5月5日14時42分、石川県の能登地方を震源とする最大震度6強の地震が発生。北陸新幹線では、一時長野駅~金沢駅間で運転を見合わせていたが、16時00分ごろから順次、全線で運転を再開。揺れが大きかっただけにSNSでは「意外と早い復旧で驚いた」という声が上がった。
新幹線の地震対策はどのようになっているのか。鉄道ジャーナリストの梅原淳氏に話を聞いた。
鉄道の地震対策は進んでいるが、懸念点も
「大きな地震への対策は入念になされています。地震には伝わる速度の違うP波とS波がありますが、最初に観測されるP波を検知し、予測された震度が4相当以上の場合、自動的に架線の送電が止まる仕組みになっています」
P波を検知した段階で震度を予測する仕組みは早期地震検知警報システムと呼ばれる。
「新幹線の車両は架線が停電すると即座に自動で非常ブレーキが作動します。以前はP波を検知してから新幹線に伝わるまで3秒かかっていましたが、今はおよそ2秒です。このシステムにより、地震の主要動となるS波到達前に車両を止めることができます」
送電が停止され緊急停止モードに入ると、車内は蓄電池による非常灯だけが点灯する。
「地震計がP波を検知し、非常ブレーキが作動するまでの時間は早ければ1秒台、最長でも3秒以内。時速320kmで走っていても3分以内で停止します」
このほかに、脱線防止や脱線後に車両が大きくそれないよう逸脱対策も行われている。
「線路に脱線防止ガードまたはレール転倒防止装置、逸脱防止ガードを設けて、激しい揺れのなかでブレーキを作動させているときも車輪がレールから極力外れない仕組みを整えています。また、万一脱線した場合でも、車両が線路から大きく逸脱してしまわないよう、逸脱防止ストッパーまたは同ガイドという仕組みもあります」
地震対策は進歩しているが、それでも事故は起こる。
「'22年3月に福島県沖で起きた地震で、東北新幹線は大きな被害を受け、車両は脱線しました。が、早期地震検知警報システムにより、停止寸前か停止直後に脱線したと思われ、甚大な被害を被る走行しながらの脱線は免れました」
世界的に見ても地震が多い日本。鉄道の地震対策は進んでいるが、懸念点はある。
「コンクリートは地震の揺れに共振してさらに大きな揺れが起こります。先述の'22年3月に福島県沖で起きた地震により、東北新幹線のコンクリート製の高架橋は大きな被害を受けました。耐震補強工事を進めていますが、まだ完了していません」
耐震補強工事は時間がかかり、高架橋の橋脚1脚を補強するだけで少なくとも半月から1か月はかかるという。
「阪神・淡路大震災を機に全国的に耐震基準が強化されました。その後、東日本大震災が起こり、高架橋への耐震補強工事が長い時間をかけて少しずつ進められています」
だが、すべてを終えるにはかなりの時間が必要となる。
「コンクリートの電柱も建て替えよという声もあります。残念ながら現在の技術では、大地震がもたらす新幹線の高架橋への悪影響を完全に取り除くことはできない。既存の高架橋を容易に共振しない構造に改められる技術の開発が待たれます」