さいたま市のプールで女児の身体を触ったとして、今年4月にスイミングクラブの男性コーチが逮捕された。このわいせつ事件についての処分が6月15日に言い渡され、男性コーチは不起訴となった。その理由は明らかにされていない。
この前日、東京でも弁護士事務所に就職が内定していた女子大生に対して、わいせつ行為をしたとして逮捕されていた弁護士が不起訴処分に。世間を騒がせたわいせつ事件でも、起訴にならずに示談、不起訴になっている事例が多い印象だ。犯罪を犯しても、起訴されなければ「前科」はつかない。SNS上では、
「これでは犯罪のやり得ではないか」
などという声も上がっている。だが、わいせつ事件には難しい側面があると『アトム市川船橋法律事務所』の高橋裕樹弁護士が説明してくれた。
被害者が“供述”しなければならない
「まず被害者が年少者の場合、自身がわいせつ行為をされた状況についてちゃんと供述ができるか、ということがあります。また、起訴されて裁判になった場合、年端もいかない子どもを法廷に引っ張り出すのか、という点も問題視されます」
このケースは、冒頭で触れたさいたま市の女児の事件が当てはまる。だが、弁護士事務所でわいせつ行為をされた女子大生の場合は? この年齢ならば、供述もしっかりできると思うのだが─。
「確かに話すことはできるでしょう。でも自分がされたことを、もう1回話さなければならないという負担は大きいと思います。警察でも根掘り葉掘り聞かれ、ある意味、心ない言葉を口にされることも少なくないですから」(高橋弁護士、以下同)
わいせつ事件では確固たる証拠がなく、供述に頼るしかないことが不起訴になる要因のひとつになっているという。
相手と同じ「リング」に立つ覚悟
「防犯カメラにわいせつ行為をしていることが、しっかり映っていれば供述に頼らなくても相手の行為を立証できます。でも、わざわざカメラの前でそんなことをする人はまずいません。
一緒に歩いているところが映っているとか、ビルの中に入っていったという間接的な証拠にはなりますが、結局はそこでどんな行為をされたのかを被害者は話さなければなりません」
自分がされた、思い出したくもない行為を自らの口で供述するのは確かに精神的な負担が大きい。
しかし、不起訴となれば犯人を許せない、罰してほしいと思う被害者の感情はどうなるのか。
「処罰を求めるということは、相手と同じ“リング”に上がることになります。第三者がいる法廷の場で、自分がされたことを話す。ある程度、自分も殴られる覚悟やリスクをわかった上で、裁判という場に臨まなければいけないんです。
こういった理由により不起訴が多くなっているのだと思います。被害者側からすれば、処罰をしてほしいけれど、自分がまたイヤな思いをしたくない、という気持ちが上回ってしまうのでしょう」
被害者が再び傷つくリスクと、犯罪者を罰することが天秤にかけられる。被害者がこれ以上イヤな思いをしないための最善策が「示談」だというが、根本的な解決には程遠い─。
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