『ラヴィット!』司会者の麒麟・川島明、使用済みのつまようじで店頭の商品を食べた相席スタート・山添寛、それを謝罪したTBSの田村真子アナ

「日本でいちばん明るい朝番組」を掲げる、TBS系バラエティー番組「ラヴィット!」に、このところ暗雲が垂れこめている。お笑い芸人が海外ロケで行った「つまみ食い」が衛生面や倫理面で問題がある、と批判が集まり、「炎上」状態となっているのだ。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 ネットメディア業界に長年身を置く筆者は、この番組を「SNS時代の新たなバラエティー番組」として評価していた。一歩間違うと炎上しかねない、スレスレのラインをねらうことで、視聴者との共犯関係を築き上げ、番組関連ワードを連日ツイッターのトレンド(投稿数の多い単語)へ送り込む。そうしたスタイルだけに、「絶対に炎上してはならない番組」でもあった。

 なぜ本番組は炎上してしまったのか。そして、出演者による謝罪を経ても、炎上は収まらないのか。騒動を振り返りつつ、ひもといていきたい。

人気の情報番組がVTRで「炎上」状態に

「ラヴィット!」は2021年春、お笑いコンビ「麒麟(きりん)」の川島明さんと、田村真子TBSアナウンサーをMCとして開始。月曜日から金曜日まで、平日朝8時から9時55分まで、基本的にスタジオからの生放送で、芸人を中心とした出演者と、川島さんとの掛け合いを中心に届けている。

 情報番組の一面を持ちながら、話の流れから「大喜利」に発展することも珍しくなく、他局がワイドショー横並びのなか、異色の存在で人気を集める「ラヴィット!」。この4月からは、かつての「笑っていいとも!増刊号」(フジテレビ系)のように、1週間の名シーンを振り返る総集編「夜明けのラヴィット!」も、土曜朝に放送されている。

 今回騒動となっているのは、2023年5月2日に放送された韓国ロケの様子だ。ゲストらが市場を「食べ歩き」している途中、から揚げ店で「相席スタート」山添寛さん(37)が、使用済みのつまようじで、店頭の商品を直接グサリ。共演者の制止もむなしく、口の中に入れてしまい、店員からもジェスチャーでマナー違反を指摘されたが、山添さんは悪びれぬ表情でモグモグし続けるのだった。

 なお当該シーンは、ワイプ(小窓)でスタジオ出演者は映っているものの、VTRでの放送だった。

 このところ外食チェーンで、客による「迷惑行為」が頻発している。回転寿司チェーンのしょうゆ差しをなめる行為などが有名だが、つまようじをめぐるトラブルも起きている。また数年前には、コンビニでの「おでんツンツン男」が疑問視された。

 社会問題化している中での山添さんの行為に、SNS上では非難の声が相次ぐほか、韓国メディアも「日本の有名お笑い芸人、ソウルの市場で迷惑行為……ツバの付いたようじで売り物をパクリ」(朝鮮日報日本語版、3日配信)のように伝えている。

 反響を受けて、5日の放送では、田村アナが謝罪し、店舗へ直接わびたと明かした。関係者に加え、視聴者にも「不快な思いをさせてしまった」と、おわびしたものの、バッシングはおさまらない。

 8日には、翌日放送予定だった「韓国旅」の続編を見送ると発表し、もう1人のMCである川島さんが、謝罪とともに「また心から皆さんに笑ってもらえる番組づくりを目指す」とコメントした。

認知度を高めたコーナーとキーパーソン

 山添つまようじ騒動は、「だれが謝罪するべきなのか」や「制作陣のVTRチェック体制」など多くの論点があるが、ネットメディア編集者として約10年、炎上事案を見てきた筆者は、「これまで『炎上』をコントロールできていたゆえの失敗」とのポイントから考えたい。

 平日8時台のTBSは、2014年の「はなまるマーケット」終了以降、ワイドショー色の強い番組が続いていたが、視聴率は上向かなかった。そこへ時事ネタを捨てて切り込んだのが「ラヴィット!」だ。

 開始半年後には、同局の人気番組「水曜日のダウンタウン」が、「ラヴィット!」に対してドッキリ企画を実施。人気芸人が別室でつくった大喜利回答を、スタジオ共演者に気づかれないように、タレント・あのさん(通称あのちゃん)が代理で答えるというもので、生活習慣の異なる視聴者層にも認知度を高めた。

 これに加えて、確固たる地位を築き上げたのは、間違いなくSNS、とくにツイッターの効果が大きいだろう。原動力は、視聴者へのプレゼント企画だ。応募ツイートには、出演者が発表するキーワードを書き添える必要があるのだが、それが日を追うごとに「大喜利コーナー」に変わっていった。

