男女共同参画会議であいさつする岸田文雄首相

 4月に行われた全国統一地方選も一段落し、衆議院の解散総選挙までは大きな選挙の予定もない。選挙の際に声高に掲げられた各党のマニフェストについても、その後、関心が薄れてしまうというのは、多くの有権者にとっての実感ではないだろうか。

 国政を見ていると、迅速に実現している施策も多い一方で、いつのまにか忘れ去られた目標や、そもそも実現性に乏しいのではと思えてしまう政策も。そこで今回は、政府が掲げる主要な政策の目標値について、政治ライターの平河エリさんと検証していく。

高速道路無償化、延長に次ぐ延長でもはや実現不可能?

 今年2月10日、高速道路の償還期限をこれまでの2065年から最大2115年まで延長することを可能とする道路整備特別措置法などの関連法改正案が閣議決定された

 同改正案は4月6日の衆議院本会議で可決され、今後は参院で審議が諮られる予定だ。ところが、3月28日の衆議院本会議では、立憲民主党の城井崇議員が「非現実的な前提での債務返済見通しだという懸念が拭えない。借金返済が終了する2115年は、あのドラえもんが生まれる3年後という22世紀の未来。このような将来への負担の先送りが認められるのか」と指摘するなど、非現実的ともいえる期限設定には疑問の声も多い。

「本来は、国のグランドデザインをどう描いていくかということに関わる重要な政策。問題となっている高速道路の老朽化対策の財源以外にも、自動運転などのテクノロジーの進歩や人口動態の変化などを当然踏まえたうえで議論されるべきです。

 ただ、そういった観点での検証がどれくらいなされているのかという点でも、今回の改正案の楽観的な見通しには疑問が残りますね」(平河さん、以下同)

1963年、1965年に開通となった名神高速道路 写真/共同通信社

 高速道路の建設や整備にかかる費用は高速道路の利用料で回収し、償還後は無料開放するという建て付けとなっているのが高速道路の償還主義だ。ただし、有料期間はこれまで幾度にもわたって延長されており、その回数は1972年以降で9回にも及ぶ。

 今回の延長が決まれば10回目となるが、この先さらに増加する老朽化対策の費用を見越した期限設定になっているとは考えにくく、さらなる延長ありきの実質的な永久有料化ではないかという批判もある。

「国の政策というのは、当然長期的なスパンで考えることが必要です。ただし、原子力発電所の運転期間の議論などもそうですが、現在の議会が50年後の日本の在り方に対して責任を持って議論を進めているとは言い難いなかで、さらに今回のように100年後の話まで出てくると、本当に大丈夫なのかと不信を抱いてしまうのも無理はありません。

 長期的なビジョンを掲げることは重要ですが、現在の議会の責任においてどこまで未来の政策を決められるのかという点についても、改めて考えていく必要があるかもしれません

女性版骨太の方針、リスタートは重要まず隗より始めよ

 目標設定の再検討がなされているのは高速道路ばかりではない。

 4月27日に行われた『女性版骨太の方針2023』策定に向けての男女共同参画会議では、岸田首相は「日本を代表するプライム市場上場企業について、2030年までに女性役員比率を30%以上とすることを目指す」という具体的な目標を示した。

 この数値は、2003年に示されて以来、これまで政府が掲げてきた『202030』(社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位における女性の割合を30%まで増やすこと)の未達を受け、達成期限を10年延長して再スタートを切ったものだ。

「こういった政策は具体的な目標を設定して道筋をつけていかなければ、遅々として進みません。その意味では、国のリーダーが目標を明確に打ち出したことには非常に意義があると思います。

 ただし、『202030』が実現できなかった要因はきちんと検証して反映させるべきですし、民間企業に対して実現を迫る前に政治分野において目標達成の姿勢を示すことが大事なのではないかと思います」

 現在の第2次岸田改造内閣では、女性閣僚は永岡桂子文部科学相と高市早苗経済安全保障担当相の2名のみ。自民党4役には女性議員は入ってすらいないという状況だ。2021年の衆院議員総選挙では、候補者に占める女性の割合は17.7%、当選者に占める女性の割合は9.7%と諸外国に比べても非常に低い水準のままで、政治分野においても女性活躍推進が実現できているとはいえない。

