暑さが本格化するなか、エアコンの取り付け工事業者が最繁忙期を迎えている。一般社団法人日本冷凍空調工業会の統計によると、2023年5月度の家庭用エアコン国内出荷台数は84万9199台で、前年比の105.7%。
エアコン取り付け工事のピーク
この先6~7月には出荷のピークを迎え、例年どおりの推移でいけば5月度の1.6倍~2倍近くまで伸びることが予想される。さらに今年は、6月からの電気料金値上げの影響もあり、省エネタイプのエアコンへの買い替え需要も増加。
エアコン設置工事の予約も全国的に殺到しており、2週間以上の「設置工事待ち」となるケースもあるようだ。
「6~8月は、エアコンの取り付け業者はどこも超多忙です。うちでは、年間の売り上げの4割くらいがこの夏場に立つほどで、1日に3~4軒のお宅を回ることもザラにあります。
身体が資本の仕事でもあるので、ぎっくり腰など、ケガや体調管理には特に気を使う時期ですね」
そう語るのは、静岡県富士市でエアコン取り付けサービス業を営む、フジエアーテクノ代表の鈴木英利さん。
自身のYouTubeチャンネル「エアコン工事 ひでさんエアテクチャンネル」では、エアコン工事の解説や工具紹介などの動画をアップし、登録者数4.28万人を誇る“空調系ユーチューバー”としても人気を博している。
「当初は一般の方向けにエアコン工事のサービス紹介をしていくつもりでした。ただ、同業の方からの反響も予想外に大きく、視聴者の7割くらいは同業の方なのかなとも感じますね。
現在は日頃の工事事例の紹介をメインに、ちょっとしたトラブルなどの話も交えながら、エアコンに関する幅広い情報を取り上げています」(鈴木さん、以下同)
エアコン工事の最繁忙期ともなると、ずさんな工事事例や悪質な業者とのトラブルなども増えてくる。
ネット上では「予約していた時間になっても工事の方が来ず、連絡すらとれなかった」といった投稿や、「素人目にも危険だとわかる脚立の使い方をしていて心配になった」などの経験談も。
国民生活センターには、エアコン落下事故などの施工ミスや、金銭トラブルについての相談事例も多い。
「エアコンの付け替え工事を請け負った際、前に作業をした業者のずさんな施工の跡を見つけたりすることも、まれにですがありますね。
繁忙期だからこそ、予約を詰め込みすぎて1件あたりの作業を簡略化する業者も中にはいるようですし、意図的ではないとしても、作業者の経験や技量不足により雑な工事になってしまっているものも多いです」
一般の人は、エアコンを買い替えたり、設置工事に接する機会はそう多くはない。そこで今回、エアコン工事で起こりうるトラブルや、ちょっとした疑問などについて、鈴木さんにお話を伺った。
まず気になったのは、エアコン工事の「質」について。作業がうまい業者と下手な業者では、仕上がりにどのような差が出てくるのだろうか。
「ずさんな工事になるとエアコン自体の落下事故や、配管からの水漏れ、結露なども起こりえます。また、冷媒ガスが漏れてエアコンが効かなかったり、配管の化粧カバーが曲がっていて外観を損ねたりということも。
さらには、外壁に配管穴を開ける際、柱を補強している“筋交い”を傷つけてしまい、家の強度や耐震性能が劣化するといった施工ミスも考えられますね」
なかには、重大な施工ミスとは言わないまでも、悪質な手抜き工事の痕跡も……。
「きちんと水平を測らずに目分量で設置したのか、エアコンが明らかに斜めに取り付けられていたという現場もありますし、見える部分はきれいに施工されているのに、隠れた配管穴のまわりに作業で出たゴミがぎっちり詰め込まれているといったケースも。見えない部分とはいえ、さすがにひどいなと思いましたね……」
では、優良な業者と悪質な業者を見分ける方法はあるのだろうか。工事予約の際に見ておくポイントを聞いた。
「実は、エアコン取り付け自体に必要な資格は特にはありません。ただ、付随するコンセント工事や配線に関する作業は電気工事士の資格が必要ですし、管工事施工管理技士や冷凍空調機器施工技能士といった国家資格もあります。
きちんとした資格を持っている業者はホームページなどに記載しているはずなので、その点を確認することは大事ですね。また、作業者の経験や技量も重要なので、顔や名前をきちんと出しているか、過去の実績や営業年数、何かあったときに補償があるかといった点も確認しましょう」
業者泣かせの顧客トラブルも!?
