「1980年代と比べると、飲酒をする女性は確実に増えています。また同時に、アルコール依存症になる女性も増加しています」
そう語るのは、アルコール依存症の専門治療を得意分野としているさくらの木クリニック秋葉原院長の倉持穣先生。
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「厚生労働省の基準では、週に3日以上飲酒(1日あたり20g以上)することを『習慣飲酒』(※)と定義しています。1986年では成人女性のうち習慣飲酒者は5.3%でしたが、2018年には8.3%に増えており、中でも40代、50代で増加しています。※1日あたりの純アルコール量20g以上
さらに、生活習慣病のリスクを高める危険な飲酒(※)の習慣を持つ女性の割合は、2010年の7.5%から2018年には9.1%となっています。※1日あたり純アルコール量男性40g以上、女性20g以上
男性は若年層を中心に減少傾向にあるのに対して、女性は40代から70代で増えていて、特に50代、60代で顕著に急増しています」
アルコール依存症の疑いがある女性の割合も増えており、今後も、さらに増加すると予測されている。アルコール依存症について、倉持先生は次のように解説する。
「アルコール依存=毎日飲んでいる人ではないんです。アルコール依存とは“飲酒コントロール障害”で、イメージとしては飲酒ブレーキという機能が壊れた車。アルコールは、実は大麻よりも強い依存性のある薬物なんです。
そのため、依存が進行した場合、1度飲みはじめると飲酒量をコントロールできなくなり、しばしば大量飲酒となってしまうのです」
なぜ近年、女性のアルコール依存症が増えているのだろうか。
「いくつかの要因が考えられますが、まず、女性の社会進出にともなって飲酒の機会が増えたことが挙げられます。また、女性の飲酒に対する暗いイメージがなくなり、現代の女性は女子会やママ友会などで明るく楽しくお酒を飲むようになりました。
さらに、グルメブームやワインブームによって女性が気軽に入店できるオシャレな雰囲気のお店が増えました。お酒のCMに人気女優などが起用され、女性が飲みやすいお酒が続々と登場していることも要因のひとつです」
現代女性の多忙な生活もアルコール依存症の原因として挙げられる。
「仕事や家事、子どもの世話、実親や義理の親の介護、地域での役割、親戚間での役割など、いまだに男性中心の社会の中で、女性は“多重役割”を担わなければならないことがほとんどです。
忙しい日常から現実逃避するために飲酒をすることが、アルコール依存症につながっていきます」
倉持先生いわく、女性は体質的に男性よりもアルコール依存症になりやすいそうだ。
「女性は男性に比べてアルコールが浸透しにくい脂肪組織の比率が高く、体内の水分量も少ないんです。そのため、男性と同じ量のアルコールを飲んでも、男性よりも血中のアルコール濃度が上がりやすくなります。
特に40代以降の女性は、夫婦関係や家族、子ども、嫁姑、仕事の問題などのストレスを抱えやすい世代。結果、飲酒量と飲酒頻度が増え、短期間でアルコール依存症のレベルまで進行してしまうことが多い傾向にあります」
アルコール摂取で乳がんリスクが高まる
倉持先生は、女性のアルコール依存症には男性よりも深刻な側面があると話す。
「アルコールが肝臓に負担をかけることは知られていますが、女性は男性よりも短期間でアルコール性肝硬変になりやすいんです。肝臓は沈黙の臓器とも呼ばれており、目立った自覚症状がないまま肝硬変から肝臓がんへと進行していきます。
また、膵臓(すいぞう)に急性の炎症を起こす急性膵炎の2大原因のひとつがアルコールです。膵臓の正常な細胞が壊れる慢性膵炎は、全体のうち70%をアルコール性慢性膵炎が占めています。
慢性膵炎の患者さんは男性のほうが多いものの、女性はより少量のアルコールとより短い飲酒期間で膵炎を発症するため、注意が必要です」
