転機がやたらと多い人がいる。仕事や勤め先を何度も変えたり、結婚・離婚を繰り返したり。フットワークが軽いというか、熱しやすく冷めやすいというか、見ている分にはけっこう面白い生き方だ。
芸人でいえば、中田敦彦もこのタイプだろう。オリエンタルラジオのボケ&ネタ作り担当だが、その活動は多岐にわたり、変化を繰り返してきた。
コンビとしてはまず、2005年のデビューと同時に「武勇伝」ネタでブレイク。10本ものレギュラーを獲得した。その後、急失速したものの、'16年にはダンス&ボーカルユニット『RADIO FISH』として発表した『PERFECT HUMAN』で再ブレイク。『紅白』出場も果たす。
「中田で笑うのってけっこう知性いるからね」
ピン芸人としては、テレビに見切りをつけるとして動画配信に力を入れ、チャンネル登録者数は500万人を突破した。
'20年には、相方の藤森慎吾とともに吉本興業を退所。翌年には、家族でシンガポールに移住している。
とはいえ、教育系ユーチューバーとしての配信内容を学者に批判されたことも。また、大物芸人たちに噛みついて、そのつど、芸人仲間に苦言を呈されたりもしている。実績も存在感もあるが、どこか小物っぽさも否めない印象だ。
実際「中田では笑えない」という声もちらほら。それに対し、最近、動画でこんな反論をした。
「中田で笑うのってけっこう知性いるからね。“俺、ドストエフスキー面白いと思ったことないんだよね“とか“モーツァルトでノッたことないんだよね“みたいな感じで、あんま言わないほうがいいよ(笑)。後世、恥かくから」
うーん、どこまで本気なのだろう。なお、この発言は炎上したため、その後カットされている。そんな中田の妻は、タレントの福田萌。'12年に結婚した際には、彼女から出た「インテリ婚」という言葉が話題になった。その後も、学歴自慢ととれる発言をしていたりする。
福田萌とは「似た者夫婦」?
ちなみに、中田は慶應大出身で福田は横浜国大出身だ。たしかに高学歴ではあるものの、東大と京大の夫婦とかならともかく、自慢するには中途半端な気もしなくはない。
ただ「似た者夫婦」という言葉があるように、夫婦というのは性格や価値観なども似ていたりする。福田の学歴自慢同様、中田の「知性」発言も意外と本気なのではないか。
ところで、福田の故郷は筆者が在住する岩手県。彼女が卒業した高校は同じ市内だったりするので、当時の話も人づてに聞こえてきたりする。「ちょっと変わった子で、あまり周囲となじめていなかった」そうで、そのあたりも中田と似ているのかもしれない。
つまり、彼の転機の多さも、そういうタイプにありがちな「自分探し」の産物なのでは。それは「武勇伝」でいうところの「あっちゃん、カッコいい」を求め「パーフェクトヒューマン中田」を目指してさすらう物語でもある。
もちろん、承認欲求も完璧志向も悪いことではない。芸人として人間として、彼がここまでやってこられたのはそのおかげだろう。
そういえば現在『だが、情熱はある』(日本テレビ系)というドラマが放送されている。オードリーの若林正恭と南海キャンディーズの山里亮太の半生、いわば芸人の自分探しを描くものだ。
ただ、数字的には苦戦中。もしかしたら、中田を主人公にしたドラマのほうが視聴率を稼げるかもしれない。見ている分にはけっこう面白い人生なのだから。
ほうせん・かおる アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。著書に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)。