絵本『あんぱんまん』は今年で誕生50周年。さらには映画&テレビアニメ化35周年。そんな特別な年に、間もなく公開を迎えるのは映画『それいけ! アンパンマン ロボリィとぽかぽかプレゼント』だ。
戸田恵子・アンパンマン声優の経緯
アニメのアンパンマンに、躍動する声を吹き込み続けているのは戸田恵子。そもそも35年前、どういった経緯でアンパンマンに?
「事務所から電話がありまして。“『それいけ! アンパンマン』のレギュラーに決まりました”と。私が“何の役ですか?”と質問したら“アンパンマンです”と」
当時30歳。声優としては『キャッツアイ』の来生瞳、『ゲゲゲの鬼太郎』の鬼太郎、『きかんしゃトーマス』のトーマス……など、すでに第一線で活躍していた。
「だけど、幼児対象番組のこういった丸いキャラクターは今までなかったですし。何ゆえ私なのか? ちょっと不思議な気持ちはしました」
全キャラクターにおいて声優オーディションが開催されたが、アンパンマン役だけが難航。戸田はオーディションに参加はしていなかった。
「俳優さんの宣材写真のように、私たち声優には“宣材テープ”というものがありまして。それを(原作者の)やなせたかし先生や監督が聞いてくださり“この人で行こう”と決まったと伺っています」
そんな白羽の矢が立って35年。“こんなに長く続くとは”としみじみと語る。
「アニメーションって半年か1年で完結する作品が多いので。2、3年やったときに、声優陣のみんなで“ちょっとすごいよね”と。5年くらいで“どれくらい続くんだろうね”。そして10年、20年、30年……。もはや誰も、逆に“いつまで続くんだろう?”と言わなくなりました」
アンパンマンは永遠。時間を重ねる中での覚悟が芽生えていた。テレビのアニメ放送は週1回。戸田ら声優陣も週に1度、アフレコの作業をずっと続けている。
「よく驚かれるんですが、35年続けていることですから。そのペースが身体に染み込んでいるので、そんなに大変じゃないんですよ(笑)」
朝にアンパンマン役をやって、昼は女優業、夜にはナレーション……なんて1日はザラ。そして35年という長い年月の中で、声がまったく変わらないことにも驚く。
人が喜ぶことをする“やなせイズム”を胸に
戸田自身もアンパンマンに救われた経験があるのだろうか?
「アンパンマンというか、原作者のやなせたかし先生の“やなせイズム”に、ですね。作品のあちこちに人間世界の縮図や生き方が描かれている。先生はよく“人が喜ぶことをしなさい”とおっしゃっていて、それを胸に刻んできました。見返りを要求せず、パワーダウンするとわかっていても自分の顔をちぎって提供するアンパンマン。そんな生き方をしていれば戦争もないし、人と諍うこともないですよね」
押しつけではない、無償の愛。
「それを伝える役を私たちは与えられた。どのお仕事も大切だけど、生まれてきた子どもたちの誰もが1回、ここを通っていく。そんな作品に出会えていることは特別だし、人生においてのビッグプレゼントだと思っています」
デビュー50周年惜しみなく丁寧に
16歳のときに演歌歌手としてデビュー。今年は戸田にとっても芸能生活50周年に当たる。今後の夢を尋ねてみると、
「“なんでもかんでも”という時代は私の中では過ぎていて。自分にはもう、あまり時間がないということを自覚しているんです。いろんなことに時間がかかるから、本当に丁寧にやっていかないといけない。
私はほとんど舞台で生きてきたので、やっぱりステージで還元していくことが理想ですね。お客様のダイレクトな反応の中でパフォーマンスすることが生きがいで、モチベーションなので。だから体力勝負。夢だと思っていたことでも、実現できることはあると思うので。惜しみなく丁寧にやっていきたいと思っています」
誠実でパワフルな言葉に、勇気がりんりんと湧いてくる――。
最新作の見どころは?
「“ぽかぽかプレゼント”という言葉に象徴されるとおり、アンパンマンはいつもその精神なんですよね。ロボリィ(声・桐谷美玲)は最初は温かな心を持ち合わせていないんですが、それを習得していく成長物語。劇中の歌も素晴らしいんです。
ぜひ、大人の方がお子様を劇場に連れていって、その醍醐味を体感させてあげてほしいです」