いま、人気俳優たちが出演するストーリー仕立てになったギャンブル系のCMが“アツい”。その影響力は大きく、馬券や舟券を買ってレースを楽しむ垣根が低くなったがその陰ではギャンブル依存症の問題もささやかれ……。
「楽しんでる?」
巨大なパチンコ玉に乗って、満面の笑みを浮かべる柴咲コウのCMが話題だ。パチンコメーカー37社からなる日本遊技機工業組合が発足した『KIBUN PACHI–PACHI委員会』のCMで、パチンコ・パチスロの楽しさやワクワク感を伝えることが目的だという。
芸能事務所やテレビ局にとっては大口の“いいお客さん”に
「あの柴咲コウがパチンコのCM? なんか悲しい」
「イメージダウンにならないのかな」
などファンから心配の声も聞かれるが、最近ではパチンコに限らず、有名芸能人を起用したギャンブル関連のCMが目立つ。
いわゆる公営ギャンブルのCMは、特にギャラが高いと業界内では噂されている。芸能事務所はタレントのイメージを守ることより、利益を優先させた結果が有名芸能人の起用につながっているのかと思いきや、
「ギャンブルに嫌悪感があるのは昭和世代までで、平成生まれ以降の若者層では気軽なレジャーと捉えている人がほとんど。CM出演がタレントのイメージダウンにつながるという考え方は、もう古いように感じます」
と、コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんは言う。
現在、日本で運営されている公営ギャンブルは、競馬、競艇(ボートレース)、競輪、オートレースの4つ。なかでも競馬人気は高く、現在放映中のCMでは長澤まさみ、佐々木蔵之介と誰もが知る俳優と、注目株の若手女優・見上愛を起用。テーマ楽曲も安室奈美恵の『Hero』と豪華。
いまではすっかり市民権を得た感のある競馬だが、ほかのギャンブル同様、「新聞を握りしめ耳にペンを引っかけたおじさんの道楽」とのイメージが根強い時代もあった。
「'80年代後半に、騎手の武豊さん、サラブレッドのオグリキャップと、競馬史を代表するスーパースターが登場し競馬ブームの兆しが訪れます。日本中央競馬会(JRA)はこれを機に新しい客層を取り込もうと、薄汚れた場外馬券場をリニューアル。
女性客を積極的に誘致し、オグリキャップのぬいぐるみが大ヒットしました。また、競馬情報番組にタレントや女子アナを起用するなど、さまざまな戦略を打ち出しました。そのひとつとして、これまでにない斬新なCMがあったのです」(木村さん、以下同)
'90年には、JRAのCMに当時トレンディー俳優として大人気だった柳葉敏郎と賀来千香子を起用。それまでおじさんだらけだった競馬場が一転、若者のデートコースとして認知されるように。一流の芸能人をCMに起用するスタイルはここから始まり、その後も高倉健や木村拓哉、明石家さんまなど錚々たる顔ぶれがキャラクターを務めてきた。
いまやJRAに関しては、CM出演がタレントのイメージダウンにつながることはほぼないと言えるだろう。
芸能事務所の“いいお客さん”に
この流れに続けと、いまPRに莫大な費用を投じているのがボートレースだ。現在放映中のCMはストーリー仕立てで、出演者は6人。女優の長谷川京子に、歌舞伎役者の中村獅童、イケメン俳優の神尾楓珠、お笑いコンビ・オリエンタルラジオの藤森慎吾、バラエティーで活躍中の若手女性タレント・山之内すずと王林という、旬のメンバーだ。
だが、競馬に比べてマニアックで還元率の高い(3連単のみ)ボートレースはよりギャンブル性が増し、CM出演にあたってはタレント側もさすがに慎重にならざるを得ないのではないかと想像される。現に、長谷川京子が登場した際は業界内からも驚きの声があがったというが─。
「それも古い世代の意見でしょうね(笑)。山之内すずさんは“ボートレースを知って世界が広がった”と積極的に楽しんでいます。藤田ニコルさんもパチンコ好きを公言しているように、いまの20代はギャンブルに抵抗がなく、エンターテインメント感覚。公営ギャンブルは一般企業以上に高いコンプライアンス意識を持っていますし、芸能事務所やテレビ局にとっては大口の“いいお客さん”にすぎません」
CM効果もあり、ボートレースの利用人数は年々伸び続けている。2022年次の総利用者数は4億6千万人以上、総売り上げは2兆4千億円にも上った。
「とはいえ、いくら派手なCMを打ってもそれだけでは集客につながりません。もともとボートレースは競馬と比べるとあまりいいイメージでなかったことは事実。いま、ボートレース場では有名アーティストのライブに、子ども向けのヒーローショー、ご当地グルメの出店などさまざまな催し物で若者層、ファミリー層の獲得に尽力しており、少しずつイメージが変わってきているところです」
いっぽう、競輪も人気が高まっており、2022年度の総車券売上高が20年ぶりに1兆円を超えたと報じられた。今年度の新CMでは『ソラニン』などで人気の漫画家・浅野いにおがイラスト作画を担当。
芸能人の起用はなかったものの、BSよしもとで平日の夜に毎晩『競輪LIVE! チャリロトよしもと』を生放送するなどメディア戦略に力を入れている。番組MCとして鬼越トマホーク、レインボーら若手お笑い芸人とグラビアアイドルが登場し、和気あいあいとレースを予想。若い視聴者層を意識した番組構成だ。
「競輪とオートレースは競馬やボートレースに比べて競技性が高く、初心者が気軽に予想するには難易度が高い。だからこそ、ただ単に有名人のCMを放映するだけでは集客効果が出にくいんです。競輪では人気お笑い芸人のライブを開催するなど、まずは地元のお客さんに来てもらえるよう地道な努力を続けています」
ちなみに、今年度のJRAのイメージキャラクターである長澤まさみは、かつて競輪のCMにも出演していた。
「長澤さんが所属する東宝芸能は、正統派の芸能事務所で公営ギャンブルとは真逆のイメージ。にもかかわらず、長澤さんは競馬と競輪どちらのCMにも出演経験があります。彼女が持つ気さくさや親近感が起用の理由と思われますが、もう大手の芸能事務所が公営ギャンブルのCM出演に二の足を踏む時代ではないんです」
かつて、地方パチンコ店のCMに有名芸能人が出演すれば“落ちぶれた”“都落ち”などと揶揄されたもの。時代は変わったらしい。
「最近の公営ギャンブルCMは、予算も潤沢で作品としても完成度が高い。出演を避ける理由はないでしょう」
とはいえ、ギャンブル依存症は社会問題のひとつでもある。厚生労働省が2017年に発表したデータによると、ギャンブル依存症と疑われるようになった成人は約320万人。影響力のある人気芸能人らは、はたしてこの事実を知ったうえでCMに出演しているのだろうか……。