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「昨年はシリーズ計30万点の販売を達成しました。ジャケットが買えないという声を多くいただいたため、今年は生産数をアップしました。現在はまだ最盛期前ですが、すでに4万点売り上げています」

 と、話すのはワークマン広報の鈴木悠耶さん。冒頭で触れたジャケットとはワークマンの“防虫加工ウエア”『エアロガード』のこと。

ワークマンの“防虫加工ウエア”が爆売れ!

 2020年春に誕生したアウトドアシリーズで、「着る網戸」の謳い文句と見た目のインパクトで話題になっているこの商品。特徴について、

「開発のヒントになったのが網戸と蚊帳です。メッシュのフードで頭から顔まですっぽり包み、虫の侵入を360度にわたり徹底ガード。生地は不快な虫が寄りつきにくく人体に無害な薬品を塗り込んでいます。特殊素材と“網戸”によるWの防御で、不快な虫を遠ざけます」(前出・鈴木さん)

好評のエアロガードステルスジャケット。ワークマンのオンラインショップではサイズによっては売り切れも(ワークマン公式HPより)

 今シーズンはラインナップとカラーバリエーションの強化に力を入れ、さらにジュニアサイズの展開もスタートしている。

 ワークマンを筆頭に、近年はノースフェイス、コロンビアなど“防虫加工ウエア”を売り出すブランドが続々登場。打ち出す機能やスタイルもさまざまで、アウトドア仕様からタウンユースまで幅広い。どうやら“防虫加工ウエア”は春夏ファッションのひとつのカテゴリーとして定着しつつあるようだ。

 特殊素材のいわゆる“防虫加工ウエア”で使用されているような虫が嫌う色や素材には蚊にどのくらいの効果があるのだろうか。害虫防除の専門家で医学博士の白井良和先生に話を聞いた。

「蚊を寄せつけやすいのは黒や紺など濃い色の服。逆に白や白に近い色、薄い黄色やピンクのほうが刺されにくい。

 蚊が嫌がる素材は特にありませんが、例えばレインコートなどつるつるした素材は蚊が止まりにくく、そういう意味で刺されにくさはあるでしょう」

 単色ではなく、柄の場合はどうだろう? 巷では“ボーダー柄は刺されやすい”という噂が出回っているが──。

「白と黒のチラチラする映像に蚊が誘引されるというデータはあります。それをもとにバラエティー番組が“じゃあボーダー柄は刺されやすいのでは”と取り上げたことで話が広まった。とはいえボーダーに関しては特に根拠はなく論文もデータもない。テレビで有名になりすぎてイメージが先行しているだけ」(白井先生、以下同)

「ボーダー柄は蚊に刺されやすい」という情報もあるが、白井先生は根拠はあまりないと話す ※写真はイメージ

 蚊が寄りつきやすいか否かはあくまでも色の違いで、ボーダーをはじめ柄については根拠がないとのこと。一方、洋服の着方には押さえておきたいポイントがあると解説。

「なるべく肌を露出させない、というのが大前提。ただし服で覆っていたとしても、ぴったり肌に密着する生地の場合は上から刺されてしまうことも。服と肌の間に空間ができるゆったりした衣類のほうが刺されにくいといえるでしょう。

 メッシュ素材に関しては、たとえ防虫加工されていても、肌が露出する面積が広いぶん、刺される可能性は高くなるのかも」

今年は「蚊の活動が早い」

 日本に生息する蚊は約100種類といわれ、うち人間の血を吸う蚊は約50種類。離島や高地など一部地域で生息する蚊を除くと関東で生息する蚊は10種類ほどで、ヤブ蚊と呼ばれる『ヒトスジシマカ』や夜寝室に出没する『アカイエカ』などがこれにあたる。

 蚊の活動する気温は20度以上が目安で、25度以上になると活発に。「今年は暖かいので蚊の活動が早い。私自身、4月下旬に刺されました(笑)」

 年々進む温暖化の影響により、蚊の活動時期も変わってきていると話す。

「関東でこんなに早く刺されるというのは経験がない。早くてゴールデンウイーク明けか、たいてい5月20日過ぎ。今年は桜の開花も早かったので、蚊も早く成長して羽化していると考えられます」

