回廊』では、広いアクリル水槽にプロジェクションマッピングを投影していて、神秘的なスポットとして人気を博している。水槽に潜って作業しているダイバーを、アクリルごしに見られるのも一興だ。
水族館がツイートともにつけた「#感謝」が、スマホを見せた来館者に伝わってほしい。
(取材・文/志村結衣)