今から約30年前のことだ。小学校3、4年生だった三井淳平少年が、クラスメートの度肝を抜いたことがある。
レゴ界の神・三井淳平の少年期
2学期が始まる9月1日の朝。自分1人でこしらえたものを、自分1人で持参することができず、「友達に手伝ってもらって、分割して学校に運びましたね」
ざわつく教室でいくつかのパーツを組み立てると、そこに突如現れたのは、大人の背丈をはるかに超える2メートル近いエッフェル塔だった。
「段ボールと新聞紙だけで作りました。歌と水泳はダメでしたけど、工作は得意でした」
同級生の誰もが思いつかないスケール感、教師の想定をはるかに上回る規模感で、淳平少年は夏休みの課題を仕上げたのだ。
現在、「レゴ(R)認定プロビルダー」としてレゴ(R)ブロックを使った作品を送り出し続ける三井淳平さん(36)は、作品作りについて「見た人に楽しんでもらえることを何より重視しているので、作品を作るのは見てもらうためと思って作っている」とこだわりを語る。
クラスメートを楽しませようと、ただ驚かそうと、エッフェル塔作りに取り組んだ少年時代。その思いを大人になっても失わずに、
「今はレゴ ブロックを素材として使っている感じですね」
生粋の“工作少年”は今“レゴ・ヒーロー”としてレゴファンの憧れの視線を浴び、作品で見る者を楽しませている。その現状に迫る。
本業とプロビルダーの両立で多忙な日々を
東京都内に三井さんの工房、『三井ブリックスタジオ株式会社』はある。地下1階と地上1階の2フロア。
何層にも積み上げられ、図書館の書架のように整理された折り畳みコンテナに保存された、多彩でさまざまな形のレゴ ブロック。秘密基地に紛れ込んだようなワクワク感を、訪れたものは確実に味わう。
「折り畳みコンテナは400~500はあると思います。広さは地下と1階を合わせて200~300平方メートルぐらい。1平方メートル当たりの負荷を計算しましたが、建築基準法上は大丈夫だと思います」と安全性は計算済みだ。
創業は2015年4月。同年3月いっぱいまで三井さんは、大手鉄鋼メーカーに勤務していた。会社や同僚の理解を得て、本業と「レゴ認定プロビルダー」とのWワークというスタイル。レゴ ブロックの仕事の魅力が日に日に増し、体力的にもきつくなる。ある日、妻に独立の意思を伝えてみた。反応は、
「全然そのほうがいいんじゃない、でした。両方やっていたので寝不足で体力的にきつかったですし、妻にいろいろ面倒も見てもらっていたので」
子どもの自主性を常に重視してくれたという両親からは「そうしたらいいんじゃない」。会社の同僚も「三井君だったらしょうがないよね」
こうして三井さんは、まだ日本では誰も挑んだ人がいない、ロールモデルのない「レゴ認定プロビルダー」として生きることに確実にワンブロック、踏み出したのである。
2度目の申請で勝ち取った認定
レゴ ブロックを組み立て、作品を作ることで成立する暮らしは、「レゴ認定プロビルダー」(英語でLEGO Certified Professionals=略してLCP)という肩書なしにはありえない。
2023年6月現在、その肩書をデンマークのレゴグループ本社から許されているのは、世界で21人だけ。世界130の国と地域にレゴ社のオフィスがあるが、その国と地域でしか、LCPは誕生しない。
三井さんがLCPに認定されたのは2011年。当時、世界で13人目で、アジア地域では初。しかも23歳という、最年少での認定だった。記録は今も破られていない。
「三井さんのLCPは、われわれの念願でしたし誇りです。世界からビジネスパートナーが来ますけど、日本には三井さんがいるんだよと鼻が高い」
と、認定された当時の社内の様子を教えてくれたのは、『レゴジャパン』シニアブランドマネージャーで、「レゴ(R)スーパーマリオ」を大ヒットさせた橋本優一さん(40)。レゴ社はLCPに、どんな人材を期待しているのか。
「技術的に素晴らしいことはもちろんですが、レゴ社のブランドの価値を正しく伝えていただけるという期待値がいちばんですね」という橋本さんの言葉は、技術力は身に付いていて当たり前、それプラスαが肝心ということを示す。
「レゴ ブロックの価値は明確でして、そのひとつはクリエイティビティー。創造力がどれだけ無限になるのかを、“作ってすごいでしょ”だけじゃなく、“レゴ ブロックの価値として創造力をどれだけ世の中に広げていただけるか”ということがあります。もうひとつ大事なことは、ビジネス上、独立できるかということ。世界のLCP21人に、レゴ社は給料を支払っていません。レゴ ブロック作品の制作を発注すればその対価は支払いますが、日常的なサポートはない。それゆえご自身のビジネスとして生計を立てられるかが大事なポイントになります」