 今年の夏は猛暑になるという予想もあり、この先の蚊の動向が気になるところだが。

「25度〜30度の高温多湿の環境は蚊にとって快適で、雨が降ると水たまりができるので幼虫の発生も多くなる。ただ極端な猛暑で雨が降らないと幼虫の発生源である水たまりなどが干からび、成虫も木陰に潜んで出てこない。この先の蚊の活動状況は気温と雨の降り方にもより、天気次第となるでしょう」

 ところで、蚊に刺されやすい人の特徴とは? 同じ部屋に寝ている家族でも、刺されがちな人もいれば、あまり刺されないという人もいる。年齢や体質など、何か蚊を寄せつける因子があるのだろうか。

「体温が高い人、水分を多く発している人、二酸化炭素を多く出す人。基本的に蚊に刺されやすいタイプはこの3つ」

 汗かきの人、太りぎみの人、活発な人、スポーツマンタイプ、肌が潤っていて水分量が多い人、幼い子どもなどがこれにあたるという。

「子どもが蚊に刺されやすいのは新陳代謝が活発で汗を多くかくから。活発な若者に限らず、更年期で汗をかくとやはり刺されやすい。そのほか、足の臭い人、皮脂が多い人、O型の血液型の人が刺されやすいというデータもある。ただしこれも刺されやすさの問題で、O型の人がそこにいなければ蚊は別の血液型の人の血を吸います」

デング熱のときのようにウイルス感染にも注意

 蚊との闘いは避けて通れず、ゆえに蚊にまつわる都市伝説は数多い。にんにく、香水、ファンデーションを嫌がる──などなど、さまざまな説が囁かれてきたが、はたして真意のほどはどうなのだろう。

「にんにくについては根拠がなく、何を食べても結局のところ蚊対策としての効果はありません。気をつけたいのが炭酸飲料で、二酸化炭素が多く発生するので蚊を誘引することに。香水をたっぷりつけたからといって蚊を寄せつけないことはなく、ファンデーションを厚く塗った程度では蚊はめげずに刺しますね」

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 かゆく不快なだけでなく、蚊に刺されることが感染症の原因になることも。事実、2014年夏にデング熱が代々木公園を中心に都内で発生し、世間を大きく騒がせた。あれから10年近くがたち、騒動の記憶は薄れつつあるが、感染症の危険は今なお見過ごせないと注意を促す。

「今年の夏は海外からの旅行者も増えるでしょうし、そこからウイルスが入ってくる可能性もある。デング熱のときのようにウイルスを持つ人がやってきて、その人の血を吸った蚊がまた別の人を刺して、という感染の仕方もあるので注意が必要です。ただどの蚊がウイルスを持っているかというのはわからないので、やはり刺されないことが大切」

 まずは正しい知識を身につけること、しっかり対策を講じること。蚊の研究歴30年、白井先生に自身の蚊対策を紹介してもらった。

「長袖、長ズボン、運動靴は基本で、短時間ならビニール手袋をはめ、肌が露出する部分には虫よけを塗っています。サマーマフラーをつけたいところですが、真夏は暑くてなかなか難しい。あとはハンディーファンやうちわを使って風を送っていると刺されにくい」

 それでも刺されてしまったときの対処法とは?

「かゆみ止めに効果のあるリドカインなどが入っている薬を塗ること、それがなければ冷やすこと。より効果的で新しいやり方があればいいのですが、やはり伝統的な方法が一番ですね」

 時代が変わり、文明がいくら進化しようとも、どうやら蚊のたくましさは変わらぬまま。蚊との闘いはこの夏も続きそう……。

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白井良和(しらい・よしかず)●害虫防除技術研究所代表、有限会社モストップ取締役。医学博士。ゴキブリなどの害虫対策商品販売、蚊忌避剤や蚊捕獲器の効果確認試験ほかゴキブリ、ユスリカなどの害虫試験、書籍の出版、テレビ・ラジオ等のメディア協力、YouTube動画配信、Web記事の監修などを行っている

(取材・文/小野寺悦子)