「カロリーゼロ」「ノンカロリー」などの表示がある食品の付き合い方。砂糖の置き換え甘味料ダイエットに効果なし!?(※画像はイメージです)

 やせたい! そんな切なる願いからつい手が伸びるのが、「カロリーゼロ」「ノンカロリー」などの表示がある食品。しかし5月15日世界保健機関(WHO)は衝撃的なガイドラインを発表した。それは「体重コントロールを目的に、砂糖代わりの甘味料を使うことを推奨しない」というもの。

 研究論文などを総括的に分析した結果、低カロリーをうたう代替甘味料を使用しても、体脂肪を減らす長期的な効果は見られず、むしろ長く使用することにより心血管疾患の増加など望ましくない影響がある可能性が示唆された、というのだ。

「ある意味ショッキングな内容ですが、深刻に捉える必要はない、と私は考えています」と話すのは、管理栄養士の平井千里さん。どういうことか詳しく解説してもらった。

使用される甘味料は大きく分けて3種類

「まず知っていただきたいのは、砂糖代わりに使われる非糖質甘味料には3種類あること。1つ目がステビア、羅漢果など植物から採取される天然甘味料。例えばステビアは南米原産のキク科植物で、その葉に含まれる甘み成分を抽出して製造されています」(平井さん、以下同)

 2つ目がアスパルテーム、スクラロースなど化学的に合成された人工甘味料。

「アスパルテームはアミノ酸のアスパラギン酸とフェニルアラニンを結合させたもの。日本では食品添加物に指定されています。それぞれ甘さに独特の風味があり、苦みを抑える効果があるものも。砂糖の自然な甘みに近づけるなどの目的で、組み合わせて使用されることが多いようです

 3つ目がソルビトールや還元水飴などの糖アルコール。

「わかりやすくいうと、糖分とアルコールを化合させた人工甘味料。ガムなどでよく知られるキシリトールも糖アルコールの一種です」

 これらの中で、カロリーをほぼ持たないものが代替甘味料としてよく利用されるが、そもそも甘いのにカロリーがないのはなぜ?

「ステビアは砂糖の300倍、アスパルテームは砂糖の200倍の甘さを持つといわれ、強い甘みがあることで知られています。ステビアの1g当たりのエネルギー量は砂糖と同じですが、ごく少量の使用で甘みを感じられるため、結果的に低カロリーとなるのです」

 平井さんも代替甘味料の甘さに驚いた経験があるそう。

「4種類の代替甘味料の袋を移動させただけで、手に強い甘みが残りました。中身を出し入れしたわけではなく、外袋に軽く触れただけなのですが……。おそらくごく微量が袋の外側に付着していたのだろうと思いますが、それでこんなに甘いのかと改めてビックリしました」

甘いのにカロリーがほぼない理由

 もうひとつ、甘いのにカロリーがほぼない理由は消化、吸収のされにくさにある。

「スクラロースや糖アルコールなどは人間の消化酵素では分解されにくく、吸収も難しいため、体内を素通りして排泄されます。吸収されなければ、当然エネルギーとして利用されないため、カロリーもゼロに近い状態となります」

 なお、栄養成分の表示方法は厚生労働省によって厳格に定められている。

「食品100g、または飲料100mlのエネルギー量が5kcal以下であれば、『カロリーゼロ』と表示することが可能。ですから厳密にいえばカロリーゼロでない場合もあるのですが、このエネルギー量で体重増加や肥満を招くことは通常はありません」

 実は、WHOが今回勧告したガイドラインに3つ目の糖アルコールは含まれていない。

「問題にされているのは天然甘味料と人工甘味料。どちらも脳は甘さを感じますがエネルギーにはならないため、ダイエットにいい、と、この10年ほどで一気に市場に広まりました。しかし『低カロリーだからと油断してたくさん食べてしまうのでは』、『低カロリーのものでは我慢できなくなり、結局はカロリーの高いものを食べてしまうのでは』といった指摘は市場に広まった当初からありました」

