竹田純さん(左)の取材にはパートナーのクリスさん(右)も同席。幸せそうで仲の良さがうかがえる

 2023年3月。フランス・ブロワで一組のカップルが結婚式を挙げた。LGBTQ当事者であるバレエダンサーの竹田純さんとインテリアデザイナーのクリスさん。竹田さんは床に座ったり寝転がったりしてバレエの動きを行うエクササイズ『床バレエ』を日本に広めた第一人者であり、『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』(TBS系列)など多数のテレビ番組にも出演している。

「フランスでは2013年から同性婚が認められています。ですから、市役所では『おめでとう』という言葉とともに当たり前のこととして婚姻届が受理されました。子どものころから自分は結婚できない、とあきらめていましたから、私たちを受け入れてくれたフランスという国には感謝しかありません」(竹田さん、以下同)

 そんな竹田さんが最初に渡仏したのは、20歳のとき。

「私がバレエを始めたのは17歳で、通常よりずいぶん遅めのスタートでした。なので、高校卒業後に入団した東京バレエ団で自分の実力不足を痛感することに。そこで、古くから名門として知られるフランス国立バレエ学校で基礎から技術を学び直すことにしたのです」

人の3倍努力を重ね、バレエ団と契約

 それからは15歳の子どもたちとともにレッスンに明け暮れたが、それは精神を削られる日々でもあった。

「完全な実力主義の世界ですから、1年目は先生からのアドバイスなど一切なく、まるでそこにいないかのように扱われていました。加えて生徒の中で私は唯一の大人。言葉の壁もありますから、思春期の子たちになじめず、孤立していましたね」

 それでも通常なら1日1レッスンのところを3レッスン受けるなど、人の3倍努力を重ねた。

それが功を奏したのか、あるいはただの気まぐれか、2年目から先生の態度が変わり、しっかりと目を見ながら指導してくれるようになりました。3年目に自分の今の実力を試そうと挑戦した国際コンクールでは銅賞を受賞。その後はスロバキア国立劇場など国際的な舞台で踊らせてもらえる機会が増えていったのです」

 そんな華やかな活躍の中で、人生の転機となったのがバレエ団との契約。

「バレエ団に入団できるのは、実力を認められたほんのひと握りのダンサーだけ。ですから20代半ばでバルセロナDAVID-COMPOSバレエ団と契約を結べたとき、やっと認めてもらえた、と自信を得ることができたのです

 床バレエのベースである「バーオソル」というエクササイズを知ったのも、このころ。

「バーオソルは立たずに床でバレエに必要な筋肉を鍛えるエクササイズ。トップのバレエダンサーが皆やっているのを見て私も実践したところ、驚くほど筋肉がしなやかになり、高くジャンプできるようになりました」

「床バレエ」を日本に普及

 短時間で姿勢がよくなり、バレエダンサーのような美しい体形になれるとあって、バーオソルは、フランスの一般女性からも大人気。

竹田純さんの著書『マネしたらやせた!30秒だけ床バレエ』(講談社)

「一方、当時の日本ではバーオソルはまったく知られていませんでした。そこで帰国後に指導を始めるとともに、本を出版したところ、テレビや雑誌など多数のメディアで紹介され、大きな話題となったのです」

 竹田さんは指導を続ける中で、運動が苦手な人や高齢者でも簡単に実践できるように、バーオソルをアレンジ。

「名前が覚えにくいという声もあったので、気軽に取り組んでもらえるように『床バレエ』と名づけました。指導者育成にも取り組んでいて、今後、床バレエはますます日本に定着していくと思います」

 もうひとつの人生の転機がクリスさんとの出会い。

「クリスと出会ったのは7年前。私のほうはほぼひと目ぼれの状態でしたが、クリスには当時、別のパートナーがいたので、しばらくは恋心を抑えつける苦しい日々でした」

 そのため、当初はSNSのアカウントを交換するにとどめ、クリスさんから仕事などの相談があればアドバイスするだけの関係を続けた。変化が訪れたのは3~4か月後。

「クリスがパートナーと別れたんです。でも、だからといって別れのショックで落ち込んでいるクリスにアプローチすることなどとてもできず、ここでも高まる気持ちを抑えるのに必死でした」

 しかし気持ちはやはり伝わっていたのかもしれない。

「クリスのほうから食事などに誘ってくれるようになり、共に過ごす時間が増えて、とうとう一緒に住むことに。自然にパートナーの関係になれたのです」

 その後の展開は早かった。

「翌年、私たちはフィリピンのビーチで新年を迎えたのですが、そこでクリスから『Will you marry me?』とプロポーズされました。もちろん私は即イエス! 思いを伝えられない苦しい期間があったぶん、幸せが怒濤のごとく訪れているかのようで、本当にうれしかったですね」

結婚報告に祝福の声が殺到

 ちなみに、クリスさんのどこに一番惹かれた?

「クリスは思いやり深く、周囲の人を家族のように大事にします。パリは移民が多いせいか自分の権利を声高に主張する人が多く、当時の私もその考えに染まっていました。ですから、初対面で『こんな心が温かい人がいるなんて』と驚き、気がついたらほれ込んでいたんです。私は彼に影響を受けて、人間として、よりいい方向に変わることができたと思います」

竹田純さんがクリスさんとの結婚を報告したインスタグラムには、通常の30倍ものお祝いや応援のコメントが寄せられた(本人のインスタグラムより)

 しかし、実際に婚姻届を出すきっかけがなかった。

「おととし、保護犬を引き取って、一緒に暮らすようになりました。すると2人と一匹でファミリーのような関係性が築かれていき、それならちゃんと家族になろうよ、ということで婚姻届を出すことにしたのです」

 それに加えて、2人はもうひとつ大きな決断を下す。それは結婚を公表すること。

「それ以前もインスタグラムにクリスが登場することはありました。でも、どういう関係か説明することはなかったので、『誰?』といぶかしんでいた人もいたかと思います。そこで結婚したことを皆さまにお伝えすることを決意。私は学生時代に女性的という理由で仲間外れにされた経験もあるので、日本でどう受け止められるかわからない怖さはありましたが、覚悟を決めて結婚報告をインスタにアップしました

 すると離れていくフォロワーもいたが、通常の30倍ものお祝いや応援のコメントが寄せられる結果に。

「LGBTQ当事者の方や息子さんが当事者で将来を心配していたお母さんから、『勇気づけられた』というコメントもいただき、公表して本当に良かったと思いました」

 最後に今後の目標は?

「これまで10万人以上の方を指導してきた中で、『私は美しくない』という自己否定から床バレエを始める人をたくさん見てきました。そんな人を内面から幸せにするのが私の目標。『自分はできる、美しい』と言い聞かせながら、とにかく30秒間、床バレエをマネるだけ。それで簡単に身体は変わるから、ぜひトライしてほしいと思います」


取材・文/中西美紀

 

竹田純さん(左)の取材にはパートナーのクリスさん(右)も同席。幸せそうで仲の良さがうかがえる

 

竹田純さん(左)の取材にはパートナーのクリスさん(右)も同席。幸せそうで仲の良さがうかがえる

 

バレエダンサーの竹田純さん