船越英一郎(62)※撮影/佐藤靖彦

ずっと上質なコメディーをやりたかったので、狂喜乱舞、羽化登仙、欣喜雀躍でございます」こう語るのは船越英一郎。6月3日にスタートする土ドラ『テイオーの長い休日』(東海テレビ・フジテレビ系毎週土曜夜11時40分~)に主演する。

リアル“2時間ドラマの帝王”船越英一郎

 テレビ局で2時間サスペンスが制作されなくなり1年以上も仕事がない“2時間ドラマの帝王”熱護大五郎(あつもり・だいごろう)を演じる。リアル“2時間ドラマの帝王”船越にハマり役のような作品でおのずと興味が湧く。

「“船越ありき”の企画を考えてくれたプロデューサーからのラブレターだと思っていますが、熱護と船越は似て非なる人間です。

 熱護は人情に温く涙もろいけど俳優としては矜持が強く、自分の中に閉じこもり他人とコミュニケーションが取れず、オープンマインドになれない。僕自身は、仲間と対話や会話を楽しんで作品を作り、自分の腹の内を見せるタイプです。

熱護と僕とでは目指す頂上は同じでも登山の仕方が違う。例えるなら育ての親が違う双子みたいなものかな。みなさんには虚々実々を楽しんでもらえたらと思います」

 熱護は役者以外の仕事はしないが、自身は司会やバラエティーでも活躍する。

「熱護を演じながら船越を完全否定しているシーンが随所にあって複雑です。“散歩(番組)なんてもってのほか”という熱護ですが、僕は年中やっていますからね(笑)」

 自身とは対極の熱護だが、役者として共感するセリフも。

「“役者の仕事は始まる前に始まってるんだ”は準備の大切さを、“いつかなんてない。分岐点は常に今だ。今、ここだ”は思いを込めて生きる意味を、そして“いちばん大事なのは視聴者に楽しんでもらうことではないのですか”。この3つのセリフは共通点です」

ドラマには、船越が過去に2時間ドラマで演じた役が登場する。

船越英一郎(62)※撮影/佐藤靖彦

「第1話に登場する火災調査官は15作演じましたが、ドラマでは熱護として演じるので僕にとってはハードルが高い。でも、こういう新しい挑戦をさせてもらえるのは大変だけど役者冥利に尽きると思っております」

 原点という2時間ドラマとは?

世界に誇れる文化だと思っています。ミステリーなので事件を解決して、それを楽しんでもらうのが基本ですが、その骨格には繊細なドラマがあります。ホームドラマ、ラブストーリーといったカテゴリーが凝縮されている。いろんな条件を満たして1話完結で見やすい。その火が消えてしまうのは身がよじれるぐらい残念です。この火を消さないよう、みなさんに2時間ドラマを楽しんでもらえるべく虎視眈々と常に準備をしています」

 これまで300本以上の作品に主演してきた。

2時間ドラマの成熟期、爛熟期には、今回のドラマのセリフにもありますが“今の視聴者は目が肥えているので、裏の裏をかかないといけない”というふうでした。最初に登場した怪しい人は犯人じゃないとか2時間ドラマあるあるみたいなセオリーもできた。大いなるマンネリにのっかるのがいいのか、すべてを排除するのがいいのか。(視聴者に)どうやって新鮮な気持ちになって見てもらえるのか。いたちごっこでスリリングでしたよ」と振り返る。

 取材中、四字熟語が印象的で、役者の矜持を四字熟語にしてもらった。

「捲土重来。人生は平たんではない、へこむときもある。熱護みたいに長い休日を強いられることもあるかもしれないが、あきらめなければ必ず再生できる。今回のドラマテーマそのものであり、それを体現したい今の僕の気持ちです。でも作品が変わったら変わりますよ。画竜点睛、一意専心、我田引水とかね(笑)」縦横無尽だ。

ジムも休みも必要に

船越英一郎(62)※撮影/佐藤靖彦

 週刊女性グラビアは16年ぶりの登場となる。当時“休みはいらない。趣味もない。ジムも行きません”と話していた。

「さすがに鍛えないといけなくなりました。ポテンシャルだけでは太刀打ちできないので、仕事で迷惑をかけない身体づくりのために2日に1回、ジムに行くようにしています。休みも基本的にはいらないと思っているけど、身体を休める時間やメンテナンスをしないとついていけなくなっているので必要になりました(笑)」

“枯れた芝居”を

 キャリアを重ね今後の俳優像についてはこう語る。

「オーバーアクトな芝居を意識していましたが、これからは引き算の芝居ができたらと思います。何もしない、表現しない、存在するだけで何かが語られている。そういう枯れた芝居ができるくらいまで長く続けられたら幸せでしょうね。そのために船越にこんな役や作品をやらせたいと思ってもらえる年齢の重ね方をしたいです」

『テイオーの長い休日』第1話/仕事のない熱護(船越)を、ある事情を抱えたゆかり(戸田菜穂)がマネージャーを担当することに……
ヘアメイク/細谷千代子