「小児科はどこも逼迫している状況です。肺炎を起こした子どもが入院できず、自宅療養せざるをえなかったこともあります」
そう話すのは医療法人社団育心会理事長・小児科医の三井俊賢氏。5月上旬より新型コロナが5類感染症に移行した時期から、インフルエンザやRSウイルス感染症、ヘルパンギーナの症状を訴える子どもが増加。病院でなかなか診てもらえないといった深刻な事態も生じている。
「乳幼児でのコロナ感染は多くありませんが、その他の感染症が流行しています。ここ2か月で増えているヘルパンギーナは、主にコクサッキーウイルスが原因で風邪症状が起こり、夏に多く見られます。高熱と咽頭痛、口の中の水疱や口内炎が主な症状で、喉の痛みが強いため、食事や水分を受けつけなくなることから脱水症状を起こすこともあります」(三井氏、以下同)
呼吸器や心臓に既往症があると、感染が重症化
国立感染症研究所によると、ヘルパンギーナの報告数は過去5年間の平均と比べ、約3倍となっている。また、RSウイルス感染症に関しても同様に増加傾向だ。
「RSウイルスは2021年にも大流行したのですが、今年はその年と似た感染動向。これは、乳幼児に呼吸器感染症を引き起こすウイルスで、症状としては咳や鼻水などの軽いものから、重い肺炎までさまざまです」
RSウイルスに対して抗生剤は効かず、特効薬もないため、去痰薬などの対症療法、吸入・鼻水吸引などの補助的な治療が主になる。RSウイルスで注意したいのは乳幼児の感染。
「1歳以下の赤ちゃんは症状が悪化しやすい。特に予定日よりも早く生まれたり、呼吸器や心臓に既往症があると、感染が重症化するおそれがあります」
呼吸状態が悪い場合などは入院加療が必要なことも。乳幼児が感染して呼吸がゼイゼイしているようなら、すぐに医療機関に相談するべき。
2歳までにほぼ100%の子が感染する
RSウイルスは冬に流行するといわれていたが、異例の広がりとなっている。今、こうした感染症が増加する要因は感染対策の緩和にある。
「コロナ禍では人と接触する機会も少なく、感染予防もしっかりとしていたので、風邪にかかることが少ない状況。RSウイルスは生後1歳までに半数が、2歳までにほぼ100%の子が感染するといわれています。罹患して免疫を獲得していきますが、コロナ禍で免疫がない子どもが多い。感染対策が緩和された今、一気に感染拡大しているのかもしれません」
コロナも緩やかな増加傾向で“第9波”とも。沖縄県内では、今月25日までの1週間で病院に搬送された新型コロナの患者は157人と前週の約1・3倍に増え、感染が急拡大している。さまざまな感染症が流行する今、感染予防策は必要なのかもしれない。
「手洗いやうがい、マスクの着用などは予防策になります。タオルや食器を分けるなどは、家族内感染予防にも効果的です。お子さんが残した食事を、もったいないと食べることもあるかもしれませんが、そうしたことは避けたほうがいいでしょう」
RSウイルスは大人が感染しても症状が軽く、気づかずに感染を広げてしまう可能性も。また、ヘルパンギーナの場合は大人のほうが強く症状が出る傾向があり、治るまでの期間も長くなりがちだとか。
「発熱が続いたり、いつもと様子が違うと感じる場合は、ちゅうちょせずにかかりつけ医に相談してください」