見知らぬ人たちがすれ違うコンビニでは、さまざまな“人間模様”が織りなされる。勤務歴10年以上の店員、吾郎さん(仮名)が語る、コンビニ笑いあり涙ありの物語とは──。
「最近はどこのコンビニも人手不足で、アルバイトの募集をかけても若い世代からの応募が全然ありません。若者で応募してくるのは外国人留学生がほとんど」(吾郎さん、以下同)
先日、バイトとして働く以外にも日本国内でミャンマー出身の女性が、フランチャイズ店のオーナーに初めて就いたことがニュースにもなった。吾郎さんが働くのは、東京近郊の閑静な住宅街にあるコンビニ。治安もよく、職場環境は良さそうなのだが、
「うちのお店も慢性的に人手不足です。でも、この間ようやく1人バイトが入ってきたんですよ」
まじめで一生懸命、人気者だけれども
喉から手が出るほど欲しかった新人バイトは、スリランカ人のクマラくん(仮名)で、20代のイケメン。なんでも元ボクサーで、スリランカ国内ではヘビー級のチャンピオンにもなったという。
「性格もいいし、愛想もよくて。一緒に働いていて、悪い点が見つからないくらい“当たり”のバイトくんです。彼目当てに買い物に来るお客さんも増えたんです。ただ……」
彼目当ての客の中に、問題の人物が現れたという。
「60代のおじいさんが、彼のことが好きで好きでたまらないらしくて(苦笑)。最初は話しかけるくらいでしたが、次第に働いている彼の身体を後ろから触り始めたり。周囲が引くほどにベタベタするんです」
当のクマラくん、そのおじいさんが来店すると奥の事務所に逃げ込み、帰るまで店頭に出ないようになったという。
「おじいさんとクマラくんの根比べですよ。触られたくない彼は事務所から震えて出てこないし、クマラくん目当てのおじいさんは1時間くらい店内で粘るし……。いちばん迷惑をかけられているのは、一緒に働いていて彼の仕事までやらなくてはいけない僕たちなんですけど」
ふたりの“根比べ”は、まだまだ続いているという──。クマラくんのように活躍してくれるバイトが入ってくれるのはうれしいが、日本人のおじさんバイトが入ったときは気苦労が絶えなかった。
元会社役員のコンビニバイトがお客さんと喧嘩?
「元会社役員で、還暦を過ぎた佐々木さん(仮名)がバイトで入ってきました。昼間はボランティア活動とゴルフに勤しんでいるので、働くのは深夜帯だけという条件でした。働かなくても悠々自適で暮らせるのでは?と思ったんですけど、聞けば退職金は親族の借金返済に消えたとか。
まあ事情は人それぞれでしょうし、一緒に働く者としては社会経験のある人が来てくれたと喜んでいたんです」
しかし、働き始めると吾郎さんの淡い期待は無残にも砕け散ることになる。
「プライドが高いんですよ。会社役員だったからなのかもしれませんが、自分より目下のお客さんの対応が苦手。初めはなんとかこなしていたんですけど……」
ある夜、酔っ払ったサラリーマン風の若者が佐々木さんに絡み始めた。苦虫をかみつぶしたような顔で若者の相手をしていた佐々木さん、「何、怖い顔してるんだよ」と言われ、堪忍袋の緒が切れた!
「貴様! 二度と来るな!」
と、怒鳴りつけながらおじさんが買ったものを彼の顔面にバンッ! これには若者もブチ切れ、取っ組み合いのケンカ寸前に。
「なんとかその場は収まったんですけど、その若者はうちの常連客。以来、佐々木さんは彼が来店するたびにイライラと(苦笑)。店内の雰囲気は最悪でした」
そんな空気に佐々木さんも耐えられなくなったのか、
「私、この仕事合ってませんね……」
と、2か月ほどで店を去っていった。この例とは逆に、コンビニバイトが“天職”のような人もいる。
セールストークはうまいけど、スナックみたいで……
「アラカンの真由美さん(仮名)は“いらっしゃいませ!”“ありがとうございました~”と元気いっぱいで客ウケもバツグン。コンビニではお中元やお歳暮などの季節商品も扱ってますが、彼女のセールストークに乗せられて注文する人が増えたんです」
そんな真由美さんを“推している”客は、ガテン系のお兄さんたち。
「“おばちゃん、俺と不倫しようぜ”なんて誘われて、“あら、いいわよ♪”と応えるノリのよさもウケているのでしょう。“家にいて亭主の相手しているより、ここで働いているほうが楽しい”と目を輝かせています(笑)」
ほかの客の目も憚らず「また来てね」と、お兄さんたちとハグを交わす真由美さん。
「明るく働いてくれるのはいいんですけど、スナックのママじゃないんだから、とふと思ってしまうことも……」
迷惑だけど断ることのできない客
真由美さんと同世代の客で、店員の間で“ジャリ銭おばさん”と呼ばれている迷惑客がいるという。吾郎さんは疲れた顔でこう話す。
「スーパーのビニール袋に、小銭をいっぱい詰めて買い物にくるおばさん。以前はレジでコインカウンターを使い精算していたけど、セルフレジに変わってから、余計、面倒くさいことになってます」
店員がレジ打ちをしていたころと同様、小銭をセルフレジに流し込むおばさん。汚れた硬貨やゴミも一緒に入れてしまうので、ほぼ毎回エラーを起こしてしまう。
「そのたびに“こんなレジにしたからダメなのよ!”とクレームをつけてくるけど、いやいや、悪いのはあなたでしょ、と。実は1回の買い物で使える小銭の枚数は決められていて、それ以上は店側が拒否できるのですが、なにせ常連さんなので……(涙)。
こちらの厚意でやっていることも知らないで、おばさんは今日も店で小銭払いを続けています」
“ジャリ銭おばさん”は精算の手間を増やすが、まだマシなほう。いちばんタチが悪いのは、「映画『万引き家族』を地でいく3人組の家族なんです」と、吾郎さん。
「夜な夜な深夜2時台に来店する、60代の小柄な母親、ぽっちゃり以上の体形をしたアラサー娘、これまた太った20代の息子の3人家族。決まって、本のコーナーから商品を見始めて店内をウロウロと歩き回ります。
この家族、店員が納品作業や品出しの仕事に取りかかると、その目を盗んでお菓子やコーヒーなどを万引きするんですよ」
後で防犯カメラを確認したところ、万引き行為が発覚。「基本、現行犯でないと万引きは捕まえられないと聞いていましたが、実際はカメラの映像など決定的な証拠があれば、捕まえることができるそうです。
ただ、その家族はそれなりに買い物もするので、むげにはできない。なので、次の犯行現場を押さえたら警察に通報しようということになりました。この3人組が来店したときは、まさに緊急発進状態(笑)。店員が交代で、3人から目を離さないように警戒態勢を敷いています。本来はやらなくていいことなので、勘弁してほしいですよ」
今は昔、昭和の時代にはその地域に根ざし、常連たちが語らう「雑貨屋」という名の“コンビニ”があった。時代は変わり、チェーン店として、どこでも同じものが手に入るコンビニに変化したが、人と人が触れ合う場所では、いろいろな物語が今も生まれている──。
(取材・文/蒔田 稔)