咳をしたときの“ちょいもれ”がある、トイレが近くなって旅行へ行くのが不安……。そんな、更年期の女性が多く経験する、頻尿や尿もれなどの尿トラブル。
困っていてもおシモの話は「恥ずかしい」と隠す人も多く、P&Gジャパンの調査では、尿もれ経験者のうち57.6%が「誰にも相談したことがない」と回答。しかし、それに警鐘を鳴らすのが泌尿器科専門医の二宮典子先生。
「“オシッコ問題”を引き起こす一番の原因は加齢です。ただ、それ以外にも理由はさまざま。なかには悪性の腫瘍や脳疾患など、一見排尿とは結びつかないトラブルが隠れている場合もあります」(二宮先生、以下同)
“骨盤臓器脱”から腎臓病になるリスクも
そもそも、加齢により尿まわりのトラブルが増えるのはなぜだろうか。骨盤内にある筋肉「骨盤底筋群」が弱り、膣がゆるむからというイメージが強い。その代表的なものが、笑ったり、荷物を持ったときに尿もれする「腹圧性尿失禁」だ。
しかし、骨盤底筋群の筋肉がさらに低下すると、本来は筋肉に支えられているはずの子宮などの臓器が下がる「臓器脱」が起きることも。それも尿トラブルを引き起こす。
「子宮が落ちてくることで膀胱が引っ張られ、膀胱がスムーズに収縮できずに残尿感が残ったり、膀胱を支える尿道がぐらつきがちになり、尿もれが起きやすくなったりする。
臓器脱によって膀胱の変形が進むと、尿の出が悪くなって腎臓に負担がかかり、腎臓病を引き起こすこともあるんです」
さらに、二宮先生が加齢によるオシッコまわりのトラブルの原因として挙げるのが、更年期の女性の多くを悩ませる病気「GSM」だ。
「『GSM』はまだあまり認知されていませんが、日本語では『閉経関連泌尿生殖器症候群』といわれます。女性ホルモンの減少で膣まわりに潤いがなくなって起きる症状全般を指します」
粘膜は乾くと同時に薄くなってくるため、オシッコを出す外尿道口が露出ぎみになり、刺激されるようになる。カサカサした不快な感覚が尿意と錯覚され、結果、トイレが近い、頻尿状態になってしまうのだ。
「オシッコが十分たまっていないのに尿意を感じるわけですから、トイレでギューッと力を入れ、出し切ろうとする人も多い。結果、尿道に負担がかかって膀胱がむくみ、それが『尿がたまっている』と認識され、さらに頻尿状態になる悪循環に。
また、尿道まわりが乾燥すると免疫力が低下し、膀胱炎を繰り返すケースもあります」
骨盤臓器脱も尿トラブルに
出産や加齢により、骨盤と臓器を支える骨盤底筋群の筋力が低下。子宮が下がると隣接する膀胱もつられて下がるため、膀胱の収縮がうまくいかなくなり、尿道に負担がかかるなどして尿もれにつながる。
その尿トラブル、実はがんの可能性も
二宮先生のクリニックでは、頻尿をきっかけに全身にまつわる病気が発見された実例もある。
「50代以上の女性に多いのは、糖尿病です。高血糖になると、尿と一緒に糖を排出しようとするので、オシッコの量が増えます。尿の中に糖分が混じるようになり、それが膀胱の刺激になって頻尿を助長。
また、糖尿病になると血中の糖により、血管や神経が傷つきます。膀胱に指示を出している神経が傷つくことで頻尿を引き起こしたり、膀胱自体の機能が落ちることもあるんです」
糖尿病はさまざまな合併症を引き起こし、悪化すると失明や慢性腎臓病のおそれもある。そのサインのひとつが尿トラブルなのだ。
「糖尿病は目立った症状がありません。女性の場合、お勤めしていなければ定期的な健康診断を受けていないケースも多く、更年期以降は気づかず悪化している方も多いです。尿トラブルのサインを見逃さないでほしいですね」
夜に何度もトイレに行く「夜間頻尿」は、高血圧が潜んでいることも。
「高血圧の患者さんは、夜になると血管の外の不要な水や塩分を回収して排出しようとします。また、血圧を下げようとするホルモンが夜に放出され、それが利尿ホルモンと似た働きをします。そのため、頻尿が起こります」
このほか老廃物を尿として排せつする腎臓の働きが悪くなると、血液や尿の中に異物が増え、膀胱を刺激。尿量が増えて頻尿になることがある。頻尿は、腎臓機能の低下のサインでもあるのだ。
もっと恐ろしいのは、排尿トラブルの原因が実はがんであるケース。
「子宮がんや大腸がんの場合、臓器ががんによって侵食されると、臓器が硬くなって変形し、臓器同士のバランスが悪くなっていく。
その結果、尿路がしなやかに動けなくなり、常に刺激されるようになるなどの事態が起き、頻尿につながるんです。また、白血病で頻尿症状が出ることもあります」
ほかにもアルツハイマーなどの脳疾患が排尿トラブルを引き起こすこともある。
「排尿はさまざまなホルモンや神経が関わっていますから、脳疾患からの影響が出ることは多い。例えばオシッコを出さないように働きかける『抗利尿ホルモン』が、脳疾患によって出なくなることがあります。
そうすると飲んでいる量以上に水が出てしまい、脱水症状を起こし、意識を失ってしまうことも」
オシッコの悩みは気軽に泌尿器科へ
ついつい「加齢のせい」と見逃しがちなオシッコにまつわるトラブル。しかし、我慢しているとGSMによる悪循環で頻尿が悪化したり、命にかかわる病気の発見を逃したりといったリスクがあるのだ。
では、不調を感じたときはどこへ行けばいいのだろうか。
「泌尿器科がベスト、近くになければ婦人科へ。病院ではまず尿検査をし、問診、残尿測定や腎エコーなどの超音波検査をします。採血などで全身状態が悪くないかもチェック。内診で臓器脱や子宮などの疾患がないか確認します」
初診の際は、「排尿日誌」をつけていくと状態がわかりやすく、1回分の通院が割愛できる。
「特に女性は、『風邪で病院に行く』とは言えても、『ちょっと尿もれするから病院に』とは言いにくい。その気持ちはわかりますが、不調があれば病院に行くのは恥ずかしいことではありません。
自分の身体を守るためには、尿トラブルをサインとして見過ごさず、『尿もれ・頻尿があればまず受診』。気軽に泌尿器科にかかってほしいです」
(取材・文/仲川僚子)