 懸賞応募用のキーワードは、ツイートするだけで当選のチャンスがあるため、そもそもツイッターのトレンドに入りやすい。たいていのプレゼント企画は、番組名や商品名、せいぜいキャッチフレーズを投稿させる程度。その点、番組を見ていない人や、プレゼント目当てじゃないユーザーも「思わず反応したくなる仕組み」を作ったのが、「ラヴィット!」の功績だ。

 そして、そのキーパーソンとなったのが、ほかならぬ山添さんだった。2021年11月2日の「ラヴィット涙の最終回」を皮切りに、「ラヴィット深夜へお引っ越し」「ラヴィット実は収録だった」「MC激怒で途中退出」のように、番組を見ていない人でも、詳細を確認したくなる真偽不明のフレーズを連発する。

 番組関連のツイートが増える一方、ヒール役となった山添さんも「クズキャラ」を確立する。視聴者も出演のたびに「山添がなにを言うか」を気にしてしまう──。

 このような、番組、山添さん、そして視聴者による「共犯関係」は、「ラヴィット!」を人気番組に押し上げた要因の1つだろう。

延焼する騒動とテレビ局の対応

 とは言っても、放送開始から2年間、ここまでの炎上事案は起きなかった。その理由は、通常だとMCである川島さんの力量により「初期消火」が徹底されていたことにあると、筆者は見ている。山添さんをはじめとする出演者が、どれだけウソを並べても、即座に否定、時には非難しつつも、ツッコミで笑いに昇華する。ここまでが「パッケージ」なのだ。

 SNS上ではワンシーンのみ切り出し、動画として拡散されることが珍しくない。そのため、すぐさま対応できないVTRが火種になってしまうと、スタジオでの掛け合いとは異なる対処法が必要になるわけだが、そのノウハウを持ち合わせていなかったのかもしれない。

 もっとも今回は、いくら「初期消火」しようとしても、かなり無理筋な事案だ。だからこそ、編集でカットせず、オモシロとして扱えると判断した、番組制作サイドの責任は大きい。

 その点、放送3日後にTBS社員(田村アナ)が謝罪したことは本筋といえるが、「いちアナウンサーを番組や局の代表者として、視聴者が受け止めてくれるか」は、またべつの問題だ。

 ここまで延焼してしまった以上は、放送局としての公式見解や経緯説明を、番組ではなく書面として出さざるをえないのではないか。

晩節を汚してしまった「スッキリ」

 くしくもライバル番組だった「スッキリ」(日本テレビ系、今春終了)は、最終回直前の炎上で晩節を汚したのは記憶に新しい。

 動物園「那須どうぶつ王国」とスタジオをつないだ3月24日の生中継で、ペンギン池へ「オードリー」春日俊彰さんが複数回落下。あおるような発言をしたMCの「極楽とんぼ」加藤浩次さんにも批判が続出した。

 この際、那須どうぶつ王国は放送当日、抗議文をツイートし、日本テレビも謝罪文を「スッキリ」公式サイトに即日掲載した。土日をはさんで、週明け27日の「スッキリ」では、改めて加藤さんらMCがおわびし、同日中に日テレ・石澤顕社長も定例会見で謝罪した。

 春日さんサイドから発言がなかったため、山添さん同様に「本人が謝罪すべき」との声が連日増していたが、那須どうぶつ王国は後日(4月4日)、中継の翌々日に春日さん本人も、スッキリ制作責任者とともに来園のうえ謝罪していたと明かしている。

 炎上の経緯や笑いを起こそうとした背景、抗議の有無など多くの点で異なるため、これら2ケースを単純比較することはできないが、このような事案が長く続いた番組の「晩節を汚す」ものになることもあるのだ。

「つまようじ食レポ」放送から1週間。ゴールデンウィークをはさんだが、その炎上はとどまるところを知らない。山添さんの動向はもちろんながら、いかにTBSが誠意ある対応をできるかに、「ラヴィット!」の未来が「明るい」かどうかが、かかっている。


城戸 譲(きど・ゆずる)Yuzuru Kido
ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー
1988年、東京都杉並区生まれ。日本大学法学部新聞学科を卒業後、ジェイ・キャストへ新卒入社。地域情報サイト「Jタウンネット」編集長、総合ニュースサイト「J-CASTニュース」副編集長などを経て、2022年秋に独立。政治経済からエンタメ、炎上ネタまで、幅広くネットウォッチしている。