認定を受けたい人は、自ら手を上げることができる。基本は自薦。どのように審査されているか、どのような過程を経て決定に至るのかは、企業秘密。「おそらくすごい数が来ていると思います。本社にはLCP担当の部署があるくらいです。自薦数はわれわれにも公表されないですけどね」と橋本さん。ほんの少し、ヒントを明かしてくれた。
「世界中にファンのコミュニティーがあり、結びつきが強い。こんなものができた、とネットに上げたりお披露目会をやったりしている。レゴ社の担当者はいろいろ見ています。三井さんの存在も、東大レゴ部で活動されていたころから、認知していたと聞いています」
三井さんの認定も、実は2度目の申請を経て、だった。
「二十歳ぐらいのときに一度申請してみて、社会的な経験が浅いからということを考え、実績をつくり直して1年後に再提出した感じでしたね」と三井さんは記憶をひもとく。
「試験は特にないです。過去の作品とかイベントだったり実績が評価の対象になります。レゴ社とやりとりしながらイベントとかやってきたので、その関係で信頼性が構築されることもあるかと思います。面接をしていただいた際は、ビジネスプランは?と聞かれました。それまでも企業から依頼を受けて作ってきたので、それを拡張してやっていきたい、と答えました。英語は必須ですね。本社と連携してコミュニケーションを取るので、ビデオ会議、英文でのメールのやりとりが普通にできないといけない。作品を作るレベルが高いというのは、ひとつの要素に過ぎないというところはあります」
朗報はひと月もたたずに、三井さんの元に届いたという。
LCPとして「レゴ」という看板を公式に背負えることは、最大の後ろ盾になる。必要なレゴ ブロックを必要なだけ本社にじかにオーダーできる特権も、LCPだけに与えられたものだ。
「ありがたいことに、独立して以来ずっと(クライアントから)発注が来ているので、趣味として作品を作ることはこの10年くらいないですね。運がいいことに、依頼される内容が自分の作りたいものとマッチすることが多い。海外のLCPの方は、建物専門とか動物専門とか得意分野を持っていますが、私はオールジャンル。生き物も建物も動物も人も、抽象的なものも含めて作っています」
チョコだけを食べて30時間続けて作業も
工房で三井さんは、レゴ ブロックに命を吹き込む。その日常に、ルーティンワーク的なものはまったくない。
「眠くなったら寝ます。1日合計、8時間以上は寝ていると思いますよ。目覚ましもかけずに、自然に起きるときに起きる。不規則です。健康的じゃないですね」と笑うが、理由は明確で「作業をするうえで眠気を我慢しながらやるのは効率がよくないし、いいものも作れないですから」
眠気は大敵。酒も飲まない。
「お酒を飲むと、その日一日が終わった感じがしちゃう。夜中に急に、無性に作りたいと思うことがあり、実際に作業しています。作りたい、と思ったときに作れるような状態でいたいので飲みませんね」というこだわりからだ。
必ずしもというわけではないが、並行的に3作品ほどを同時に手がけるのが三井さんの流儀である。
「作品によって、淡々と作る作品もあれば、一気に仕上げる作品もある。細かい仕事もあれば体力仕事もある。その時々のテンションに合わせて3つぐらい同時にやるのが、混乱というよりはむしろ気分転換になる。理想的です」
仕事のとっかかりから納品までは「だいたい3~4か月」というのが制作スパン。「街のジオラマの発注を受けて、完成まで半年かかったことがあります。幅10メートル、奥行き1・5メートルぐらいでした」という手ごわい作品もこなしてきた。
LCPだからといって、ずっと何かを作っているわけではない。
「事務作業だったり取材対応だったり、ブロックに触れない日は意外に結構あったりします。1か月のうち前半は触らないけど、後半は触るという月もあります。ブロックをいじらないと落ち着かないということはないですね、常に忘れることはないので」としながらも、職業病的な感覚にはしょっちゅう見舞われる。
「ものを見ると、ブロックでどう作れるかなと考えている自分がいます。街を歩いていても必ず考えちゃいますね。映画を見るときもワンシーンごとのカット割りの構図を意識して見ていたり、何をしてもレゴに結びつきます」
眠くなったら眠るという創作パターンも、締め切り間近になると様子が一変する。