物理的な施工トラブル以外に、業者と顧客のあいだではコミュニケーション上のいざこざも起こりうる。
「その日の作業工程や予約状況によっては、工事に伺う時間が前後してしまうことも当然ありますし、予定外の作業が追加で必要となって見積もりから金額が変わってしまうこともあります。
もちろん、そういった可能性はきちんと事前説明するように心がけているので、そこで大きなトラブルに発展したことはほとんどありません。
ただ、小売店を通して発注される下請けの業者さんなど、お客さんと間接的なやりとりになってしまう場合は、当然連絡ミスなどが起こる可能性も増えてしまうのかなと思いますね」
過去には、顧客側からの無断キャンセルという業者泣かせな事例もあったという。
「予約されていた工事当日にお宅に伺ったところ、誰もいないといったことがありました。急用などの理由で事前に連絡があればまだいいのですが、こちらから電話を入れたところ“そもそもエアコン工事を頼んでいません”と言われてしまい……。
どうやら、うちを予約したまま別の業者さんにも相見積もりをとり、その業者さんが先に工事を済ませたようでした。うちへの予約をキャンセルするのを忘れていて、慌てて嘘をついてしまったようですね(笑)」
数々の現場をこなすなかでは、作業中にヒヤリとする場面も。最も多いのは、お子さんやペットの接近だという。
「脚立などの高所作業もありますし、さらに腰道具をつけているので、小さなお子さんやペットが急に死角に入ってきたときなど、ぶつかったりしないかドキッとすることは多いですね。
脚立の真下で作業を見たいというお子さんもいますが、道具などが落下してしまうとケガにつながり大変危険なので、遠くから見ていただくようお願いします」
お客の気遣いは不要?
また、困ってしまう“あるある”の筆頭が、お客さん側からの手伝いの申し出だ。
「脚立を支えてくれたり、工具を取ってくれたり、エアコンや室外機を一緒に運ぼうとしてくれる親切なお客さんも多いです。
ただ、万一の事故やケガにつながってしまうおそれもありますので、お気持ちだけ頂戴し、あとは離れた場所から見守っていただくのがいちばんありがたいですね」
一方、「工事の立ち会いのときに何をしていればいいのかわからず気まずい」「お茶やお菓子は出したほうがいいの?」というお客さん側のちょっとした悩みの声も。
「皆さん、基本的には別室や離れたところで自由に過ごされています。なかには“あとはお任せします~”なんて言って外出してしまう方もいらっしゃいますね(笑)。
信頼していただけるのはうれしいのですが、ちょっとした確認などが必要になることもありますので、できればいつでも声をかけられる場所にいていただけると安心できます」
お茶やお菓子の差し入れも気遣い自体はうれしいようだ。
「凍らせたペットボトルのドリンクなどを頂くこともあり、高温になる室内での作業中にはありがたいですね。
昔、高齢の奥様から常温の牛乳を出されたときには少し困惑しましたが(笑)、基本的には“お気遣いなく”というスタンスの業者さんが多いのではないかと思います」
これから暑さが盛りになるなか、エアコンが活躍する機会もますます増えてくる。
「省エネや電気代の節約ももちろん大事ですが、何より暑い夏を快適に過ごすためのエアコンです。上手に活用していただけたら、エアコン業者冥利に尽きますね(笑)」
エアコンの稼働が本格化する前に、まずは試運転とフィルター掃除、室外機まわりの片づけを忘れずに。
工事業者の選び方のポイント
1.ホームページなどの自己紹介をチェック
2.電気工事士などの資格を持っているか
3.保険加入など万一に備えているか
ホームページで顔写真入りで紹介されているところは信用度が高まる。過去実績の口コミや見積もり時の対応などもチェックしたい
(取材・文/吉信 武)