琵琶、二胡、古箏、揚琴、笛など中国の伝統的民族楽器を奏でる、天女のような女性たち。その楽曲はまるで、悠久の歴史にたゆたうよう──。
2003年に日本デビューし、大ヒットした中国の音楽グループ、女子十二楽坊。彼女たちがこの夏より、日本で再活動を予定しているという。
女子十二楽坊が日本で活動再開!
「2001年に北京で結成。中国で当時最大級の会場での演奏を皮切りに、国内では200回以上のコンサートを開催。日本でデビューをすると、伝統楽器による癒される曲調が人々の心をつかんだのでしょう。たちまち人気アーティストとなりました」(スポーツ紙記者)
女子十二楽坊といえば、CDが売れなくなって久しい現在では考えられないレベルのヒットを飛ばし、またたく間に社会現象といえるほどの認知度を得た存在。
今回、元メンバーであり、リーダーも務めた所属事務所の代表でもある石娟(シー・ジュエン)さんに、独占で話を伺うことができた。
「最後の日本公演は2018年でした。中国国内の興行会社が何度か変わったり、コロナ禍となったこともあって、しばらくは日本はおろか海外で活動することができなくなってしまいました。そういった難題がやっと落ち着きました。
中国国内では定期的にテレビ出演などをしていましたが、再び海外のファンたちにもお会いできるように計画を始めたのです」(石さん)
彼女たちの、伝説ともいえる驚異のエピソードを、石さんと当時の関係者の証言で振り返ろう。
1日に1万枚以上売れたことも
前述のように、女子十二楽坊が日本でデビューしたのは2003年。その年の7月に発売したデビューアルバム『女子十二楽坊〜Beautiful Energy〜』は、初回出荷数は3万枚だったものの、すぐには売れず、その1か月後、突然売れ始めたという。
「当時はメディア露出などあまりしていなかったわけですし、彼女たちはまったく無名の存在。ですから、明らかに楽曲の良さで買い求められたのでしょう。2か月くらいで100万枚を売り上げ、追加生産が追いつかなくなったほどです。1日1万枚以上売れた、ということもありました。最終的には200万枚売り上げました」(当時のレコード会社関係者)
なお、その年はSMAPの名曲シングル『世界に一つだけの花』が大ヒット。シングルCDとして21世紀初の200万枚セールスを記録した。
いっぽう、女子十二楽坊の前出のアルバム『女子十二楽坊〜Beautiful Energy〜』は、オリコンの集計によると、その年のアルバムの売り上げにおいて第6位だった。1位はCHEMISTRYのセカンド・アルバム『Second to None』で、『世界に一つだけの花』を含めたSMAPのその年のアルバム『SMAP 016/MIJ』は23位。なんと、SMAPより上位だったのだ。
ある音楽評論家はこう見解を示す。
「当時は数年前から故・坂本龍一さんのピアノ曲『energy flow』や、『〜the most relaxing〜 feel』といった、穏やかなインストゥルメンタル(楽器のみの楽曲)のコンセプトアルバムがヒットしていました。そういった土壌もあったからこそ、女子十二楽坊の楽曲も受け入れられたのではないでしょうか。もちろん、演奏のクオリティーの高さもあるでしょう」
事実、『女子十二楽坊〜Beautiful Energy〜』は、インストゥルメンタルのアルバムとしては、史上初のミリオンセラーにもなった。
2003年の年末には、その年の音楽賞を多数受賞し、NHK紅白歌合戦(第54回)にも出場。翌年1月の武道館での単独コンサートのチケットは、発売後即完売。4月から行われた日本全国ツアー32公演のチケットもたちまち売り切れたという。
当時について、石さんが解説する。
「日本は女子十二楽坊の最初の海外デビューの地でした。日本での成功は、私たち女子十二楽坊がその後、世界で活動することになる際の、大きな足がかりとなりました。2004年には、受賞こそ逃したものの、米国グラミー賞のワールドミュージック部門のアルバム賞にノミネートもされました。CDの売上枚数は、全世界で1000万枚以上となります」(石さん)
女子十二楽坊は、たった数年でチャイナドリームを超え、ワールドワイドな存在になったのだ。
計算されていたコンセプトとは
東洋の魅力を体現したような女子十二楽坊の面々だが、実際、エキスパートぞろいなのだという。
中国の芸能界に詳しい中国人芸能ジャーナリスト・セブンさんによると、
「女子十二楽坊は、中国では誰もが知っている存在です。日本のモーニング娘。やAKBグループのように、きれいな女性たちが入れ替わっていることも知られています。でもアイドルではなく、実力派のミュージシャンという位置づけです」(セブンさん)
なお、メンバーの人数は必ずしも12人というわけではなく、初期はサポートメンバーを帯同し、入れ替わっていたことも。
また、セブンさんが言うように、絶えずメンバーは変化しており、2018年には初期メンバーから全員が入れ替わったそう。
「“十二”という数字は、中国で縁起のよい数字なのです。アーティスト名はそれをふまえ、中国の四大名著の一つである『紅楼夢』に登場する12人の美女と、唐代の王宮にあった『教坊』から発案され命名されました。
メンバーの人選は、創立当時に決めたコンセプトである『専門性』『人柄』『態度』が基準となっています。音楽の名門の教育機関出身であり、コンクールではトップレベルの実力の持ち主で、かつ華やかさがある人を探し出してスカウトしています」(石さん)
石さん自身も、子どものころから琵琶の英才教育を受け、名門校である中央音楽学院を卒業。学生時代からプロの演奏家として活動し、各種コンクールでの優勝をさらってきた実力の持ち主だ。
中国では、その知名度ゆえにとんでもない被害に遭ったことも。
「12人の女性たちに楽器を持たせただけの公演をして、お金を稼いでいた人たちがいました。しかも私たちの楽曲を流して、演奏しているふりをしているだけだったそうです。ひどいことに、そんな詐欺行為が各地でいくつもあったらしいのです。中国は広いですから、全部を指摘して、訴えることができませんでした」(石さん)
音楽性をわかってくれた日本のファン
今回の日本での再活動を、「団員一同、とても楽しみにしている」という石さん。
「日本で大人気を博した当時、中国国内の関係者からは『女子十二楽坊が、日本でこんなに受け入れられるとは思ってもみなかった。日本人にはよく、女子十二楽坊の音楽は、癒されるから好きだと言われた。これだけ好まれるということは、日本人はとても疲れているのかも』と語られたものでした。
でも私は、日本の方々は、音楽に対して知識と素養があるから、私たちのクオリティーをわかってくれたのだとも考えています。
日本のファンはとても熱心で温かく、配信ライブなどを行うとたくさんの応援のメッセージをいただき、とても励みになっています。
新曲も披露したいですし、日本の全国各地でコンサートをしたいので、企画をしているところです。また、私はお刺身が大好きなので(笑)、早く日本の皆さんとお刺身に会いに行きたいですね」
“天女たちが奏でる癒しの調べ”を、再び間近で聴ける日は近い──。
(取材・文/木原みぎわ)