日本の国会議員に占める女性の割合は10%に満たない

「女性閣僚については、最も多いときでも、小泉内閣や第2次安倍内閣の5人で、3割という目標値には到底届いていません。

 そんな政府が主導する『203030』という目標は、まず隗より始めよということで政治分野から進めていかなければ、男女共同参画に対する本気度は民間企業や国民には伝わらないのではと思ってしまいますね」

希望出生率1.8、目標値は立ち消え楽観的な推計が並ぶ

 少子化対策の目標値は未達成であるばかりか、人口減少のペースは歯止めがきかず、さらに加速する緊急事態になっている。2015年の経済財政運営の基本指針『骨太の方針』では「50年後にも人口1億人程度」を目指し、若い世代の結婚や出産の希望がかなった場合の出生率の水準である「希望出生率1.8」という目標を戦後初めて打ち出した。

 ところが2018年の『骨太の方針』では「人口1億人維持」の文言は削除され、今年3月に発表された岸田内閣の『異次元の少子化対策』のたたき台では「希望出生率1・8」という具体的目標値すら見当たらない。

「少子化や人口減少は1990年代にはすでに顕在化していた問題ですが、この20年間でドラスティックな政策が打ち出せず、小手先の改革ばかりになってしまった結果が今の出生率の低下につながっています。

 少子化問題を考えるうえでは、スウェーデンとフランスという合計特殊出生率の回復に成功したといわれる国がベンチマークとしてありますが、そういった事例を参考にしながら、具体的な政策をいかに打ち出していけるのか……待ったなしで取り組むべき喫緊の課題です」

'97年以降、子どもの数が高齢者人口よりも少なくなった

 少子化はさまざまな要因が複合的に絡むため、取り組むべき課題も数多い。4月26日に発表された厚生労働省の『将来推計人口』では、2023年に出生率が底打ちし、その後は緩やかに回復していくという、やや楽観的にも思える推計が描かれた。

 実現のためには、子どもを産み育てやすい環境をつくるだけでなく、子育てに関わる人すべてに対する包括的なケアも必要となると、平河さんは指摘する。

「男性が育児参加しやすい環境をつくるための労働状況の改善などは、第2次安倍政権以降で成功しているレガシーといえるかもしれません。その方向性をさらに進める一方で、フランスの事例に見られるような結婚しないカップルの出産や育児に対するケア、アメリカなどの事例に顕著な移民の増加による人口増の観点なども含めると、講じるべき対策は無数に出てきます。

 ポジティブな目標を設定して突き進むことも必要であると同時に、現実に即した実現可能なラインをひいて政策を打っていかなければ効果的な改善は期待できません」

 状況に応じて政策目標を柔軟に修正していくことは当然必要ではあるが、同時に過去の方向性の検証や国民への十分な説明、実現後のフォローアップも重要だ。

「例えばマイナンバーカードの普及政策は、具体的な目標を掲げてその達成に至った事例のひとつ。ただ、その綻びもすでに出始めていて、システムの不具合などの問題も露呈してきています。

 新たな問題のしわ寄せが、地方公務員や医療の現場などにきてしまうような事態は避けなければならず、政策を実現させた後の現場のフォローも重要な課題です。そういった政治の動向をきちんとチェックしていくことは、国民が政治に関わっていく方法のひとつとしてとても重要だと思います」

 今後も政策実現の過程をシビアに見ていくことが大切だ。

平河エリ●政治分野、議会政治などの仕組みについて、朝日新聞、講談社、扶桑社、サイゾーなどで執筆するほか、YouTubeなどで配信を行う。著書に『25歳からの国会 武器としての議会政治入門』(現代書館)がある。

(取材・文/吉信 武)

 

蹴り飛ばして岸田首相から爆発物を遠ざけたSP

 

カバンを盾にして岸田首相に覆い被さるSP

 

爆発から岸田首相を守るSP。この画像から岸田首相の背後に多くの警官が配置されていることがわかる(SNSより)