「締め切り前、30時間ぶっ続けでやったことが、何回かありますよ。丸1日以上、チョコレートだけを食べながら。コツコツやり続ける忍耐力は、レゴビルダーには必要だと思います。体力仕事なので、肉はよく食べますね」
寝食を忘れて、一心不乱にレゴ ブロックを積み上げる三井さんは、大きなヘッドホンで耳をふさぐ。流れているのはヘビーメタルのナンバーだ。
「キルスウィッチ・エンゲイジやアマランスといった海外のバンドをよく聴きます。リズムよく組むことが多いので、私の場合はヘビメタを聴きながらがノレますね」
パソコンを使わず頭の中に作品の完成図が
世界各国のLCPと三井さんの間で、レゴ ブロックの作り方には決定的な違いがある。パソコンとの関わり方だ。
「部分的にしかパソコンを使わない人はいらっしゃるんですけど、大半の方は使っている。海外の工房は巨大化していて、プロとして依頼される作品は、ある程度巨大さを求められる。高さ、幅が10メートルサイズのものを作っているビルダーは大勢います。大人数で組み立てるためには、共通の設計図が必要ですから、パソコンで設計するようになります」
世界の主流に背を向けるかのように、三井さんはパソコンを使わない。手描きでスケッチを描く程度で、あとは頭の中で3Dの完成図を練り上げる。よって大人数のユニットは組めない。1人のアシスタントが三井さんを支える。
「設計図を作らない形でやっているので、クオリティーコントロールは2人でしかできない。こういう形で作ろう、というコンセプトだけを共有してやっている」
5年前から組んでいる相方とのやりとりは、まさに日本的な、あうんの呼吸といえる。
「日本で最も腕が立つビルダーの1人で、転職するという話を聞きつけて、ヘッドハンティング的にお願いしました。ビルダーの腕というのは、自分が表現したいものがちゃんとあるのか、それを表現するだけのスキルがあるのか、自分の作風というものをしっかり表現できるのか、といったものです。彼のすごいところは、自分の作風がありながらも、私の作風に寄せることができること。アシスタントのスキルとしてはかなり完璧。それは技術力に余裕があるから。馬力のあるエンジンを積んでいるから余裕を持った運転ができる感じです」
前出『レゴジャパン』の橋本さんも「頭の中で作られるので、空間認識能力、把握能力がすごい。時間とサイズ感をはじき出せる」と舌を巻く。
三井さんとの交流も深い、神奈川・川崎市で特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人白山福祉会・事業部長の高橋得法さん(51)も「空間認識がすごいなと思いましたね」という出来事を明かす。
「2014年4月に特別養護老人ホーム『ラスール麻生』を開設した際、『三井淳平アートミュージアム』を設けました。子どもから高齢者まで万人が楽しめるものはないかと考えたところ、“地域交流のためにレゴだ!”と。交流スペースにレゴ作品を展示しましたら、開設日に800人が来場して、狙いはどんぴしゃりでした」と振り返る高橋さんは、いくつか作品を発注した過程で、次のようなことがあったと話す。
「伊藤若冲の『鳥獣花木図屏風』をほぼ原寸大、高さ約2メートル、幅10メートルで作ってもらいました。枠を作る際、設計の方がパソコンを使っているんですが、三井さんは感覚で、あと何ミリ上にとか横にとか指示を出す。それが設計したものとピッタリなんです。驚きました」
三井さんの頭で設計し、その場で組み上げ方を選び取るライブ感、アナログ感が、どうやらこの先、大いに味方となっていく兆しがある。
近頃、チャットGPTなどの登場により生成AIの是非が世界中で取り沙汰されているが、「7、8年前から意識していました」と三井さんは自らの見通しに自信を深める。
「パソコンで設計すると画一的な設計になりがちだった。どうしても似たような作品になり、表現することが飛ばされてしまうというか。この先、AIと競う時代になったときに、違いを出すことがますます難しくなる。できるだけパソコンを使わない方法を模索したのはそのためでもありました」
ボストン美術館から作品展示のオファー
仕事に対し、どんな発注も受注できる態勢を整えておくことが三井さんの流儀だ。「どちらかっていうと、やるべきことをやっていれば、チャンスがいずれ来るだろうと考えています。自分から積極的にチャンスを狙いに行くというより、チャンスのためにしっかりと準備をしておくという考え方ですね」
今年、意外なチャンスが2つ舞い込んだ。両者とも、三井さんでなければ成立しない、必然的なオーダーだった。