年々、罹患者が増えている乳がんにもアルコールが関与しているという。
「約5万人の日本人女性を対象にした大規模調査によって、週に150g以上エタノール(アルコールの一種)を飲酒するグループは、飲んだことがないグループに比べて乳がんリスクが1.75倍(約75%)も高いことがわかっています」
ほかにも、過剰なアルコールの摂取は骨粗鬆(こつそしょう)症のリスクを高め、将来的に骨折のリスクが高まることも判明している。
お酒別の1日の適正量(男性20g ※女性はその半量程度)
ビール……500ml
日本酒……1合
ウイスキー……ダブル(約60ml)
赤ワイン……ボトル(780ml)1/4本
適度な飲酒量は1日平均純アルコール量(量〈ml〉×濃度〈%/100〉×0.8)で男性20g程度、女性は10g程度
節度を持ってお酒と上手に付き合う
では、お酒と上手に付き合うためにはどうすればいいのだろう。
「まずは、“アルコール依存症は誰でもなりうる疾患であり、決して他人事ではない”と理解することが大切。そのうえで、次のような減酒目標やルールを作ってみてください」
1. グラム数を意識して飲む
「1日の飲酒量は20gまで」「1週間で100gまで」など。
2. 漠然と飲酒しないルールを作る
「休肝日を週に〇日作る」「平日は飲まない」「19時までは飲まない」「寝酒はしない」「減酒日記をつける」など。
3. アルコール量を少なくする工夫
「ノンアルコール飲料や炭酸水を飲む」「ストロング系は飲まない」「食べながら飲む」「高価なお酒を味わって飲む」など。
4. 飲み会で失敗しない工夫をする
「2次会には行かない」「飲み放題やフリードリンクの店には行かない」「1杯飲んだらチェイサーを挟む」など。
さらに、お酒に過度に頼らない新しい趣味や生き方をすることも大事、と倉持先生。
「お酒は飲まないに越したことはないのですが、人によっては人生を彩るスパイスであり、楽しみでもあります。自分なりの方法で節度を持って付き合っていけるといいですね」
あなたの飲み方は大丈夫?簡単セルフチェック
Q1.アルコール含有飲料をどのくらいの頻度で飲む?
0:飲まない
1:1か月に1度以下
2:1か月に2~4度
3:1週に2~3度
4:1週に4度以上
Q2.1回の飲酒で通常どのくらいの量を飲む?
0:1~2ドリンク
1:3~4ドリンク
2:5~6ドリンク
3:7~9ドリンク
4:10ドリンク以上
(※1ドリンク=10g)
Q3.1度に6ドリンク以上飲酒することがどのくらいの頻度である?
0:ない
1:1か月に1度未満
2:1か月に1度
3:1週に1度
4:毎日あるいはほとんど毎日
各選択肢の答えの数を足す。合計が、男性6点以上、女性4点以上でアルコール使用障害が疑われる
「出勤前や仕事中にも飲酒。いまは一生断酒の覚悟」
職場の人間関係や、孤独感を募らせた結婚生活などがきっかけとなり20代から毎晩、多量の飲酒が習慣化していったという渡邊すみれさん(56歳)。
その後、離婚、再婚、出産などを経ても飲酒はやめられず、24時間お酒が抜けない状態になっていく。出勤前や勤務中にも隠れて飲むなど仕事にも支障が出るようになり、身体を壊して入退院を繰り返すように。
そんな彼女が断酒を決意したのは、離脱症状(※)で死にそうになったことと、飲むと頭痛や気持ち悪さを覚えるようになったことから。また、倉持先生との出会いも大きかったという。
※依存性のある薬物などの反復使用を中止することで起こる病的な症状のこと『今日から減酒! お酒を減らすと人生がみえてくる』(倉持穣著/主婦の友社)より引用・改変
何度か挫折を繰り返しながらも、定期的に断酒会に参加し、45歳で飲酒生活に終わりを告げた。現在は山登りや絵本の読み聞かせボランティア活動などで充実した毎日を送っている。
(取材・文/熊谷あづさ)