空前の大ブームを巻き起こしたタピオカに続き、昨年は生ドーナツが話題になるなど、長らく食のトレンドに君臨していた“もちもち食感”。しかしその反動かのように、急激に人気が高まっているのが“ザクザク食感”だ。
いち早く注目されたのは、今年の2月に発売された理研ビタミン「ふりかけるザクザクわかめ 食べるラー油味」。『日経トレンディ』の「2023年ヒット予測 100」食品部門に選出されると、発売から2か月で1年分の販売予定数を突破し大ヒットした。
お菓子も食事系も噛み応えを追求
ユウキ食品では料理に振りかけるだけでザクザク食感が味わえる「中華クリスピーチキンシーズニング」の売り上げが急増し、ハウス食品からは切り身魚につけて焼く「ザックザックフィッシュ マヨペッパー風味のサーモン焼き」、レトルト食品などを扱う宝幸からは「ザクザク食べるオリーブオイル カレー風味」が発売。“もちもち”のほっこり感とは対照的に、食欲を煽るような響きが特徴だ。
ファストフードやコンビニのメニューもザクザクフードが席巻中。サブウェイでは期間限定で「ザクタルバジルチキン」が登場し、ヤマザキからは菓子パン「ザクチョコ はちみつレモン」が発売。スイーツ界では明治「ザクポップ カスタードプリン味」が、“噛む”を楽しむ新感覚のアイスとして注目を集めた。
「ザクザク食感はもちもちに比べ、スイーツだけでなく食事系にも展開しやすい。薄い層を重ね合わせて作るザクザク、トッピングで演出するザクザクなどバリエーションも豊富なので、今後さらにブームは盛り上がりそうです」と言うのはフードアナリストの中山秀明さん。近年ザクザク食感が注目されるようになったきっかけはトルコやイタリア発祥の伝統菓子だと語る。
「トルコのバクラヴァは、何十層にも重ねたパイ生地を噛みしめる新感覚でブレイク。2021年に松屋銀座で行われた日本初の催事では、100人以上の行列ができました」(中山さん、以下同)
イタリア発祥のザクザクお菓子、スフォリアテッラやカンノーロも同時期に話題になると、ポストマリトッツォとしてコンビニでも発売された。
コロナ禍の気疲れがザクザク人気を加速
ザクザクフード流行の背景には、ASMRの流行もあると中山さんは分析する。ASMRとは咀嚼音や川などの自然音を収録した人気の動画ジャンルで、聴覚を刺激される感覚にハマる人が急増中だ。
「ASMR動画のなかでも揚げ物などを咀嚼するザクザク音は特に人気です。クリスピーな音が視聴者の食欲を刺激するのでしょう。コロナ禍で抑圧されたストレスが今、発散の方向に向いている。ある種ギルティな食べ物であるザクザクフードが“欲望のままに食べている”実感を与えてくれるのではないでしょうか」
夏に向けてひんやりスイーツも含め、ザクザク食感フードはさらに増えるとのこと。
「ただしコメ文化の日本では、もちもち人気も根強いですね。今後はもちもち系はよりやわらかく、ザクザク系はより噛み応えを出しクリスピーにと、二極化していきそう」
甘いザクザクから激辛ザクザク、冷た~いザクザクまで。今年の夏は“噛み応えグルメ”を堪能しよう!
教えてくれたのは中山秀明さん
ライター、フードアナリスト。雑誌とウェブメディアを中心に取材執筆を行うほか、テレビ番組や大手企業サイトでコメンテーターとして幅広く活躍。今年1月に「サクサクスイーツ」のブームを予測した。
<取材・文/中村未来>