鳥海高太朗さん 撮影/山田智絵

「僕の役割は、旅行の面白さを伝えること。いい旅先やおいしい食べ物ってたくさんあるんです。ただ、情報がありすぎて、埋もれてしまっている。埋もれているものを掘り起こして、みなさんが旅行へ行く、そのきっかけ作りをしたい」

 そう柔和な表情で話すのは、航空・旅行アナリストの鳥海高太朗さん。『ひるおび』(TBS系)、『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)などにたびたび登場するため、「見覚えがある!」と膝を打つ人も多いのでは?

「'20年7月にスタートした『Go To トラベル』が、ターニングポイントでした。以後、テレビに登場させていただく機会が増え、多いときは『ひるおび』に、月14回も登場させていただきました(笑)。『鳥海さんが紹介した場所に行ってきたけど、面白かった』と街で声をかけられると、この仕事をしていて本当に良かったなと思います」

キャリアのスタートは「個人ブログ」

 子どものころから旅行が好きだったという鳥海さん。「旅行に携わる仕事がしたいと思っていた」と語り、父親と訪れたロサンゼルス旅行が原体験だったと振り返る。

「当時、ロサンゼルス・ドジャースに在籍していた野茂英雄さんの試合を観戦しに行きました。魅了されて、その後も松井秀喜さんやイチローさんの試合を見に行くように。昨年は、父を連れてロサンゼルスに大谷翔平選手の試合を見に行ったのですが、父とともに大リーグを観戦したのは約15年ぶり。コロナ禍で渡航に制限がある中で父親と行くことができました」

 今年3月には、現地でWBC決勝戦を観戦する鳥海さんの姿が話題となり、『ひるおび』MCの恵俊彰から楽しくいじられていたのは記憶に新しいところ。

「プライベートで行ったWBCでしたが、自分が楽しんでいる姿を見ていただくことも大事なことだと思っているんです。公私混同も多いです(笑)」

 ちゃめっ気たっぷりで笑う姿に、「癒される」とファンが増えるのも納得だ。

「日本は島国ですから海外に行くためには、主に飛行機に乗らないといけません。航空券は安くはないので、同じお金を払うなら、少しでも快適に、お得に渡航したほうがいい。そうした思いもあって、航空業界に詳しくなっていったんですね。ですから、僕のキャリアのスタートは、マイレージのため方などを提案する個人ブログです」

 鳥海さんは、大学卒業後、食品会社に勤務。その後、大学観光学部の助手を経て航空・旅行アナリストの道を歩む。

「大学4年生のとき、スコットランド・エジンバラへ留学しました。留学中の週末や休暇を使ってヨーロッパを周遊したのですが、このときの体験が今の仕事に向かうきっかけになったと思います。自分の目で見て、肌で感じることの面白さ。1人でも多くの人に旅行の醍醐味を伝えたくてこの世界に進みました」

わかりやすい解説は「ラジオにルーツ」

 鳥海さんが執筆を開始した'00年代は、まだインターネットが普及したてのころ。海外でのチケット発券法やお得なマイレージ術は貴重な情報として重宝され、雑誌などで書くようになったそうだ。

「テレビによく出させていただくようになったのはここ最近ですが、実は'10年に、高木美保さんがパーソナリティーを務める文化放送のラジオ番組に、月1でレギュラー出演していました。その後も、ラジオに出演させていただく機会に恵まれ、“わかりやすく伝える”ことを学びました。僕は、ラジオに育ててもらったところが大きいんですね」

 テレビと違って映像のないラジオは、聞き手が想像しやすいように、わかりやすく話さなければいけない。鳥海さんの解説がわかりやすいのは、ラジオにルーツを持つからだという。

スコットランド留学時代にローマに行った鳥海高太朗さん

 また、旅行のスキルが、そのまま『ひるおび』や『羽鳥慎一モーニングショー』などの番組に出演する際に、「生きている」と鳥海さんは笑う。

「先ほどお話ししたように、僕はコロナ禍を機にテレビに出演する機会が増えました。そのため、リモートで出演するケースも多かった。日頃から快適に旅行をするノウハウを発信しているので、国内外を問わずWi―Fiがある場所は把握しているし、渡航先でインターネットをするためのスマホでの接続も熟知している。

