女性に多いアルツハイマーの原因は俺様夫にあり!?

 いまだ特効薬のない認知症。なんとか予防したいものだが、なんと夫の性格が妻のアルツハイマー型認知症の発症に影響する可能性があるという。認知症専門医として数多くの患者とその家族に接してきた長谷川嘉哉先生は、「アルツハイマー型認知症の妻に付き添って来院する夫には、ある特徴的なタイプが多い」と話す。

認知症の妻の夫にある特徴的な傾向が

認知症には種類があり、患者数の上位2つを占めるのがアルツハイマー型認知症(以下、アルツハイマー)と脳血管性認知症(以下、脳血管性)です。このうち、アルツハイマーの女性患者さんの夫に、自分だけが正しいと主張を譲らない独善的なタイプの夫、いわゆる“俺様夫”が多いのです」(長谷川先生、以下同)

 そもそも認知症全体の患者数は男性が多い。なかでも脳血管性の有病率は、男性が女性の1・9倍と倍近い。これは、脳血管性を招く脳梗塞や脳出血が男性に多く発症するからだ。

 一方、アルツハイマーは女性が多く、男性の1・4倍。アルツハイマーは、脳に徐々に老廃物がたまっていくことが原因であるため、どうしても平均寿命の長い女性がなりやすいが、そのリスクの高さに加えて、夫の“キャラ”も影響するというのだ。

「ちゃぶ台返し」を本当にやる俺様夫

 では、長谷川先生が度々目にする、“俺様気質”の夫とは、具体的にどのような特徴があるのだろうか。

「受付や看護師にも何かと苦情を言うなど、とにかく高圧的。診察室に入ってきても、すぐわかります。いきなり“ちゃんと予約時間に来たのに、ずいぶん待たされた。それについては、まず謝ってもらわなならん”とかね。何よりもあきれるのは、奥さんの目の前で、“こいつは生活習慣がいい加減だから認知症になんてなるんだ。その点俺はちゃんと……”と、自分の自慢話を始める夫の多いこと。困っている奥さんをいたわるどころか、責めるのです」

 家族に話を聞いていくと、こういった俺様夫の多くは怒ると食卓をひっくり返すこともあるとわかった。そういう例がこれまでに何人もいたと先生は話す。

「いわゆる“ちゃぶ台返し”ですが、マンガやドラマだけの話だと思っていたのに、現代日本でそんな夫が実在するとは驚きです。おそらく、奥さんに対しては、常に高圧的に接しているのだろうと容易に想像できます」

妻を「思考停止」状態に追い込む夫

 アルツハイマーの発症には加齢だけでなく、運動や睡眠、社会活動など生活習慣も複合的に影響するとされる。先生はそれらに加えて、日常的、長期的な精神的ストレスは、うつを招くだけでなく、認知機能にも悪影響を及ぼすと指摘する。

「アルツハイマーでは、記憶を司る海馬より先に、感情を司る扁桃核という部位が萎縮します。扁桃核と海馬は隣接していて、感情と記憶は密接な関係にある。扁桃核は感情によって刺激されるため、日常的に感情を押し殺すような思考停止状態が続くと萎縮してしまい、アルツハイマーの原因になるのです」

 俺様夫は妻をこの思考停止状態に追いつめているため、こういった夫を持つ妻はアルツハイマーになりやすいのではと先生は考える。

「自分の主張を譲れない、考えを押しつけるということは言い換えれば配偶者の思考を停止させているということ。いまの60代以降の奥さんは、亭主関白な夫でも、耐え続けている人がとても多い。夫が定年退職し、家に居続けるようになったら3度の飯を用意することを強要され、中には外出を制限されるケースも。そんな夫に怒らず、自分の感情を押し殺していることで、扁桃核が萎縮。アルツハイマーにさせているのではと思わず考えてしまいます

 先生は「これはデータや実験で論証できるものではないが」と前置きしつつ続ける。

「けれど、実際に“また、このタイプの夫”かと、私もスタッフも医療現場で出くわすのは事実です」

 このタイプには、妻の介護を一人で抱え込む傾向もある。家に他人を入れたくない、妻が認知症なんて恥ずかしいといった考えによるもので、子どもにも手を出させず介護サービスを拒否する夫も少なくないとか。

「私も“あなた一人がそうやって介護することが、奥さんにとって一番よくないんです”と夫にはっきり言ったこともあります」

夫の勝手を許さず妻も自己主張を!

「それはまさにウチの夫!」と思い当たったら、妻はどうすればいいのだろうか。

「やはり、ひどい自分勝手は許さず、妻も夫に言うべきことは主張できる関係を築くことが大切でしょう。そういう夫は、得てして大きな組織で、それなりの地位にあった人も多い。おそらく妻だけでなく、まわりも傍若無人を放置してきたのでしょうね。でも、このタイプは意外に、反論されると弱いところもある。あきらめず、話をしてみることが大事でしょう」

 でも、「いまさら夫に意見などできない」という妻も多いだろう。その場合は、息子や娘に代弁してもらっても。先生の経験では、夫には娘、妻には息子など、異性の子どもが働きかけたほうが、うまくいくことが多いという。

 先生は「本来は夫婦が対等な関係を築くには、30代、40代から心がけるべき」だが、「50代、60代でも子どもの独立や、夫の定年退職などの節目を機に家事を分担するなどして、夫婦関係を見直すといい」とアドバイスする。

夫と距離を保ちお互いに自立を

 では、もし夫に何を言っても変わらないようなら?

「なるべく夫といる時間を少なくしてストレスを減らすこと。妻自身も意識して自分の時間をつくることも大切です」

 妻も主体的に自分の趣味を持ったり、友人と旅行に出かけたりするとよい。「夫の世話があるから旅行できない」などという思い込みは危険だ。

 妻も好きなことをして、扁桃核が楽しい感情で刺激され、海馬もよい記憶で満たされれば、脳の老化を遅らせることができるというわけだ。

 先生は「“俺様夫”の問題は、自分の楽しみは二の次に夫に従属してきた妻が招いていることも」と注意を促す。

「夫婦で依存し合わず、独立した存在として尊重することが第一。外来にみえるある90代のご夫婦は、認知症にもならずお元気。秘訣をお聞きすると、“ウチの夫婦は、自分は自分、あんたはあんただから”とのこと。名言ですね」

教えてくれたのは長谷川嘉哉(よしや)先生

認知症専門医・長谷川嘉哉(よしや)先生

認知症専門医。祖父が認知症であった経験から、2000年に認知症専門外来、土岐内科クリニックを岐阜県土岐市に開業。患者家族の立場に立った医療を志し、YouTube「ボケ日和 転ばぬ先の知恵」でも情報を発信。著書『ボケ日和―わが家に認知症がやって来た!どうする?どうなる?』(かんき出版)も好評。

<取材・文/志賀桂子>

 

アルツハイマー予防の心得3か条

 

MCI(MCIは、正常な状態と認知症の中間)を早期発見するためのチェックリスト。3つ以上当てはまったら疑いアリ(イラスト/上田英津子)

 

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