現在、米ボストン美術館で開催されている『北斎:インスピレーションと影響力』(7月16日まで。その後シアトル美術館を巡回)に、北斎の版画『神奈川沖浪裏』のレゴ作品が展示されている。
「アメリカの美術館で自分の作品を飾りたいと、前々から思っていた。キュレーターの方が直接メールをくださって、ピンポイントで名指しで選んでいただいた」とチャンスの到来に静かに小躍りした。
大阪・梅田の商業施設『阪急三番街』北館1階『HANKYU BRICK MUSEUM』に展示されている同作品をボストン美術館に貸与。今年3月、『阪急阪神不動産株式会社』が発表したリリースには《躍動感あふれる波しぶきにもこだわって精細に再現しており、浮世絵とは一味違った雰囲気を感じていただける作品になっています》と紹介されている。
1枚の手描きの設計図と、解像度の高い写真を手に、約3か月かけて同作品を組み上げた三井さんの頭には、波に関する知識も詰め込まれていた。
「波の専門家が見てもおかしいと指摘されないように、10メートルを超える巨大波がどのようなメカニズムでできているのか論文を4、5本読んで、それを考えながら表現していきました」という5万ピースの労作で、「直方体のレゴ ブロックを敷き詰めるだけでは均一な感じになってしまうので、波頭の部分に細かいカーブをつけたり、船に近い場所の波の大きさを変えたり、場所によって見た目の解像度を変えました。パソコンの設計だと見逃されがちなポイントだと思うので」と、らしさを込めたことに言及する。
三井さんはボストンのラジオ局『wbur』の取材に「激しく揺れる明るい青と白のレゴ ブロックの海に浮かぶ小さなレゴの船長のような気分になってほしい」と答え、いろんな角度から体感できるレゴ表現ならではの魅力を伝えている。
阪急阪神不動産広報は「『神奈川沖浪裏』は2020年12月11日に展示されました。それまでは地元にゆかりの場所がメインだったので、初めてのそれ以外の作品となり好評をいただいていました。現在、その作品があった場所には、『宝塚大劇場』が展示されています。ボストンから作品が戻ってきた際は、再展示をしたいと考えています」と、ひと回り成長を遂げての凱旋帰国に期待を寄せた。
「日本一のレゴマスター」を決める審査員に
5月27日にTBS系でスタートした新番組『レゴ マスターズJAPAN』(毎週土曜午後4時30分~※一部地域を除く)も、審査員に三井さんありき、でなければ成立しない案件だ。
「海外で番組が始まったときから、日本で実現するにはどうしたらいいんだろうね、ということがずっとテーブルにありました。日本でやることが夢でした」と前出『レゴジャパン』の橋本さんは、待ちに待った番組開始を喜ぶ。
世界18か国で放送されている人気番組の日本版だが、「他国の放送と大きく違うのは、作っているところを前面に押し出しているところ。そこにこそものづくり大国としてのいいところが出るんじゃないか。ペアで挑むので、意見の食い違いや仲のよさを表せればより面白くなる」と番組プロデューサーの麻生邦浩さん(42)は狙いを明かす。
「審査結果が未確定の部分がある大会ですので、進行台本は書けますが、どうなるかわからない。先が読めないヒリヒリハラハラはある」と心配もしたが、そんな懸念はあっという間に消え去った。
リモート審査を経て、20組40人のリアルオーディションを開催。その結果、12組24人(当初の予定は10組だったが三井さんたっての希望で2組追加合格)が選ばれた時点で、「日本一のレゴマスターを競う番組。スキルの高い出場者が選ばれたので、すごい作品ができる前提で始まっている。(出場者が制作する作品が)大コケすることはないですね」と、もう1人の番組プロデューサーの福濱和美さん(49)は確証を得た。自身もレゴ ブロックに親しんでいる環境で、「子どもがちょうど7歳の男の子で、一緒にレゴ ブロックをやっています。身近な題材に関わることができてよかった」と、制作者としての幸せをかみしめる。
MCにはももクロの百田夏菜
スタジオで、三井さんから「お題」が伝えられた“レゴ ブロック ビルダー”が250万ピースの中から、自分のイメージに合ったブロックを収集し、戦いの火ぶたが切られる。「お題」は流出しないように、限られた人数で厳重に管理される。
パソコン、タブレット、手描きのスケッチ等、設計図を練り、組み上げる様子を、固定やハンディなど10数台のカメラが捉える。MCに「ももいろクローバーZ」の百田夏菜子(28)、リポーターにお笑いコンビの「ザ・たっち」に「土佐兄弟」というレゴ好き芸能人をキャスティングできたことで、コメントの端々にレゴ愛をのせることに成功している。
