今から10年前の朝ドラ『あまちゃん』がNHKのBSプレミアムで再放送中だ。ヒロインを演じたのは、能年玲奈(現・のん)。一躍、人気者となったが、その後、所属事務所との独立トラブルで失速した。
2016年6月には、その事務所との契約が終了。改名して再出発することになる。今年7月には30歳を迎えるということで、ネットサイトの取材を受け、20代を振り返った。
《結果、楽しかったし、面白かった。いろいろなことがあって、これからも大変なことはあるのだろうけど》
などと語ったが─。
兵庫出身なのに岩手で「ご当地アイドル」化
独立以降は、地上波テレビなどへの露出が激減。'19年には『あまちゃん』と同じ脚本家が手がけたNHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』や、過去の朝ドラ女優が大挙出演した記念作『なつぞら』への登場が噂されたものの、どちらからもお呼びはかからなかった。
同じ独立トラブルで苦しんだ『新しい地図』の3人が自分たちの番組を持つまでに盛り返したのとは対照的だ。
それでも、なんとか生き残ってはいる。そこで見逃せないのは『あまちゃん』ゆかりの地・岩手とのつながりだ。
改名から約1か月後、彼女は県知事を表敬訪問。ご当地キャラクターを描いたイラストをプレゼントして「おかえりなさい」と歓迎された。
そこから「岩手銀行」「JA全農いわて」のCMが決まり、今も継続されている。また、三陸鉄道のイベントに登場したり、ローカル番組で田植えに挑戦したり。実は筆者、岩手在住なので、のんをテレビで見かけない日はないし、街を歩けば彼女のポスターにも頻繁に出会う。兵庫出身なのに、岩手のご当地アイドルみたいな状態だ。
ただ、芸能人にとって「ヒマ」なことは何よりつらい。自分の人気がもうないのでは、という不安をかき立てられるからだ。
まして、彼女は自己肯定感の低いタイプ。かつては「ふだんの自分」を「生ゴミ」と呼び「仕事をしている自分」が何より「生きてる」と思えるとまで言っていた。岩手での仕事がなければ、気持ちが折れていたのではないか。
「感じ悪かった」と自己分析
これは岩手の土地柄も大きいのだろう。源義経が落ちのびてきた際、かくまおうとした「判官びいき」の歴史もある。
平泉では旬のイケメン芸能人が義経を演じるイベントも恒例で、'20年は伊藤健太郎に決まっていた。が、コロナ禍で中止になったうえ、伊藤が不祥事で謹慎する事態に。にもかかわらず、再開された'22年は伊藤が務めた。
《まつりと一緒に再起してほしい。奥州藤原氏以来の心意気を示したかった》(河北新報)
というのが、観光協会の説明だ。
なお、前出のネットサイトで、のんは昔の自分について「感じ悪かった」として「(今は)丸くなった」と分析。これは「創作あーちすと」としての活動で「弱い部分」も出せるようになったかららしい。
昨年は「不気味で、可愛いもの」をテーマにした個展も開いたが、創作あーちすとというネーミングを含め、彼女には不思議ちゃん的なところもある。
そんなところがうまくハマったのが、昨年の映画『さかなのこ』だ。さかなクンの半生を描いた物語で、魚好きの男の子を好演。とはいえ、これも『あまちゃん』と同じ海つながりのキャスティングだったりする。
10年前の一発のおかげで、彼女の芸能人生はなんとかなりそうだ。
ほうせん・かおる アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。著書に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)。