 人工甘味料に関しては“腸内フローラに影響を与える”“発がん性がある”との情報もあるが……。

「動物実験などで悪影響が見られた研究も確かにあるようです。しかし、これらの結果は、ある程度の量を摂取した上で得られたもの。先ほども説明したように実際には砂糖の数百倍の甘味があるため、製品に使われるのはごくごく微量となります。その量で人体に悪影響が起こることは考えにくい。何よりそれほど危険なものなら、そもそも食品として認可されません」

 ただ、長期的に摂取し続けた場合の影響ということについては不明とのこと。

「人工甘味料が開発されたのは1990年代後半。昔から食されてきた砂糖やはちみつと比べると歴史が浅く、長年食べ続けた人の子々孫々がどうなるかまではわかっていません。その結果が真の意味で判明するのは先の時代となります」

砂糖を代替甘味料に置き換えではやせない

 現時点では安全性に問題がないとされているため、これらの甘味料を推奨する医師もいる。

「甘いものがやめられない糖尿病の患者さんに少量使ってもらうのにいいと、代替甘味料をすすめる医師は珍しくありません。今回のWHOのガイドラインも糖尿病の人を勧告の対象から除外しています」

 ではダイエットに関しては、結局、役立つのか役立たないのかどっち?

「砂糖を代替甘味料に置き換えただけでやせることは、まずないと思います。例えば、コーヒーに入れるスティックシュガー1本のエネルギー量は20~30kcal程度。大したエネルギー量ではないので、それを代替甘味料にしたところで何の影響もありません」

 砂糖を置き換えたからと安心して、大量に摂取したりほかのものを食べたりすれば、逆効果になることもありうる。

「糖質オフビールを飲みながら揚げ物などのおつまみを食べれば、かえって太ることもありますよね。要はカロリーゼロの商品を利用したところで、今までどおりの食事を続けていたらやせるのは無理ということ。WHOの勧告も『やせるためにこれらの甘味料を使ってもあまり意味がない』程度のニュアンスで受け止めておけばいいと思います」

 その上で、ダイエットへの意識を高めるきっかけとして、これらの代替甘味料を利用するのはアリ。

「『カロリーゼロ』のうたい文句が頻繁に目に入れば、暴飲暴食を控えたり、短時間でも運動したり、生活全般に気を使うようになるかもしれません。それが継続できれば、ダイエット効果が得られるのではないでしょうか」

 ただしとりすぎには注意。

「どんな食品も大量にとりすぎると害になることがありますが、人工甘味料もそれは同じ。カロリーオフ飲料を1日1本飲む程度なら大丈夫ですが、それを何本も飲むのはおすすめできません。代替甘味料のスティックシュガーも1日1~2本程度にとどめておくといいでしょう」

 ちなみに平井さんの代替甘味料の使用法は?

「1日1杯程度ですがコーヒーに入れたり、時には照りを出すために料理に使ったりしています」

 過度なダイエット効果は期待せず、どうしても甘いものを食べたいときなどにうまく活用するのが正解かも!?

ひらい・ちさと 小田原短期大学食物栄養学科准教授。女子栄養大学栄養科学研究所客員研究員。肥満と栄養摂取の関連について研究。前職は病院栄養科責任者(栄養相談も実施)。現在は教壇に立つ傍ら、実践に即した栄養情報を発信

<取材・文/中西美紀>

 

マウスにブドウ糖と果糖を、それぞれ同じ量で4週間与えて血液中の中性脂肪の値を測定した。果糖を与えたマウスのほうが4倍も中性脂肪値が高かった。(データ提供 仲川孝彦医師)

 

大腸がんのリスク増、果糖を含む食品例

 

WHOのガイドラインでは体重管理に非糖質甘味料を使用しないよう勧告(公式HPより)