制作のために与えられた時間は10時間に及ぶことがあるが、「“10時間ぶっ通しでできるんじゃないですか”とか、“どこで休憩入れましょうか”など、ビルダーの制作に関することは、『お題』をもとに三井さんと相談して決めます。インタビューでお声がけするのも“事前にこのタイミングでします”とお伝えして、それ以外にはいたしません。残り30分とか、アドレナリンが出ているタイミングは作ることに集中してもらいたいので」と麻生さん。
各組のできあがりを最初に目にした福濱さんは「想像を超えていた」と驚き、「何の説明書もなく『お題』だけで、人を驚かせるほどすごい仕上がり。本当にレゴ ブロックだけで作ったのか?と、いい意味でハプニングでしたね」と作品ファーストの番組ならではのよさをしみじみ感じたという。
収録中の三井さんは、各組の進捗具合をさりげなく見守りつつ、250万個のレゴ ブロックがあるバックピットで、レゴ ブロックのありかを案内したりしている。
その姿を、毎回収録に立ち会っている前出『レゴジャパン』の橋本さんは「本当に謙虚な方。いつも変わらない」とたたえる。こんな場面も目撃した。
「1回戦で脱落した参加者の方に、記念品をいくつか差し上げていたのですが、みなさんそれに、三井さんのサインをもらわれていた。レゴの神ですし、パイオニアですよね、日本人唯一ですから」
番組は全10回放送で、8月5日の放送で「日本一のレゴマスター」が決定する。優勝賞金は50万円だ。
「SNS上でも会社宛てにも、いい番組をやっているね、というプラスのご意見をいただいています。われわれとしては長くお付き合いしたいですね」と、麻生さんはセカンドシーズンへの期待を抱く。レゴジャパンの橋本さんも「素晴らしいスタートを切らせていただいた。希望としては続けたいですね」と両社の期待値は一致する。番組を見た子どもたちが、将来なりたい職業として「レゴ認定プロビルダー」を挙げる日が来るかもしれない。
息抜きの時間は息子とのレゴ ブロック
審査をしながら番組全体を見守る三井さんは「次のレゴ好きをつくるのは、大きな仕事。下の世代が育つことはワクワクします」と番組に参加できることを手放しで喜び、「すごい才能の子がいます。私が5、6年前にワークショップで教えていた子が成長して出ていました。私の子どものころとは比べられないくらいの成長速度で、私が大学生のときに作っていたレベルのものを小学生ぐらいで作っている」と脱帽する。
すべては、三井淳平さんというロールモデルがあるからこそ。三井さんが切り開いた道があるから、そこに新たな花が咲く。
1歳のときに、3歳上の兄と一緒に遊んだファーストレゴ体験。中学時代には自力でホームページを開設し、レゴ作品を発信した。私立灘高校時代には『TVチャンピオン』(テレビ東京系)の「第2回レゴブロック王選手権」に出場し準優勝。進学した東大では先輩らと5人でレゴ部を立ち上げ、大学祭で発表した「安田講堂」が大学当局に購入されるという栄誉に。レゴ ブロックを通した社会貢献が評価され、大学院修士時代に東京大学総長賞を受賞した。
大学のレゴ部はその後全国20校近くに広がり、母校・灘高LEGO同好会は30人近い熱心な会員を数える人気同好会に成長した。道なき道にレゴの種をまき続けている三井さんという生き方が、各地でレゴ製品のフラワーブーケのように色づいている。
目下、息抜きの時間は、4歳と2歳の息子と、一緒にレゴ ブロックに触れる時間。
「まだ触り始めて間もないですけど、うれしいですね。自分自身も1歳ぐらいから触っていたので」
と、笑顔を見せた三井さんは、「運のよさもあり、結果的にコンスタントにやるべきことをやってきただけ」とこれまでを謙遜するが、高みを目指す姿勢も崩さない。
「アートのジャンルは、ライフワークとして今後、本格的に手をつけたいと思っています。新作だけの個展をやることも、どこかのタイミングで考えたい。あとは、時間の使い方次第だと思います」
みんなを楽しませたい、ただ驚かせたい。三井さんは今日も、レゴ ブロックに命を吹き込んでいく─。
<取材・文/渡邉寧久>
わたなべ・ねいきゅう 演芸評論家・エンタメライター。文化庁芸術選奨、浅草芸能大賞などの選考委員を歴任。ビートたけしが名誉顧問の「江戸まちたいとう芸楽祭」(台東区主催)の実行委員長。東京新聞、デイリースポーツ、夕刊フジなどにコラム連載中。