4月スタートのドラマ『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系)でファッション誌の編集長役を好演し、女優としての活躍の幅を広げるMEGUMI(41)。そして、『トークィーンズ』(フジテレビ系)などバラエティー番組で引っ張りだこの若槻千夏(38)。
両者とも妻でありママでもあるが、家庭的で優しい従来のママタレントのイメージとは違い、毒舌キャラで同世代ママ層を中心に支持を集める。どうやら近頃はママタレの需要が変わりつつあるようだ。
「“毒舌ママタレ”は最近できた新しいジャンル。ママタレがどんどん多様化し、人気のママタレ像が変わってきている」
と言うのは、メディア研究家の衣輪晋一さん。“毒舌ママタレ”の始まりは昨年からレギュラー放送されている『上田と女が吠える夜』に若槻とMEGUMIが出演するようになったあたりからだと解説する。
時代にフィットした「本音トーク」
「若槻さんは場を読んでのトークがズバ抜けていて、陰で番組を回す力がある。指原莉乃さんをして“あれ以上の人はこの先出てこない”と言わしめたほど。毒舌ママタレのはしりといえるでしょう。MEGUMIさんは毒舌というより“意地悪感”が印象的です。
『痛快TVスカッとジャパン』(フジテレビ系)の悪女役もハマっていて、“こんな人が友達にいたら楽しそう、相談したらズバッと言ってくれそう”という印象。もともとバラエティーで高い需要のあった毒舌キャラのジャンルに、ママという属性がついた。この2人が現時点の毒舌ママタレの二強でしょう」(衣輪さん、以下同)
毒舌のママタレはほかにも藤本美貴(38)、北斗晶(55)なども思い浮かぶが、歯に衣着せぬ物言いながら、思わずくすりとさせられてしまう。嫌みのない本音トークは彼女たちの持ち味で、それがまた今の時代にフィットした。
「最近のテレビは忖度が多いので、本音を言える人がウケる。若槻さんはバラエティーに出始めたとき“こんなにおしゃべりだったのか”とグラドル時代からの男性ファンに幻滅されたこともあった。その一方で、今のZ世代の男性からは面白いお姉さんだと好感を持たれている。SNSではバラエティー番組の切り抜き動画に“いいね!”が多くついて拡散されるなど、男女問わず人気になっています」(衣輪さん、以下同)
“二強”には豊富な人生経験が
グラビアタレントとしてキャリアをスタートした2人もアラフォーに。これまで積み重ねてきた紆余曲折の道のりが“毒舌ママタレ”としてのバックボーンになったと話す。
「若槻さんは20代のとき“自分の代わりはいくらでもいるのでは”と考え、海外に行って勉強したり、自分で会社を立ち上げたりと経験を積み、話す内容も深みが増している。MEGUMIさんは30代から役者の仕事も積極的に始め、さらに映画やお店のプロデュースを手がけたりと、次々と新しいことに挑戦してきた。いろいろな悩みや苦労を味わい、落ち着きのある大人の女性になった。単なる毒舌ではなく、さまざまな経験をしてきたから言えるトークなので、誰も傷つけないし説得力がある」
毒舌ママタレに必要なのは人生経験を踏まえた上でのコメントで、ママ目線での発言ばかりでは支持されないのだ。
かつては女性タレントにとってママタレという立ち位置は産後の起死回生をはかり、生き残りをかけたひとつの道でもあった。実際にママという肩書を得たことで、新たな道を切り拓いたタレントは多い。
ママタレブームといえば思い出されるのが、元モーニング娘。の辻希美(35)。20歳のときタレントの杉浦太陽(42)と結婚・出産し、アイドルからママタレへ転身を遂げた。育児の様子を綴ったブログはランキング1位をキープし、書籍化もされた。しかし、ブログにあげたオムライスが“下手すぎ!”と言われるなど、たびたび炎上。3月28日放送の『ぽかぽか』(フジテレビ系)に夫婦で出演した際に、メンタルをやられたこともあると告白している。
「彼女は賛否両論なところがあって、もともと女性からの支持は多くなかった。ちょっとした失敗でもすぐ叩かれるし、炎上もする。温かい家庭をこれでもかと見せつけたり、幸せなママの暮らしぶりとかを売りにしすぎると反感を買いやすい」
人気タレントにとって家庭を持つのは諸刃の剣で、家庭円満を前面にアピールしすぎれば疎まれることも。
では若槻やMEGUMIたちの後に続く未来の“毒舌ママタレ”候補はというと?
「今注目しているのがシェリーさん。本音で言いたいことをズバズバ言う方なので、次の毒舌ママタレの筆頭候補といえるでしょう。今後母親になったらスゴそうなのが田中みな実さんと弘中綾香アナ。弘中アナは思ったことをすぐ口に出す天然系毒舌キャラで、子どもができたら面白い毒舌ママタレになるのでは」
ママタレとして生き残る条件
毒舌ママタレは今後も増えていくだろう。しかし、ライバルが多いため、競争が激しい。というのも、ママタレ業の“うまみ”は大きいからだ。SNSでの収入に、テレビやCM出演料、料理本の出版やイベント、ブランドプロデュースの声がかかることもある。
「近頃は芸能人だけでなくインフルエンサーが続々参入するなど、ママタレの裾野も広がってきて、多数のライバルを相手に戦わなければならない。ママタレ業はもはや戦国時代の様相を呈しています。ママというだけでは、タレントとしての武器になりにくくなってきています」
ママタレ+毒舌のように、成功しているママタレはそれぞれの“武器”を持つ。
「危機をうまく乗り越え、離婚して女性の支持を集めた杏さんと、離婚せずの選択で株を上げた佐々木希さん。2人とも大変な思いをしたけれど、共感を集めたのはつらさを表に出さなかったから。もともとの人気に一人の女性としての人間的な魅力が加わった」
杏と同様に、シングルマザーになったケースでも、女性にそっぽを向かれたママタレもいる。スキャンダルや離婚により人としての在り方が浮き彫りになり、そこが女性票獲得の分かれ目になる、と衣輪さんは指摘。
この先ママタレとして生き残るには、ひとつの大切な条件があるという。
「ママタレ自体の需要はなくならないでしょう。ただ、これからのママタレに必要なのは、ママという概念にとらわれない生き方を見せていくこと。今の時代、温かい家庭や子どもの写真は求められていない。それより一人の女性としてどうあるかが重要になる。ゆえに、面白い人が出てくる可能性もある。例えばママになってはっちゃけた木村佳乃さんや仲里依紗さんのように、子どもを産んだことで新たな一面が現れる人もいて、意外な人がママタレとして台頭することも考えられる。毒舌以外の新しいママタレジャンルが生まれるかもしれません」
お次はどんなママタレが誕生し、誰が生き残るのか? ママタレ界の未来に注目だ。
きぬわ・しんいち メディア研究家。雑誌『TVガイド』やニュースサイト「ORICON NEWS」など多くのメディアで執筆するほか、制作会社でのドラマ企画アドバイザーなど幅広く活動中
取材・文/小野寺悦子