日経平均株価の5月22日の終値は3万1086円となり、'90年初めのバブル崩壊後の最高値を更新。33年ぶりの水準となった。
「#日経平均株価」がツイッターでトレンド入り。国民の注目度の高さも感じるが、実際のところどれだけのインパクトなのか。エコノミストの田代秀敏氏に話を聞いた。
日本株は「なぜ割安」なのか
「政治的には、大きなインパクトです。コロナ5類移行に続いて、G7広島サミットで岸田外交の評価も上々。そこに最高値更新のニュースを聞いた国民が“景気が上向いてる”と感じていると見られれば“今なら勝てる”と衆議院の解散風が加速するでしょう」
では経済的な側面では?
「実は経済的に見ると、インパクトは大きくない。昨今の日本株は、金(ゴールド)と同じように安く買って高くなったら売る投資対象でしかない。海外投資家に“割安感があって値上がり余地が大きい”と見られ大量に買われているだけなのです」(田代氏、以下同)
つまり、背景には“日本株が異常に割安であること”がある。半世紀ぶりの円安のおかげで、海外からの観光客が日本で爆買いするように、海外投資家は日本の株式を爆買いしているのだ。なぜ日本株はそこまで割安なのか。
「株式の割安さを示す指標のひとつに、株価純資産倍率(PBR)があります。これは、会社の株式時価総額(=株価×株式数)が会社の純資産(=資産-負債)の何倍かを表します。PBRが1倍を下回る企業は、株主から集めた資金を有効に活用できていないので、“経営として失格”とみなされます。なんと日本は約4割の企業で、このPBRが1倍を割るのです」
物価高なのに賃金は上昇しない!?
日本を代表するトヨタのPBRが0・9、三菱UFJが0・6。一方で、テスラは13、アップルは54だ。アメリカでPBRが1を下回る企業は1割に満たない。
「このなかば異常事態に、東京証券取引所は“経営失格”企業に、株価を引き上げるよう要請するのですが……」
企業は株価を引き上げようと手っ取り早い手段を用いる。
「利益を株主に分配するための配当金を増やしただけでなく、自社の株式を買い戻す“自社株買い”を行うのです。雑誌の部数を伸ばすために、発行元の出版社が自分たちで雑誌を買い占めるようなもの。本当に企業がすべきことは、経営改革や新規事業開拓で自社の収益力を高めることですよね」
こんな小手先の対策での株価上昇を景気回復のサインと判断するのはあまりに危険だと続ける。
「“景気回復のムード”が広がり、日本銀行が政策金利を引き上げて住宅ローンなどの支払い金利が上昇したり、財務省の増税要求が通って家計の可処分所得が減少する、などの影響が私たちの暮らしに及ぶ可能性があります。また、株価は上昇の後に下落するものですが、今回は上昇が急速なだけに下落も急速かもしれません。そうなると、経営者が弱気になって、41年ぶりの物価高なのに賃金はそれほど上昇しない状態が続く可能性もあります」
日本は世界第3位の経済大国。されど、通貨が歴史的に弱いのだ。
田代秀敏 経済学者。1957年、福岡生まれ。一橋大学経済学部卒業。同大学院で経済学修士を取得。一橋大学国際共同研究所客員研究員、みずほインベスターズ証券調査部エコノミスト、日興コーディアル証券国際市場分析部部長、大和総研主任研究員、ビジネス・ブレークスルー大学経営学部グローバル経営学科教授などを経て現在、Infinity LLC チーフ・エコノミスト