「ジェネリック医薬品は、特許切れになった『先発医薬品(以下、新薬)』と同じ成分を使い、同等の効果が得られるとされている薬です。それでいて新薬より価格が安いのも特徴です」そう話すのは、新潟大学名誉教授の岡田正彦先生。
全貌が見えないジェネリック医薬品
「新薬の開発には、長い年月と莫大な費用がかかるため、特許を取得した製薬会社は20~25年のあいだ、その薬の特許を独占できます。特許期間が終わると、ほかの製薬会社も、その薬と同じ有効成分を使用した医薬品の製造・販売が可能になり、ジェネリック医薬品が作られるのです。
医師の多くは、薬を処方する際の電子カルテ上で、“新薬、後発品(ジェネリック医薬品)、どちらを服用しても良い”という設定をデフォルト(初期設定)にしています。医師があえて新薬を選択しない限り、患者さんが院外薬局の窓口でどちらかを選ぶことになる。その際、値段を基準にしてジェネリック医薬品を選ぶ人が少なくないです」
確かにこのご時世では、ジェネリック医薬品を選んで家計の負担を減らすのはひとつの節約術となる。
岡田先生もジェネリック医薬品のメリットは、多くの人が手にしやすい価格にある、としながら「自分ならば、ジェネリック医薬品はのまない」と断言する。
「薬を“安さ”だけで選ぶのは考えものです。ジェネリック医薬品は『新薬と効き目や安全性が同等である』と証明された薬ですが、そもそも新薬でさえも薬の効果や安全性を証明するのは非常に難しいんです。服用を数年間、続けてから副作用が表れるケースも珍しくありません。また、ジェネリック医薬品と新薬は主成分が同じでも、製造工程や添加物が異なるので“寸分たがわず同じもの”ではない点も、留意してほしいです」
“同じ薬”ではないため、新薬とは異なる副作用が表れる可能性もあるというのだ。
ジェネリック医薬品メーカーの不正も問題に
そして「新薬とジェネリック医薬品は、どちらを選ぶべきか?」という問いには「わからない」と答えるほかない、と岡田先生。
「私自身、医薬品に関する研究や科学的検証に長年取り組んでいますが、答えは出せていません。ジェネリック医薬品関連の論文も国内外問わず目を通してきましたが、追跡調査が短期間で終了しているものや、対象者数が極端に少ない論文もあり、玉石混交。医師自身も判断ができないため、患者さんに選択を委ねているのが、医療現場の実情なのです」
一般人はもちろん、薬剤師や医師でさえも、ジェネリック医薬品が抱えるリスクを把握できない状況にあるようだ。なぜ、そのような事態に陥っているのだろうか?
「原因のひとつとして考えられるのは、薬の価格の安さです。薬の価格は『薬価』と呼ばれ、新薬、ジェネリック医薬品共に、2年に一度のタイミングで国が価格を改定します。薬価は流通がスタートした時期がもっとも高く、年を経るごとに価格が引き下げられていく仕組みです。同じ効果が得られる薬でも1錠140円の薬もあれば、1錠6円の薬もあり、その値段は科学的根拠の有無や安全性に基づくものでなく、時間の経過によって決められているのです。長く服用されてきてエビデンスが蓄積されているはずの薬のほうが安くなるので、メーカーが利益を追求するほど、そうした薬は流通しにくくなります」
メーカーにとって、安い薬は輸送費などがかさむため、作れば作るほど赤字になってしまう。製薬会社は、企業同士の競争ではなく、国の方針によって窮地に立たされているのだ。
そして、こうした状況が、ジェネリック医薬品メーカーの不祥事を招いている、と岡田先生。直近では、2020年末にジェネリック医薬品メーカー・小林化工が製造していた水虫の治療薬に、含まれるはずのない“睡眠導入剤”の成分が混入していた。この薬を服用した245人の患者に強い眠気や、意識消失などの健康被害が報告され、同社には業務停止と改善の命令が下された。
「今、日本の厚生労働省が承認しているジェネリック医薬品は9054品目あります。もちろん、承認に必要な要件を満たしたうえで製造販売しているはずですが、なかには品質検査を行わずに結果を捏造したデータを申請に使ったり、国に承認されていない添加物を使用したりといった“不正”を行う製薬会社が一定数存在しているのも事実です」
こうした不正をなくすには、ジェネリック医薬品の価格を上げる必要があるだろう、と岡田先生は話す。
「ジェネリック医薬品すべてが粗悪なわけではなく、なかには優れた薬もあるはずです。しかし、先述のとおり、種類が9000超もあるので、それらを一つひとつ調べていくのは不可能。ジェネリック医薬品が抱えている課題が解決されない限り、安心して服用するのは難しいですよね」
信頼に足る根拠がないことが、岡田先生がジェネリック医薬品をのまない理由なのだ。
薬で悩む前に薬に頼らない生活を
実は、薬の質だけでなく、流通面でも問題が起きている、と岡田先生。
「3年前から、新薬、ジェネリック医薬品共に不足が続いています。先述のジェネリック医薬品メーカーの不祥事による製造停止だけでなく、コロナ禍やウクライナ侵攻の影響で原材料の輸入が大幅に滞っているのです。特にジェネリック医薬品は7割ほどがインドや中国の工場で作られていたり、原材料の輸入に頼っていたりするので、大きなダメージを受けています」
新薬かジェネリックかを選ぶ以前に、そもそも“薬が手に入りにくい状況”に陥っているのだ。そして岡田先生は「これを機に薬との関係を見直してほしい」と話す。
「現代人は薬をのみすぎている、と指摘されており、私も臨床の現場でそれを実感しています。当然、薬の服用が必要な疾患もありますが、人によっては身体の負担になっているケースも。特に高血圧のような生活習慣病は、食事療法や運動の習慣化で快方に向かう可能性が十分にあります。主治医との相談は必須ですが、生活習慣を改善して薬に頼らない生活を送ることも諦めないでください」
健康的な日々は、何にも勝る“特効薬”なのだ。
お話を伺ったのは…岡田正彦先生
医学博士。1972年、新潟大学医学部を卒業。2012年より同大名誉教授。予防医療学を専門とし、長年、薬品やがん検診に関する捏造データの科学的検証を行う。『医者が教える「家族に飲ませない薬」』(PHP)など、著書多数。
取材・文/大貫未来(清談社)