 駅にあるステーションワークからリモートで生出演したこともあれば、ハワイにいるときはホテルの部屋からオンラインで応じたくらい。羽鳥さんから『カメラを外に向けてください』と言われてワイキキビーチを映したときは、相当反響がありましたね(笑)

 いつでもどこでもオンライン出演できることが、鳥海さんの追い風になったというから“リモートの申し子”だろう。いろいろな場所へ行きながら仕事もこなす─、そんな鳥海さんのライフスタイルにあこがれを抱く人は多いはず。その一方で、どうしても気になることがある。「結婚はされているのでしょうか?」、思い切って尋ねてみると、

「独身だからこういう仕事の仕方ができているのは否めませんよね。周りからもそれをつっこまれます」

 そう面はゆそうに答えるものの、ライフワークバランスならぬ、ライフワークブレンドした鳥海さんの働き方は見習いたいところ。

 5月8日から新型コロナウイルスが5類に移行したことで、観光地には活気が戻り始めている。多くの人が、夏休みの旅行を計画していることだろう。おすすめの旅行先はあるのか? テレビで耳にする、わかりやすく丁寧な口調で鳥海さんが解説する。

おすすめは「大谷翔平」!?

「キーワードは、“外国人がまだ戻りきっていない場所”です。現在、インバウンドが急速に戻ってきているため、国内の主要都市は混雑率はもちろん、ホテル代も高くなっている傾向にあります。沖縄に行くにしても、那覇ではなく石垣島や宮古島といった離島を選ぶといいでしょう。主要な場所から外れた場所が狙い目です」

 そして、国外に関しては、ズバリ「大谷選手を観戦しに行くのがおすすめ」と野球好きならではの驚きのプランを教える。

「JALが設立した国際線中長距離路線LCC(格安航空会社)のZIPAIRなら、時期にもよりますがロサンゼルスまで最安片道5万円台ほどで行けます。機内はWi―Fiが無料ですし、座席もLCCにしては広い。僕もZIPAIRに乗って大谷選手を見に行っているほど(笑)。来シーズンは、ロサンゼルスに本拠地を置くチームではないところでプレーしているかもしれない。そうすると、もっとコストがかかってしまう」

 鳥海さんは、「思い立ったときが旅行に行くタイミング」と話す。

「僕自身、時間が空いたらどこかに行くというスタイルをずっと続けています。近い、遠いではなく、自分が行ってみたいと思う場所に行くこと。旅行の醍醐味は、現地でしか味わえないものを体感することです。その魅力って、たとえテクノロジーが発展しても変わらない。旅行に行ってみたい─。その気持ちを後押しできるような発信をし続けていきたいです」

 他先進国に比べると、日本の有休取得率は高いとは言えない。そのため、GWを筆頭にまとまった連休に多くの人が押し寄せる状況が続いている。こうした状況に、鳥海さんはこんな提案を授ける。

「コロナ禍によって、ここ日本でもオンラインが一般的になってます。先日のGWでは、連休谷間の1日と2日のみオンラインで授業をする学校もありました。積極的にオンラインを活用することで、旅先でも働ける、学べるという選択肢が増えれば、日本人の旅行観も変化してくると思います。コロナの経験をプラスに変えていくことも、これからの課題。僕も、そうした新しい旅行の形を身をもってお伝えしていきたいです

 鳥海さんは、誰でもできる旅行や少し背伸びをするくらいの旅行をモットーとしていると笑う。等身大の旅行。これからも鳥海さんのアドバイスを耳にする機会は多そうだ。

鳥海高太朗さん 撮影/山田智絵
とりうみ・こうたろう 1978年千葉県生まれ。航空・旅行アナリスト。成城大学経済学部経営学科卒業、城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科修了。2013年より帝京大学理工学部航空宇宙工学科非常勤講師。航空会社のマーケティング戦略を主研究に、旅行トレンドの調査などを行う。YouTube「PTA 鳥ちゃんねる」を昨年12月に開設。

取材・文/我妻弘崇 撮影/山田智絵

 

WBCで決勝戦を観戦し話題になった鳥海高太朗さん

 

2022年4月、エンゼルスの試合を観戦しに行った鳥海高太朗さん

 

2023年5月、台北を訪れた鳥海高太朗さん

 

2009年、ニューヨーク・自由の女神にて記念撮影をする鳥海高太朗さん

 

スコットランド留学時代にローマに行った鳥海高太朗さん